ニュースメディア革命を主導するのはどこか?・・民放型オンパレードの中で
◇ネットメディアが新聞広告や車内広告
ネット上の有力ニュースメディア「ニューズピックス(NewsPicks)が日経新聞(6月26日付け)に「さよなら、おっさん」というコピーで全面広告を出しました。同時に、東京都内の電車に車内吊り広告まで出したのです。ネット上のメディアが新聞広告や交通広告という古い広告媒体を活用するという興味深い現象です。
※NewsPicks https://newspicks.com/
◇配信記事とオリジナル記事と
ニューズピックスは2013年に創刊したキュレーションメディアです。キュレーションメディアとは、新聞社や通信社、出版社などからニュースの配信を受けて記事を掲載しているネット上のメディアで、スマホアプリやウェブで通常無料で読めます。ただし、「経済を、もっとおもしろく!」というキャッチフレーズで特徴を謳っているニューズピックスは、キュレーションメディアとして配信に頼るだけでなく、自前制作のオリジナル記事にも力を入れていて、月額1500円の有料会員を募っています。つまり、新聞社や出版社などから記事の配信を受けて(記事を仕入れて)読者に無料で提供するメディアであると同時に、購読料をもらう有料メディアでもあるという性格を持っています。
オリジナル記事とはいっても、基本的にはインタビューや対談が中心です。旧来の新聞社のような、たくさんの記者をかかえて、記者クラブに常駐したり、現場を歩いたりして取材活動をする体制がないことが背景にあります。テーマはさまざまですが、落合陽一氏やホリエモンを頻繁に起用したりして、雑誌感覚で読者にアピールしています。
◇老舗雑誌のオンラインメディアを飛び出した編集長
オリジナル記事の中で、最近、私がいちばん膝を乗り出した特集が「さよなら、おっさん社会」でした。ニューズピックスが言うおっさんとは、年齢や性別に関係なく、ひとことで言えば「新しいことを学ばない存在」です。おっさんという言葉を使ったことで、真意をくみ取る前に反発してしまう向きもあるかもしれません。とはいえ、「おっさん」に代わる、わかりやすくて本質を突くことばが思いつかないので、以下では、カッコ付きで「おっさん」を使用します。
さて、具体的には 1.古い価値観に凝り固まって、新しい価値観に適応できない 2.過去の成功体験に執着し、既得権益をふりかざす 3.序列意識が強く、自己保身的 4.よそ者や異質な存在、序列が下の人間に対して非礼 という4つの評価要素をあげています。
確かに大企業や中央省庁をはじめとして、いまだ“おっさん”はいたるところで生き残っています。
ふと思うのですが、旧来の新聞やテレビなど日本のメジャーなメディアも“おっさん組織”であるに違いありません。ニューズピックスで3月末まで編集長だった佐々木紀彦さんの前歴は東洋経済オンラインでした。2012年に編集長として起用されて、オンライン経済メディアとして断トツのアクセス数を実現した実績を持ちます。そんな佐々木さんがどうして東洋経済を飛び出したのか?
石橋湛山以来の自由な言論を重視してきている老舗の東洋経済です。うっかり“おっさんメディア”呼ばわりすることはできませんが、東洋経済に限らず、新聞社など古い権威あるメディアが、“おっさん”要素を大なり小なり持っていることは確かでしょう。佐々木さんが、編集の自由を目指すにとどまらず、メディアそのもののイノベーションをめざして新天地を求めたのもわかる気がします。(佐々木さん自身、自分の中に“おっさん”要素があると告白していることを付記します。)
◇独自路線による有料会員追求
実際、ニューズピックスというオンラインニュースメディアの編集長として、佐々木さんは、オーナーの梅田優祐さんの意を受けつつ、ユニークな工夫をしてきました。キュレーションメディアという部分でも、掲載記事に対する玉石混交のコメントをただ並べるのでなく、専門性や見識を持つ人のコメントを重視した構成にしています。誤解に立った決めつけのコメントや悪罵を投げつけるようなコメントを多数見てうんざりした経験を持つニュースメディア読者は多いことと思います。おそらく、Yahoo!ニュースをはじめとする他のキュレーションメディアを意識しての差別化路線でもありましょう。
また、前述のように、月額1500円の有料会員を獲得していくために、自前制作のオリジナル記事を柱として育ててきました。オリジナル記事は雑誌の特集のような打ち出しをして、とっつきやすい一方、1本1本がずっしりと読み応えがあります。スマホは長い記事に向かないというのは思い込みであって、おもしろければ長い文章もスマホで読まれると佐々木さんは言っています。そのようなオリジナル記事への注力が有料会員の拡大につながって、現在では契約者が6万人を越えています。
※オリジナル特集の例・・・世界を代表する経営者から日本の未来のリーダーへ 未来のモビリティは、こうして作る ZOZO アパレル界を変えられるのか ベルリッツキラーの正体 広告会社2.0 幸せな生産性革命
◇編集長からプロデューサーへ
その佐々木さん、この4月から編集長を『週刊SPA!』編集長だった金泉俊輔さんに譲り、自らはCCOという耳慣れない立場に就きました。チーフコンテンツオフィサーです。
編集長のときに幻冬舎と組んですでに始めていたニューズピックスアカデミー(物理的な会場で開催)やそれに付随する紙の本の出版、そして今回の紙の雑誌ニューズピックスマガジンの刊行というネット内に閉じない展開です。こうした矢継ぎ早の施策は、編集長という立場を越えたプロデューサーとして、また、メディアイノベーターとしての面目躍如です。佐々木さんはCCOとしてやりたいこととして、「オリジナルコンテンツ全体の統括」、「マルチメディア展開(とくに映像)」、「新たなビジネスモデルの開拓」の3つをあげています。
※佐々木紀彦さんのメッセージ https://newspicks.com/news/2927946/
◇キュレーションメディア乱立の中で
ここで、ネット上のキュレーションメディア一般について振り返ってみると、Yahoo!ニュースが10年前の2008年から始めて、スマホ全盛以前の時期まで独走、今でも代表格ではありますが、この数年他の新規参入が目立ちます。特に、スマホの普及拡大にともなってアプリで提供するニュースメディアが乱立とも言える状況になっています。
ICT総研が発表した、「2018年 モバイルニュースアプリ市場動向調査」によれば、2017年末には約4700万人がスマホアプリでニュースを見ています。
※ICT総研の調査 https://iphone-mania.jp/news-211720/
Yahoo!ニュースに次いでは、LINEニュースとスマートニュースが利用率で肉薄してきています。このうち、スマートニュースは編集部を持たず、アルゴリズムでニュースを自動選択するというユニークな路線をとっています。
◇独自路線のニューズピックスに注目
これらのニュースメディアはいずれも読者にとっては無料で利用できる「広告収入モデル」のメディアです。広告収入はアクセス数に比例しますが、ニュースというのは、日々刻々と新しい内容を提供できるコンテンツであり継続的にアクセスをかせぐのに向いています。しかもそのコンテンツを自前で作る必要がなく、仕入れて(配信を受けて)選んで載せればいいのですから、猫も杓子も無料ニュースメディアという多数参入の背景もわかります。
いわば民放型のビジネスに大半が傾斜している市場の中で、独自の特徴を打ち出し、自前のオリジナル記事や、技術に裏打ちされた新しいサービスを開発して、その利用者から直接お金を取る路線を追求しているのがニューズピックスだと言えます。私は、大競争のニュースメディアの中でもっとも注目しています。
注)ニューズピックスはIT企業のユーザベースの事業です。そもそものメイン事業は「経済情報の検索プラットフォーム」。 https://www.uzabase.com/
注)ニューズピックスの親会社ユーザベースは、2018年7月、アメリカの新興ニュースメディア、クオーツ(Quartz)の買収を発表しました。
注)タイトルと一部文章を変更しました。(2018/7/5)
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何を言っているのかさっぱりわかりません。