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「サピエンス物語 」という「ヒト」のお話

2018.08.09 Thu
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「サピエンス物語 」という「ヒト」のお話

平成30年8月
仲津 真治

三十年に一度の異常気象とか、気象庁の課長が記者会見で断言するほどの酷暑が続いてます。 そう言えば、かなり前に、今夏は摂氏40度を越す暑さがすでに何回か、数地点で観測されたとの報道がありましたが、その後こうした箇所が更に増えている由、確かに滅多に無い事でしょうね。

その中、あらためて人類学への関心を寄せて、今度は、「サピエンス物語」とい
うシリーズ本の一冊を紐解きました。 原題は、「OUR HUMAN STORY」という英題で、ここにHUMANとは、所謂、現世人類に限らず、チンパンジーとの共
通祖先から分かれて以降、約七百万年のヒトの歩んで来た系統や範囲を指してい
る由です。 その間、ヒトは、分かっている範囲でも二十四種生じ、進化、変
化、絶滅などを繰り返してきたと申します。 そして、現生存種は、ただひとつ、
私ども「ホモ・サピエンス」です。 私どもは中学生の頃、その発見地に因んで、
「クロマニヨン人」と習いました。フランスにある洞窟の由です。

原著者は、大英自然史博物館の二人の学者で、此の人々の国はキリスト教国です
が、その独特の史観、人間特別視に偏っていることは在りません。

ただ、残念ながら本書は文字が小さく、読解に苦労しましたが、豊富な写真、図
面・図表、挿絵、想像図などに助けられ、何とか読み終えました。

以下、幾つか印象的なポイントに絞って記します。

1  ヒトに最も近い類人猿はチンパンジーの由。 素人理解ですが、サル、ヒヒ、
類人猿、ヒトなどを総称して「霊長類」と呼ぶようです。

更に一般的には、「所謂サル」とは霊長類全般を指す呼称のようです。

これまたアマチュアの捉え方ですが, サルと類人猿の境目は、しっぽが在るか無
いかていうことで、類人猿そしてヒトも、実はしっぽが退化して無くなったと聞
きました。

さて、チンパンジーは凶暴な動物と聞きます。その凶暴さの最も典型的な表れは、
巨大な犬歯である牙です。これを用いて、チンパンジーは自身を守り、相手方を
襲い、雌を奪い合い、支配下に置きます。牙は自前の大変な武器です。
その歯形の示すところでは、やや長い馬蹄形の前の方、上下に左右各一本、計四
本の牙が生えています。牙を向けば恐ろしい形相となります。

だが、チンパンジーとの共通祖先から別れて約三百万年経つ頃の化石人類「アウ
ストラロピテクス・アファレンシスでは、口型がやや丸みを帯び、名残のような
犬歯は在りますが、牙は全く在りません。ヒトとして進化し、牙を持つことは無
かったのです。

そして、現世人類の「ホモ・サピエンス」に至ると、口型はすっかり丸くなり、
小さめの犬歯があるものの、牙はもとより無くなったままです。 あとの歯は、
前の切歯四本と、中から後ろは小・大臼歯の並びです。典型的な雑食向きです。

話を戻して、チンパンジーの仲間で約百万年前頃に其処から分かれたボノボとい
う類人猿が現存していますが、元は、姿が似ており、小さいためピクミー・チン
パンジーと呼ばれていました。 今は別種と分かり、ボノボと改称されています。
此のボノボも牙を持っていますが、性質は穏やかと言います。

なお、チンパンジーや、その発祥より五百万年位前に、別系統へ派生したゴリラ
などは、ヒトとの大きな違いとして、牙を持つ他、直立二足歩行はせず、通常
「ナックル歩行」をすると言う特徴がある由です。 それは両前足の二、三本の
指を立て、肩を怒らせたような歩き方です。 対してヒトの系統は、直立二足歩
行を保って来ています。 これは最近は、ヒトが密林を離れ、疎林に生きるころ
に定着した歩行形式と言われている由です。 この見方からすれば、ヒトがサバ
ンナ・草原に住まうときより前に、身につけたのが、直立二足歩行と言う事にな
るようです。

2) ホミニン

本書では、約七百万前発祥のヒトの最初の祖先、「サヘラントロブス・チャデン
シス」以来の約二十四種の総称として、「ホミニン」なる概念を用いています。
本書の原文は英文ですが、「ホミニン」自体はフランス語オリジンの由です。

そして、ヒト初期の「サヘラントロブス・チャデンシス」などには、初期ホミニ
ンと言う名称を与え、次の「アウストラロピテクス属」は華奢型猿人と呼び、
更に、次代の「パラントロプス属は頑丈型猿人と呼んでいます。それは骨格の形
から与えられた名称の由です。また、約三百万年前のヒトには、猿人と言う語が
使われているようです。

それ以降は、ホモ属が登場し、ホモ・エレクトスも出てきますが、私どもが学ん
だ原人との語は使われていません。今や猿人、原人、旧人、新人と一直線の進化
では無い由です。

3) 南アフリカの完全骨格化石「リトルフット」の発見

ヨハネスブルグ近郊に、スターク・フォンテーンと言うところがあり、世界遺産
に指定され、辺り一帯は「人類のゆりかご」とも言われています。

私どもは、数年前に南部アフリカに旅行した際、ツアーで此の地を訪ねました。
人類学上の大事な発見されたと伝え聞きますから、近付くにつれ、胸が高まって
行ったことを良く覚えています。 だが、目的地の大平原か疎林の中を歩くうち、
「あれ」という感じがしました。 確かに、有名になったリトル・フットの発見
箇所の洞窟には参りましたが、そこは見学できず、代わりにあったのは
厳重に閉じられた鉄格子の覆いでした。 研究調査のため、南アフリカ大学の管
理に移されていたのです。 世界遺産を物語るものは掲示も何もありませんでし
た。 また、現地には展示館の施設がありましたが、空っぽで何の解説も表示も
おりませんでした。 折角、ツアーまで組んで現地へ連れて行っているのに、
「何があったの、どうしたの」と聞いても、要領を得た説明はありませんでした。
結局良く分からずじまいです。斯く、世界遺産でツァーと言ってもいろいろある
のですね。

本書に寄れば、ここでは、レイモンド・ダートやリチャード・リーキー以来の研
究や成果で有名な南アフリカ大学の後継研究者である、ロン・クラークが、
経緯のいろいろ在る中、此の地の洞窟で、「完全骨格化石」の「リトル・フット
を発見した由です。1994年の事でした。見付かったのは、アウストラロピテクス
の女性の化石でした。それは、頭蓋骨、歯などを含む全身の骨格のもので、完全
な形で化石化して発見されたのです。こうしたことは極めて珍しいと言います。

斯くて「リトル・フット」と名付けられた、この化石は人類学の進歩・発達に多
大の知見・成果をもたらした由です。

そう言えば、レイモンド・ダート等の成果・実績により、この南アフリカで発見
されたアウストラロピテクスには、何と「アウストラロピテクス・アフリカヌス」
という学名がついていましたね。斯くて化石という証拠が、思い込みや信仰に近
いものを覆していった様です。

4) その後、アフリカ東部や中央部でも「アウストラロピテクス」が発見されて
行きます

各地で続く発見などを知ると、広大なアフリカ大陸の、何故こんなに遠いところ
のあちこちでと思いますが、時速4kmから6kmほどで歩き出したヒトは、餌、植物、
獲物など、食べられる物は何でも追い求めたと考えられます。 飢えを克服し、
乾きの解消のため、数千キロを休息しつつも、必死に動き回ったのでしょう。
牙の無いヒトは忍耐強く歩くこと、そして必要あらば走ることを得意としたはず
です。 石器なども簡単のものから、道具の工夫、獲得、開発などにも勤しんだ
と思われます。その努力は現世人類に始まったものでは無いでしょう。 営々と
続いて来たのです。

タンザニアでは、数人のホミニンが同一方向に歩む足跡が残されています。
場所はラエトリと言う所です。「土踏まず」の跡さえ鮮明です。 歩幅、足の大
小から、実に家族連れと言う推定も出ている由、例えば、つまり、大人の男、女
に、子供が一所懸命一人附いて行っている状景です。

此の近くには、アウストラロピテクス・アファレンシスというホミニンの化石が
見付かっている由、この足跡の化石はホミニンの生活の或る断面が或る時間切り
取られて残った観がありますね。

5)  ホモ・エレクトスの時代となると、アジアへの進出が起きる

ホモ・エレクトスは約百九十万年前から、約十万年前まで生存したと言われ、
ホミニンの中では最長の生き残りを誇ったと申します。

出アフリカを果たし、西アジアから、東アジア、東南アジアに進出した由です。
私どもが習ったジャワ原人や北京原人は、その中で大事な地保を占めています。
長身で約百九十cmを超えるヒトも居たとか。

6) ネアンデルタール人

彼らは、約四十万年前頃、既にアフリカからヨーロッパに進出していたハイ
デルベルク人から進化し、ヨーロッパで発祥して、寒冷な気候に適し、ユーラシ
アに進出、アルタイ山脈付近まで拡大したと言われています。 ネアンデルター
ル人として、旧石器時代の文化を築いたと申します。

この人達は、背が低かったものの、身体は頑健、脳は大きく発達し、容量は千五
百CCから千七百CCまで及ぶヒトも居たと申します。 この点では、後年発祥した
私どもホモ・サピエンスを凌ぎ、両者の個体同士が競いあえば、ネアンデルター
ル人が通常勝ったろうと言われます。

しかし、ネアンデルタール人は、集団のまとまりやお互いの連携に優れたホモ・
サピエンスとの競合に次第に敗れて行き、約四万年前に絶滅したと言います。

ただ、両種間には、激しく争ったような証拠はなく、むしろ中東付近に進出した
ホモ・サピエンスと元々居たネアンデルタール人との間に、相当程度の交雑が起
き、それが約七千年ほどの間続いて、私どもホモ・サピエンスに約二%程度の
DNAベースの混入さへ、起きていると申します。

興味ある研究・調査の課題と思われます。

なお、私見ですが、ネアンデルタール人にとっては、巨大脳が出産の際の大きな
負担となり、医療も看護も欠ける数万年前には、ネアンデルタール人自身の通常
分娩に困難を来すようになって、種族の保存が出来なくなってきたのでは無いか
と言う事も考えられると思います。
これは、素人の仮説ですが、如何でしょう。

ネアンデルタール人の人口減少、そして絶滅は大きな謎のように思われます。
現に、類人猿の世界では、チンパンジーとともに、兄弟姉妹のようなボノボとい
う種が現存しているのですからね。

7) ホモ・サピエンス 約三十万年前にアフリカに発祥、やがて約六万年前に出ア
フリカに至り、今や全世界に拡大、他のホミニンが全て絶滅し、ホモ・サピエン
スただ一種で七十億人を突破するに至ったと申します。 大変な繁栄です。

此処で、本書も全然触れていないのですが、疑問を提示します。 現世人類は家
畜を飼いならし、自身の効用に大いに役立て居ますが、犬もその一つでしょう。
その犬はヒトが約四万年前に狼の一部を飼うようになって、犬に仕立てたと聞き
ます。 つまり、犬と狼は種が同じで、その犬は大いにヒトとの共存・共栄に役
立ってきました。

四万年前と言えば、ネアンデルタール人の絶滅の時期と一致します。
このことに何か関連は在るのでしょうヵ。 御存知の方には、御教示方宜しくと
存じます。

8)  大規模な気候変動とは?

ところで、今夏は確かに暑く、北半球の各地で熱暑が伝えられています。 我が
国の気象庁の本庁課長が「異常気象」と広言するほどですから、相当なことでは
あるのでしょう。でも、次の様な観点も欠かせないと思います。

即ち、超長期的にみると、地球は過去百万年ほどでみて、約十万年ピッチで、寒
暖を繰り返してきている事です。 近いところでは、約四万年前から五万年前に
寒冷化のピークを迎え、そのヒトへの影響について言えば、ネアンデルタール人、
デニソワ人、身長一m余と短いフローレンシスなどの絶滅を経験しています。それ
は所謂「氷河期」に当たるのでしょう。その後、所謂「間氷期」に入り、現在は
その最中に在っていて、いわゆる温室効果による温暖化も重なって、今日の状況
にあるのかも知れません。

この超長期的な寒暖の繰り返しの原因については、実は何と或る数学者が問題を
解いています。その一人がミルティン・ミランコビッチと言う学者の由で、その
解く原因とは三つあります。

まず、地球が太陽の周りを回る公転軌道は大きな楕円を描いていますが、その
離心率が周期的な変化をする事です。つまり、公転軌道のゆらぎです。この周期
は凡そ十万年と言います。

次に、地球自転軸の傾きの周期的な変化がある由です。これは概ね四万年との事。

最後に地球自転軸の歳差運動、つまりコマの首振りに当たる現象で、これは約二
万年周期とのこと。

これらが重なって最大になるときに、大きな気候変動が起きてきているとの事で
す。これを、ミランコビッチ・サイクルと呼ぶ由です。

それが起きたときは、寒冷化の場合、世界の海面が約百二十五mも低下、巨大な氷
河が伸張、例えば英国本島とヨーロッパ大陸が地続きになります。生物界を始め、
世界的に大変化が起き、その跡が残ります。 氷河期は長く持続しますが、やが
て終焉を迎え、次なる変化のサイクルに入ります。

つまり、太陽の周りを回る公転、地球自身の自転軸による自転、自転で生じる
歳差運動の全てが重なって、地球気象を生み出し、影響を与えているのです。


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