日米首脳会談、”厚遇”のツケは高い?
安倍首相の訪米によるトランプ大統領との日米首脳会談は、異例ともいえるトランプさんの歓迎ぶりでした。ホワイトハウスで大統領と握手する安倍さんのニュース映像は、文字通りの破顔一笑というか破顔連笑で、首相の喜びをよく表しているように見えます。会談後、フロリダの大統領私邸に移してのゴルフや会食も、日米の蜜月ぶりを世界に示すものになりそうで、クリントン大統領以来、首脳外交で厚遇を受けていた中国はさぞいらだっているだろうと推測されます。
日本の安全保障にとってトランプ新政権に対する最大の懸念は、「尖閣諸島は日米安保条約の範囲内」(米国の防衛義務が尖閣諸島にも及ぶ)という米国のこれまでの立場がひっくり返ることでしたから、日米共同声明で、尖閣への米国の関与が再確認され、共同記者会見でも、「米国は、日本及び日本の管轄下の領域の安全に関与する」との言葉が大統領から出てきたことは、今回の首脳外交の大きな成果ということになると思います。
よかった、よかったとなりそうそうですが、考えてみれば、「尖閣は安保の範囲内」というのは米国の一貫した立場でしたから、トランプ政権が新たに日本への約束をふやしたわけではありません。朝三暮四という言葉があります。サルに木の実のエサをやるのに「朝に三つ、夕方に四つ」と言ったら、サルが少ないと怒ったので、「朝に四つ、夕方に三つ」と言い直したら、サルは喜んでしたがった、という中国の故事です。以前と同じことを確認しただけなのに、こちらは大喜びというわけです。今回の首脳会談も、相手の交渉術にしてやられた、という気がしないでもありません。
"door-in- the- face Technique"という英語があるそうです。交渉術のひとつで、初めに厳しい要求を出してドアを閉められた(拒絶)あと、譲歩したと見せかけた要求を出して合意に持ち込む、というもの。売り出し中の家の価格を1億円と言って断られたあとで、「あなただけに8千万円」と言って、売り込むテクニックのようなものでしょうか。うまくいけば、相手はありがとうと感謝したうえに買ってくれるというわけです。"foot-in-the-door technique"というのもあって、たとえば、「超お買い得、3千万円の家があります」と言って、お客のドアをあけさせ、次第に高い物件を見せて、最後は8千万円の家を買わせるという交渉術だそうです。
ともあれ、日本は「尖閣は日米安保の範囲」という約束を米国から再確認したわけですが、その見返りにあたる米国へのおみやげは何なのでしょうか。すでに報じられているのが「日米成長雇用イニシアチブ」(仮称)で、米国へのインフラ投資などで10年間で4500億ドル(約50兆円)の市場と70万人の雇用を創出するのだそうです。日米共同宣言には、その内容は盛り込まれませんでしたが、これから出てくるということでしょう。
事前の朝日新聞や日本経済新聞などの報道によると、①米国でのインフラ投資(約17兆円)②世界のインフラ投資で連携(約22兆円)③ロボットと人工知能の連携(約6兆円)④サイバー・宇宙空間での協力(約6兆円)⑤雇用や技術を守る政策連携、などだそうです。日本の国会では、米国でのインフラ投資に、国際協力銀行(JBIC)の融資のほか、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の投資が含まれていることが追及されましたが、GPIFについて安倍首相は「誤報」だと突っぱねました。
政府がGPIFに米国への投資を命じる権限はないということでしょうが、こまでもGPIFは、株式投資などの比率を高めることで、日本の株価の底上げに寄与した”実績”をみれば、以心伝心で米国への投資をふやすのかもしれません。
TPPに代わる日米間の二国間交渉については、共同宣言に「二国間の枠組み」という文言が入りましたから、日本側も二国間の協議に入ることを認めたということでしょう。米国からすれば、TPPで日本側が約束した牛肉や豚肉などの農産物についての関税引き下げをベースにして、さらに上乗せを求めるでしょうから、交渉というか協議は厳しいものになることが予想されます。
首脳会談をめぐる米国側の事前説明では、自動車問題が話題のひとつになるということでした。共同声明や記者会見では、その具体的な内容は明らかにされませんでしたが、これも二国間の協議になるのでしょうか。トランプ大統領の就任式では、民間側の運営委員会のメンバーに、ラスベガス・サンズなど米国のカジノの経営者が入っていることが話題になりました。今後の米国の要求のなかには、日本でのカジノの早期実現と、米国勢の参入も加わるのでしょうか。あれだけ強引な法案成立の背景は何だったのか、気になるところです。
トランポノミクスの保護貿易主義的な通商政策をめぐっては、1980年代の日米貿易摩擦における米国の姿勢を想い出させますが、貿易保護の手立てとして関税の引き上げを再三、口にしているため、1980年代よりも1930年代のブロック経済を思い出させるという見方もあります。さらに、国家が積極的に貿易に介入して、貿易での利益を重視しようとする態度は、16世紀から18世紀にかけて西欧の絶対主義の国家が採った重商主義だという考え方もできると思います。さかのぼるのは30年前か、80年前か、200年前か、あらためて考えてみたいと思います。
この記事のコメント
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それにしても「美しい国を目指す」「押し付け憲法を改正する」「毅然とした態度で」と言う割には,カタカナ英語で意味不明のスローガンを語ったり,憲法を押し付けた米国に卑屈なまでに擦り寄る姿勢のどこに「矜持」とやらがあるのか,そんな指導者を讃える方々も情けなく思わないのか,不思議でなりません.「猿の惑星」の長老オランウータンのザイラス議長(=トランプ)に若いチンパンジー科学者・コーネリアスは反発する役どころなのに,擦り寄りおもねる奇妙な「Planet of Ape(=アペ)」を見ているようです.
補足・最後の段落に「198年代よりも」の誤植があります.
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下記、首相官邸に送付
世界の警察官の役割の分担を頼まれたら?
安倍首相はトランプ大統領に厚遇されているようだが、最後に、世界の警察官の役割の分担を押し付けられないか?
つまり、自衛隊の海外派遣の拡大を求められるような気がする。その時、どう対応するのか、優秀な首相や他のスタフは当然考えているだろうが、大いに心配になる。
自衛隊の海外での活動の増加は、長い目で見ると、結局、避けられないような気がするが、当然、最小限にする方策を考えておくべきだろう。