備忘録(4)日米首脳会談
米国時間の13日の金曜日、訪米中の岸田首相はバイデン大統領と会談、それを受けて日米共同声明が発表されました。今回の訪米で首相は、防衛費を増大し、反撃能力を保有するという安保政策の転換をお土産にしましたから、大統領は大喜びだったと思います。共同声明には、「バイデン大統領は、防衛力を抜本的に強化するとともに外交的取組を強化するとの日本の果敢なリーダーシップを賞賛した」と書かれています。
これだけ褒められれば、日米首脳会談は大成功だった、ということになるのでしょう。米国からすれば、東アジアにおける日米同盟の軍事力が強化され、日本が攻撃能力として備えるのは米国製のトマホークなどで米国の軍需産業にも貢献するのですから、大満足でしょう。しかし、米国に賞賛されることは、日本の安全と安定を高めることと等価なのでしょうか。
共同声明を読むと、「両首脳は、日本の反撃能力及びその他の能力の開発及び効果的な運用について協力を強化するよう、閣僚に指示した」とあります。日本の防衛力を強化するための反撃能力がすぐさま日米安保体制に組み込まれていくわけで、日本の防衛力が米国の攻撃力に使われるのではないかという、いつもの心配が頭をもたげてくるのです。
今回の日米首脳会談は、日米の親密な関係を世界に示すことになりましたが、今回の会談で進展しなかった問題があります。TPP(環太平洋パートナーシップ)をめぐって、日本は米国への再加盟を求めているのですが、米国はTPPではなく、IPEF(インド太平洋経済枠組み)を進展させるとして、共同声明にTPPの文字は入りませんでした。首脳会談に先立って岸田首相はジョンズ・ホプキンス大学国際関係大学院(SAIS)で講演したなかで、TPPについて、次のように語りました。
「今、英国、中国、台湾などがTPP に加入の意思を示している状況において、米国が戻ってくることが決定的に重要です。この地域に皆が繁栄を享受できる公平な経済秩序を構築するためにはどうしたら良いのか、米国の皆さんと何ができるか、一緒に考えていきたいと思います」
岸田首相はTPPにこだわっているのですが、米国の反応は冷たいままです。首脳会談と同時刻に行われた大統領報道官の記者会見で、「岸田首相は米国のTPP参加を促すのでは」という質問に、ジャンピエール報道官は「TPPは我々が検討しているオプションではなく、IPEFに焦点を当てている」と述べました。
TPPはもともと米国が主導した経済協定で、トランプ政権のときに交渉から離脱した経緯があり、日本は戻っておいでよと呼びかけているのです。TPPは、関税の引き下げなどが協議されるので、参加国にとって実利が期待されます。一方、IPEFは貿易の実利よりも中国包囲網という戦略的な意味合いが強いので、米中対立のなかで米国はこちらを重視しているのでしょう。
アジア諸国にとっては、米中戦争の道具に使われそうなIPEFよりも、通商重視のTPPのほうが関心が高そうです(中国と対立するインドは別です)。中国との通商を拡大することは、どの国とっても実利がありますから、経済を重視すれば、TPPに中国も台湾も参加させるのが得策に思えますが、そうなると、米国は黙っていないでしょう。TPPとIPEFのどちらでも主力メンバーとなる日本にとっては、頭の痛い問題となりそうです。
(冒頭の写真は、日本の首相官邸のHPに掲載された日米首脳会談の様子)
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共同声明の日本政府の仮訳が出されましたので、本文中の共同声明の引用を私訳から政府訳に直しました。