備忘録(7)スパイ気球の行方
中国の気球が北米大陸の上空を横断したのち、米軍機によって撃墜されました。無人の気球で、中国は民間会社の気象観測用のものだったと主張していますが、スパイ気球だったことは明らかでしょう。
米中双方のスパイ衛星が常時、飛んでいる時代に、気球とは驚きましたが、衛星よりも速度はゆっくり、高度は低空を飛ぶ気球には、宇宙空間からは検出できない無線や携帯電話を盗聴できるなどのメリットがあるようです。冷戦時代に、米国はソ連上空を気球で「観測」していたという歴史があるとのこと、衛星よりは安価なこともあり、時代遅れの道具が復活したということでしょう。
中国の気球は、以前からハワイ上空などに飛来していて、だんだん大胆になったようです。スパイ合戦は、双方が日常的に行っていることですから、米政府も本音では、驚きも怒りもないと思います。しかし、米国内では、与党の民主党も野党の共和党も中国への強硬な姿勢を示すことで、国民の支持を得ようとしていますから、政治ゲームの道具として、この気球は使われることになりそうです。
民主党のバイデン政権は撃墜の場面をPRすることで、日本の政治家が大好きな言葉で言えば、中国に対して毅然とした態度を支援したということになります。対する共和党は、気球の撃墜が米大陸を横断したあとだったことから、「ゲームが終わったあとに、クォーターバックにタックルするようなもの」などと批判しています。
気球事件によって、米国のブリンケン国務長官の中国訪問が中止されるなど米中外交に影響が出ています。経済覇権や台湾問題をめぐり米中の「激突」が懸念されているときですから、中国にとっては不必要な気球の打ち上げだったと思います。また、今後への懸念として、米中間のホットラインが機能していないことです。気球の飛来が米国で「発見」された時点で、中国はホットラインで、「あれは民間の気球が迷い込んだもの」などと、米政府に釈明する必要があったと思います。
それができないほどの関係になっているとすれば、今後、双方の航空機なり艦船が偶発的に交戦状態になった場合、それが大きな戦闘に拡大するのを防ぐことができないでしょう。
スパイ気球で思い出したのは、太平洋戦争で日本軍が「風船爆弾」と呼ばれる気球爆弾を米本土に向けて放った作戦です。ウィキペディアによると、1944年11月から1945年3月まで、9000個あまりが放たれ、少なくとも300個が偏西風に乗って北米大陸に到達、民間人に死者も出たようです。「第二次大戦で用いられた兵器の到達距離としては最長であり、史上初めて大陸間を跨いで使用された兵器」と書かれていました。米国側の被害は軽微でしたが、米軍はペスト菌などの生物兵器が散布されることを恐れていたとあります。
日本軍の風船爆弾は、風まかせでしたが、今回の気球は操縦ができて、目的の施設の上空でホバリングできる能力を持っていると米国は分析しています。今回の事件は、気球が風上側の中国にとって有力な武器なりうることを示したわけで、風下側の米国も新たな防御を考える必要がでてきたと思います。気球をめぐり、米中の緊張のレベルは一段高くなりそうです。
(冒頭の写真は、2月5日のニューヨークタイムズ紙電子版で気球撃墜を解説する記事)
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