備忘録(12)日本維新の躍進を考える
統一地方選挙での日本維新の会の躍進ぶりについて考えていました。自民党の政治への不満、立憲民主党など野党への不信などの受け皿に維新がなった、というのが妥当な解説だと思います。しかし、それだけでなく、自民や立民など既存の政党のありかたが有権者の心に響かなくなったのがその背景にあるのではないでしょうか。既成政党の制度疲労です。
維新の強さは、関西圏だと思っていましたが、今回の地方選では、それ以外の地域でも強さを発揮したことに驚きました。東京都内の地方議員選挙では、維新の地方議員がこれまでの22人から73人に急増したそうで(朝日新聞調べ)、私が住む世田谷区の区議会議員選挙でも、トップと3位当選は維新の議員でした。
トップの得票数は14,000票余り、3位は12,000票余りで、当選ラインが3,600票余りでしたから、余裕の当選です。維新からはもうひとりの候補が出馬していて、3,500票余りで落選しましたが、この3候補の総得票数は30,000票弱ですから、票数からみれば2人どころか、もっと多くの議員を擁してもおかしくない政党ということになります。
維新の特徴は、従来の物差しでは測れない政党ということだと思います。政党名からイメージは、新しさよりも復古的なもので、維新の政策集である「政策提言 維新八策2022」を読むと、たしかに保守色の強い政党だということがわかります。たとえば、「八策」の「皇室制度」を読むと、次のように書かれています。
「皇室制度については、古来例外なく男系継承が維持されてきたことの重みを踏まえた上で、国民的理解を広く醸成しつつ丁寧な議論を率先します。現状の継承順位を変更しないことを前提に、安定的な皇位継承のため、皇室の歴史に整合的かつ現実的である「皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする」案を第一優先として、皇室典範の改正に取り組みます」
「男系男子」優先といえば、自民党の保守派と同じ主張ですから、ここを読めば、「保守」とか「右翼」といったイメージが浮かんできます。しかし、「八策」の「LGBTQ」の項目では、「同性婚を認め、LGBTQ などの性的少数者が不当な差別をされないための施策を推進します」とあり、自民党の保守派の主張とは正反対です。
夫婦別姓についても、「男女共同参画」の項目で、下記のような表現で、自民党の保守派との違いを見せています。
「戸籍制度及び同一戸籍・同一氏の原則を維持しながら、旧姓使用にも一般的な法的効力を与える制度(維新版 選択的夫婦別姓制度)の創設など、結婚後も旧姓を用いて社会経済活動が行える仕組みの構築を目指します」
日本で少子化対策が遅れたのは、政権党である自民党のなかに、子育ては家族の責任という自助の意識が強く、子どもは社会が育てるという公助や共助の意識が弱いことにあったと思います。かつて民主党政権が打ち出した児童手当の拡大策に対して自民党の議員が「愚か者めが」と野次を飛ばしたのがその象徴です。
子育てや親の介護は家族の責任というのは、「家」や「家族」を重視する保守派のイデオロギーですが、維新の「八策」の「教育」や「子育て・保育」の項目で展開している主張は、教育の無償化、給食費の無償化、保育における直接給付(公的なサービス)の重視など、子どもは社会が育てるという要素も取り入れられています。
これまでの保守・リベラルの対立軸を前提にすれば、維新は「保守の本質をポピュリズム(大衆迎合)の政策で隠している」と評することもできますが、私はむしろ、従来の保守にこだわらないという融通無碍が本質かなと思うようになりました。「八策」には、下記のように書かれています。
「イデオロギーに左右されずに時代が必要とする変化を起こす、現実にある問題に具体的な解を示すという結党以来の理念に基づき、皇室をはじめとする日本の伝統を重んじつつ、社会における多様性の確保、選択肢の拡大等に積極的に取り組みます」
「日本の伝統を重んじる」という点では保守なのでしょうが、「社会における多様性の確保」という点では、リベラルの要素も取り入れているということでしょう。国会の場では、統一教会問題をめぐり被害防止の法案整備をはじめ、立民と維新との「連携」が話題になり、「野合」と批判されていますが、維新からすれば、協調できる分野があれば連携するということなのでしょう。
統一地方選と同時に行われた衆院や参院の補選で、自民党が4勝1敗と勝ったことで、解散・総選挙は広島サミット後の6月という見方が強まっているようです。しかし、統一地方選での維新の躍進をみれば、この流れは止まらず、総選挙の最大の勝者は維新となる可能性が強まっているように思えます。そうなれば、岸田政権に黄信号が灯るどころか、連立の組み換えなどが浮上するかもしれません。立民も国民民主党との再統合などの生き残りの方策を迫られることになるでしょう。
これまでの選挙といえば、与党も野党も、それぞれの組織母体による票を土台にして、そのうえに、候補者の人気や選挙ムードで票の上乗せをはかってきました。しかし、維新の東京などでの躍進ぶりをみると、吉村洋文・大阪府知事のさわやかなイメージと教育の無償化などわかりやすい政策で、無党派層に食い込み、自民や立民の支持層の一部も引きはがしたように思えます。支持母体などは、ほとんどなかったはずで、SNSなどの新しい伝達手段で、有権者にその存在を示したのではないでしょうか。
新聞やテレビなどの既存メディアには、全国紙と地方紙、キー局と地方局などの差がありますが、ネットの世界では、全国紙やキーテレビ局が流す情報も個人のYoutuberが流す情報も同じネット空間に“同居”していて、その差は大きくあるようには見えません。既存の大手メディアの情報がSNSによって相対化されたわけで、それと同じような構図が既存政党と維新の関係にもあるように思えます。
今後、自民党は、悲願である改憲の補完勢力として維新を利用したいと考えているでしょうし、野党も反自民政権をつくるカギとして維新の取り込みをはかることを考えると思います。しかし、維新の躍進は、れいわ新選組や参政党などを含め、既存政党への「アンチ」の意味合いを持っているとすれば、既存政党にとっては、イデオロギーで対立する党よりも危険な存在かもしれません。既存政党は、維新に連立や連携相手としての役割を期待するのではなく、文字通り「解党する決意」で自己の改革をはからなければ、いずれ組織は自壊し、維新にすがるような存在になるのは必至だと思います。
(冒頭の写真は、日本維新の会のHPから)
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