備忘録(3)ロシア軍のトップ交代
ロシアのウクライナ侵攻の総司令官だったスロビキン氏が副司令官に降格、代わりにゲラシモフ参謀総長が総司令官に任命されました。スロビキン氏は昨年10月に総司令官に抜擢されたばかりでしたから、わずか3か月での交代です。プーチン政権のなかで何が起きているのか、いろいろな憶測が飛び交っています。
〇マキイウカの責任 大みそかの深夜、ウクライナ東部ドネツク州のロシア軍兵者がウクライナのミサイル攻撃を受け、ロシア政府の発表では89人が死亡しました(ウクライナ軍の発表は400人が死亡)。ロシア国防省は、駐留する多数の兵士が携帯電話を使っていたため、ウクライナ軍に位置を特定されたためとしています。しかし、被害が拡大したのは、兵舎のそばにあった弾薬庫が誘発したためで、国内では軍の管理責任が批判されていました。その責任を総司令官が負わされた可能性があります。
〇プーチン対プリゴジン ロシアの戦闘要員には、正規軍のほかに民間軍事会社「ワグネル」の傭兵が加わっています。この軍事会社の創設者がエフゲニー・プリゴジン氏です。もともとはプーチン氏とのコネを使ってオルガルヒ(新興財閥)となった人物ですが、いまや私兵を持ちプーチンをおびやかす存在になっています。もともと総司令官を解任されたスロビキン氏はプリゴジン氏と親しい関係といわれ、プーチン対プリゴジンのあおりを受けたための解任という見方もあります。
〇大規模攻撃の前夜 ロシアのメディアは、ロシア軍の主流派であるゲラシモフ参謀長が戦争の指揮権を握ったことで、全軍が作戦に関与することができるようになり、大規模な攻撃が近く始まると伝えているそうです。ただ、ゲラシモフ氏は、昨年2月に始まったウクライナ侵攻作戦の計画責任者で、見通しの甘さから軍事作戦の責任者としての資質に疑問の声もあるようです。
いろいろな憶測が出てくる背景には、ロシアのウクライナ侵攻が失敗だったことがあります。総司令官を何度も取り替えたり、民間の傭兵会社に戦闘を頼ったりというのは、正規軍による戦いがうまくいっていないからです。
いま、ウクライナ戦争でもっとも激しい戦闘が行われているのは、ドネツク州のソレダールで、ワグネルの部隊は、ここでロシア側の主力となっていると、プリゴジン氏は主張し、ロシア軍の主流派をいらだたせています。ワグネル部隊の兵士は、プリゴジン氏がロシアの刑務所から募集した囚人で、参加した兵士は大統領から恩赦を受けることになっているそうです。多くの一般人が自発的に兵士となり戦っているウクライナとの違いは明らかです。
『孫子』のなかで、戦いの勝敗を判断する基準が次のように書かれています。
「主 孰(いず)れか有道なる、 将 孰れか有能なる、天地孰れか得たる、法令 孰れか行なわる、兵衆 孰れか強き、士卒 孰れか練いたる、賞罰 孰れか 明らかなると。吾れ此れを以て勝負を知る」(『孫子』計篇)
どちらの主君に道理があるのか、どちらの将軍に能力があるのか、どちらが天(気候)や地(土地)を味方にしているか、どちらが法令を守っているのか、どちらの軍隊が強く、兵士は訓練されているのか、賞罰はどちらが公明なのか、こうした項目を判断すれば、戦争の勝敗はわかる、というのです。
国際法に違反してウクライナ侵攻を命じたプーチン氏、首都攻略に失敗し東部や南部の戦線でも撤退を繰り返すロシア軍の将軍たち、地域の天候状態や地理を熟知しているウクライナ軍、市民の殺害など国際法違反を繰り返すロシア軍、戦闘意欲の乏しいロシア軍、利益誘導の私兵に頼るロシア軍、などを見れば、孫子なら「ロシアは負ける」と断言すると思います。
軍司令官の更迭よりも、国家の総司令官であるプーチン氏が退陣すべき時期が来ているように思えます。
(冒頭の写真はロシア軍司令官の更迭を報じる朝日新聞デジタルのニュース)
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高成田さんの論の通りだと思います。今となっては、何故、ロシアはこうまでして民間施設を破壊して民衆を恐怖に陥れようとしているのか、理解不能です。ロシア人民特有の「とにかく勝ちたい、なにをしても勝ちたい」という精神状態に陥っているとしか思えません。そのようなロシアの風土にウクライナの人々の災禍があまりに悲惨すぎます。かならずいつか、歴代のロシアの行為は裁かれなければなりません。今できなくとも、後世の歴史家にはきちんと評論してもらいたいと願っています。いろいろプーチン氏を擁護する論がありますが、このような手段を執るプーチン氏は擁護されません。