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「Eye in the sky」言う英国映画と、邦副題「世界一安全な戦場の意味

2016.12.29 Thu
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「Eye in the sky」(訳 天空の目)と言う英国映画と、邦副題「世界一安全な戦場」の意味

恐るべき戦いが、天空を含む地球上で広く繰り広げられている事を、素人眼に分かるように見せる映画を見ました。
原作は「アラン リークマン」と言う作家の遺作の由、これをもとに「Guy Hibbert」と言う人物が脚本を書いていますが、これらの著作を可能ならしめている途方もない現実が、世界には実際に生じているようです。この中で、この映画は少なからず起きているかも知れない事案のひとつを取り上げているとの体裁を取っています。
(1) 以下、ラフにスケッチしてみましょう。

1) 主人公は女優「Hellen Mirren 」が演ずる英軍大佐です。実在の女性英軍将校をモデルにしたかどうかは分かりませんが、本来在るなら、このポストにいる大佐は男性のようで、そこは、この監督が「女性ならどう行動するか」を演じさせるため、この女を使うこととした様です。見事な主役で、体格の良い、繊細だが、貫禄がある女性司令官がスクリーンに登場していました。

その所在地はロンドンで、英常設統合司令部と呼ばれ、その部屋には、当人と情報部員の黒人男性伍長が居るだけで、あとは会議用スペースと、オペレーションや諸連絡のための機器・設備に電話などが置かれているだけでした。
2)  相手方を監視・追跡し、叩く実戦部隊は、 米軍が担っていました。ただ、英米の関係については説明がなく、所謂英米同盟の下、両国が特別の分担・連携の間柄にあると理解しました。米空軍所属と思われる部隊は、米国ネバダ州に在る基地内にあり、男性中尉と女性一等航空兵の二人がコンビを組んでいました。。二人は最新の装置を操作し、大型の無人機を飛ばしますが、指示を受ける立場に在り、決定権は無しです。この無人機は、飛ぶ人工知能というべきもので、巡航ミサイルなどによる攻撃機能を持っています。
3)  同じく米軍指揮下で、ハワイに画像解析班が一人居ました。女性でコンピュータを
駆使する役割でした。例えば、テロリストとおぼしき者が写れば、その画像を拡大、瞬時にデータを得て識別するのでした。
4) このケースでは、自爆工作員が若干名、幹部の指示で、ケニアのナイロビの隠れ家に集結したことが判明したため、それを監視する任務の現地工作員が居ました。工作用の所要現地通貨を相当持つ有能な黒人でしたが、ソマリア系の風貌をしていました。彼が操作する機器の中で驚くべものが幾つかありましたが、うち一つは美しく小さいハチドリに似せたドローンでした。 見慣れた四足型のタイプでは無く、目的物に充分接近、画像を送ってくるものでした。

もう一つは、かぶと虫型のドローンで、飛んで行って家中や室内に潜入、適当な箇所に留まって、撮影し、送信して来るものでした。ドローンとは近年登場してきた技術・装置ですが、この疑似ハチドリや疑似カブトムシを見ていると、世の中の「急速な進歩」と「必要が生み出すもの」に本当にびっくりします。
5)  司令と統制 : 文民統制の生きて来るところ

同時に接続・連絡し合っている、これらの各部隊などが、次々と登場し、諸場面が切り替わって、緊迫した物語が進行して行きます。それらは以上の如く、世界各地に散在しているのに、同時に認識し合って、将にお互い併存しているのです。映像の進行は同時に見えます。実際は、地球の大きさがありますから、電磁波の移動による時間差が生じているはずですが、感じさせません。或いは映画製作上、カットしているのかも知れませんね。

ただ、生じつつある大規模テロの現実に対処するのは、これらの軍・部隊だけではありません。司令官といえども決定・命令権は無いのです。
私はここに、この作品の核心があると思いました。
現に道中、統合司令部とは別に、国家緊急事態対策委員会なる組織がしばしば登場します。その所在はロンドンの別の場所ですが、其処は全員同室の会議室で、諸装置・機器はありませんが、皆机を寄せ合って座っていました。

其処には、制服組から英国国防副参謀長が居ました。ヘレン・ミレン司令官を指揮する
役割です。文民からは、閣外大臣一人とアフリカ担当の政務次官(女)一人が居ました。
通常の事案であれば、司令部から上がってくる指示要請に対し、三人の合議で事が決まって、対テロリストへの攻撃ないし捕獲などの司令が出されるのでしょう。 様子からすると、制服の副参謀長は、提案する役割でした。 これに対し、閣外大臣と政務次官は、明瞭に慎重論の見解を述べていました。軍人は提案できますが、判断権、決定権は無いのです。まず、ここで、文民統制が生きていました。大切なことです。

6)  自爆テロが大規模で緊急性在り。されど、予防攻撃すると民間人の子供を
巻き込む恐れあり。

ところが、例の「かぶと虫」から撮影された、隠れ家内の様子からすると、自爆工作員の数は、十名近くに及び、しかも、一人当たり十数発の小型爆弾を体に巻き付ける作業をしていました。これは大変な規模の自爆攻撃です。 見ていると、そのための集会と儀式、そして装着が終わったのです。

彼らは、状況から見て、間もなく決行に移る態勢でした。。急いで防がねばなりません。
ただ、捕獲部隊を急派すると言っても、とても間に合いません。斯くて、無人機によるミサイル攻撃が再度司令部から要請されてきました。

すると、緊急対策委員会では大論争が持ち上がります。攻撃の正当性と法的根拠などを巡って、激しい議論が戦わされました。結局、決着が付かず、シンガポール出張中の英国外相と、北京友好訪問中の米国務長官に緊急電話が掛けられ、対応が相談されます。

すったもんだの挙げ句、攻撃やむ無しの決断が、政治レベルで出ます。司令官の主張が通ったのです。

ところが、そのとき、ナイロビでは、攻撃目標の現場近くで、アフリカ人の女の子が出来上がったばかりのパンを、その隠れ家の前の通りへ持ってきて、机に並べ、売り始めたのです。上空の無人機からミサイルを撃てば、テロは予防できますが、その女の子は犠牲になるでしょう。

さて、どうなるか、どうするか。事態は振り出しに戻り、しかもハイライトを迎えます。果たして?  これは御自身で視認頂ければと思います。
7)  上記の他、幾つかの論点がありますので、コメントします。

一つはこうしたテロ対策、犯人や犯行幹部等の追求で、この映画に描かれるように、常にグローバルなスケールの対処が行われているのではないと言う事です。大半のケースでは、戦闘現場やその周辺で、現地レベルの取り組みが各々なされている由です。こうしたことを含め、懸かる事態が幸いほとんど無くて済んでいる日本は、平和であって、実に有り難いことと思います。
また、この作品のケースは、フィクションですが、英外相や米国務長官を巻き込む事態までになったのは、紛争地で無く、ケニアなどの英連邦に加盟する、英国の友好国で事案が起きたことと、無関係の民間人を巻き込む恐れがあったためと思われます。これは大事なポイントで、現下、日米両首脳の訪問で話題になっている真珠湾については、日本の開戦時の攻撃が軍事施設や戦闘員に限られたのに対し、広島や長崎への米国の原爆投下は、ほとんどが民間の市民を無差別に殺傷したことの違いが指摘されます。
なお、この映画の邦題の副題が、「世界一安全な戦場」となっているのは意味深長ですね。作品に出てくる何れの場面も現場性が無く、攻撃対象から遠く離れた司令部や基地内で、指示を出し、操作しているだけだと言われるのです。その事は、まるでオフィスに出勤し、仕事をして、終えて帰るようだと形容されます。
しかし、事はそう簡単で無いようです。戦闘現場であれば戦場を離れれば、それ以上
辛いものを見なくて済みますが、無人機による攻撃だと、終了後、遠視や拡大視などによる確認が行われ、無残な光景を、しつこく何度も目にすることになると申します。返って、それが辛くて、PTSDなどの問題を従事者や関係者に引き起こしていると言われます。其処を「世界一安全な戦場」と言うだけでは済まされないものがあって、事態は根が深いと言われます。

真摯に勉強させられた作品でした。かつ、結構な入りでした。


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