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ウクライナ戦争5か月

2022.07.25 Mon

ロシアがウクライナに侵攻して以来、7月24日で5か月になりました。米国のシンクタンク「戦争研究所」(ISW)が日々更新するレポートを見ていると、東部戦線(ドネツク、ルハンスク州)、ハルキウ戦線(ハルキウ州)、南部戦線(ザポリージャ、ヘルソン州)で、ウクライナ軍とロシア軍との戦闘が行われていますが、全体をみれば戦況は一進一退で、膠着状態になっています。

 

ロシア側の戦略は、東部2州と南部2州の占領地域で、ロシアのパスポートや貨幣(ルーブル)を発行・流通するなど「ロシア化」を進め、最終的には、これらの地域をロシアに併合することだと思います。そうなると、クリミア半島を含めアゾフ海を囲む地域がすべてロシア領となり、ロシアにとっては黒海に通じる地域・海域の安全保障を飛躍的に高めることになるというのでしょう。ロシアとクリミア半島を隔てるケルチ海峡にかかるクリミア大橋の防衛にも寄与します。

 

一方のウクライナ側は、ルガンスクから撤退したものの、ドネツクでは攻防戦を続け、ハルキウでは防衛戦、南部2州ではロシアからの奪還作戦を展開しています。戦略的には南部2州を奪還してロシアの侵攻以前の状態に戻し、侵攻以前から内戦状態だった東部2州の帰属を含め、停戦あるいは和平交渉に持ち込むことを目指しているように思えます。

ウクライナが南部2州を奪還できれば、ロシアの侵攻以前の状態(東部2州の独立をめぐり内戦状態)に近くなりますから、トルコなどによる仲介もしやすくなると思います。軍事的には、かなり高いハードルに思えますが、このところウクライナ軍はヘルソン市に通じるドニプロ(ドニエプル)川の複数の橋を攻撃し、ロシア軍の補給路を断つ作戦を展開、ウクライナ側はヘルソン市に駐留するロシア軍を包囲したと主張しています。

 

ウクライナ側の強みは、NATOからの武器支援が実戦に配備されてきたことで、南部2州の奪還は可能だと見ているようです。とくに米国製のロケット砲システム「ハイマース」は、ロシア軍の弾薬庫や司令部などを破壊していると報じられ、戦況を好転させる「ゲームチェンジャー」になるとの見方もあります。

 

とはいえ、武器や弾薬をNATOからの支援に頼っているため、武器の供給が滞れば息切れになってしまいます。また、戦争が長期化すると、NATO諸国の「支援疲れ」が出てきそうです。その背景には、エネルギーや穀物価格の高騰によるインフレの進行があり、暖房用の天然ガスや石油の需要がふえる冬になれば、戦争よりもエネルギー資源が重要だという国民の声がそれぞれの政府を悩ますことになるでしょう。

 

一方のロシアは戦争が長期化すれば、経済制裁の影響が広がり、武器から日用品まで、その確保に苦しむと見られていますが、がまん比べならロシアは負けない、というナポレオンやナチスドイツの侵攻に耐えた「伝統」も生きているようです。とくに冬季を迎えれば、NATO諸国は、天然ガスの供給停止という切り札に屈すると見ているのでしょう。7月中旬にはドイツへの供給を10日間停止するという「予行演習」で、切り札の威力をちらつかせました。

 

NATO諸国は冬を迎える前の秋に戦争にめどをつけたいと考え、ロシアは冬になればNATOの足並みが乱れると考えている。そんな状況をニューヨークタイムズ紙のコラムニスト、トーマス・フリードマンは「NATOの秋戦略」と「ロシアの冬戦略」と名付けていました。

 

秋戦略も冬戦略も、夏を過ぎるわけで、戦争の長期化でもっとも苦しむのは、ウクライナの国民です。ロシアは、地上部隊を出せない遠方の地域にはミサイルを撃ち、占領しようとする地域にはミサイルと大砲の攻撃で町を破壊したあと地上部隊を送り込むという作戦を取っています。どちらも武器を持たない市民への攻撃が多くなり、毎日の攻撃が一般市民への攻撃を禁じた国際法違反の積み重ねになっています。

 

いったいどれだけ子どもたちを殺せば気がすむのか、とプーチン大統領には言いたい気持ちですが、民主主義の通用しない国の為政者は、子どもの命に気を配る必要はないのでしょう。大ロシアの再建という水晶宮を建てるのに子どもの涙が必要なら、いくらでも搾り取ってやる、という狂気すら感じます。プーチンの野望を挫くには、占領地域からロシアを追い出すしかないのでしょう。

 

朝日新聞のコラム「日曜に想う」(7月24日)で、国末憲人記者がウクライナ・ブチャでのロシア軍の残虐行為を取材した話の最後に、平和を取り戻すには闘いが必要だと、次のように書いています。記事を読みながら、私もこの結論に同意しました。

 

「平和を手にする唯一の方法は、ロシアの占領を許したままでの即時停戦などではなく、ロシア軍を撤退させることなのだ。ブチャの悲劇は、そう指し示す。険しい道のりだが、命の価値を取り戻す闘いである。私たちもしっかり支えたい」

 

(冒頭の写真はウクライナ外務省のツイッター画面から)

 

 

 


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