アベノミクスの終わり
安倍首相が辞任を表明しました。理由は持病の悪化ですから、ご本人にとっては、まさに断腸の思いだったと思います。しかし、日本経済は2018年10月を山にして景気後退局面に入っていて、ことし4月~6月期の経済成長は、コロナ禍もあり年率換算で27.8%も縮小しました。「デフレからの脱却」を掲げて2012年末に再登板した安倍首相でしたが、現状を見れば、日本経済の立て直しに失敗したと見るべきで、経済政策ではアベノミクスに代わる新しい政策を打ち出せる政権がとっくに求められていたのだと思います。
アベノミクスの柱は、なんといっても「大胆な金融緩和」で、2013年3月には、日銀マンとして保守的な金融政策をとる白川方明総裁に代わって、大蔵省(現財務省)OBの黒田東彦氏を総裁に起用して、金融緩和によるデフレ脱却をめざしました。黒田総裁は、世界的な景気回復を葉池に、国債の大量購入などによる「黒田バズーカ」で株価の上昇と円安誘導には成功しましたが、肝心の物価上昇という意味でのデフレ脱却は実現することができませんでした。この間、日銀は国債など買い続け、市中にマネーを供給した結果、中央銀行の健全性は大きく損なわれ、金融不安の火種を膨らませています。
新しい政権に求められる経済政策は、突飛なようですが、新自由主義からの脱皮です。安倍首相が4月にインスタグラムに自宅でくつろぐ動画写真を投稿したところ、「のんびりしている余裕は私たちにはない」という怨嗟の声が殺到、その声に押されたのか、減収世帯への30万円給付のコロナ対策が国民全員にひとり10万円給付に変更されたことがありました。官邸のインスタグラムに寄せられた乱雑な言葉遣いのコメントを見ながら、発信者の多くは若者だろうと想像するとともに、貧しい若者が増えているのだと思いました。その背景にあるのは、新自由主義を鮮明にした小泉政権(2001~06)の規制緩和策のもと、派遣労働が大幅に緩和され、正規社員の割合が大きく減ったことがあると思います。
コロナによる休業などで、主要国の雇用情勢はどこも悪化しています。米国の失業率は年初に3%台だったのが10%を超え、英国でも年初に3%台だったのが7%台に上昇しています。ところが、日本では年初の2.4%が6月は2.8%で、大きく悪化していないように見えます。これは、学生アルバイトやパートの主婦などが統計に現れない失業者として労働市場から消えているでしょう。仕事が奪われたことで、生活が苦しくなっている家計は多くなっていると思います。
1989年に冷戦が終わったあとのグローバリゼーションの時代を主導したのは新自由主義で、国家の間でも国民の間でも貧富の格差拡大をもたらしました。今回のコロナのパンデミックは、多くの国で格差社会の弱者の側に大きな犠牲と負担を強いているとみられ、コロナ禍の広がりは、マネーの増殖を助ける政策ではなく、人々の生活を助ける政策の必要性を強めています。
11月の大統領選を控えた米国では、民主党と共和党の2大政党が党大会を開き、それぞれの党が推す大統領・副大統領候補を決めるとともに、それぞれの政権公約を示す政策綱領も採択されました。民主党の綱領づくりでは、同党の候補者争いで最後までバイデン氏と争ったサンダース陣営のスタッフが積極的に参画した結果、社会保障政策などでサンダース色の濃い内容が盛り込まれました。その背景には、コロナ禍で失業したり、生活苦に陥ったりしている人々が多いことがあると思います。民主党政権が誕生すれば、欧州の社会民主主義的な政策が実行されることでしょう。
安倍首相が辞任しても、選挙による政権交代ではありませんから、新しい政権の政策は、自・公政権のなかでの微調整かもしれません。とはいえ、新自由主義が重視する金融政策を柱とするアベノミクスでは、コロナ禍の日本を救うことはできません。
安倍首相は、辞任表明の記者会見で新たなコロナ対策を説明しました。そのなかには、医療や介護従事者への定期的なPCR検査や、コロナ感染をきらって通院する患者の減少で収入が減っている医療機関への支援などが盛り込まれています。こうした政策は、コロナの広がりとともに、早くから求められていた政策で、介護従事者などへの社会的検査は、医療費の削減ばかり考えていて、医療費がふえることには消極的な国の姿勢にしびれを切らした東京・世田谷区などが実施しはじめたものでした。
新たな首相を選ぶことになる自民党の総裁選では、GoToキャンペーンのような場当たり的な政策ではなく、国民の生命と生活を守る政策をすばやく実行できる人物を選んでほしいと思います。それこそ新自由主義からの脱皮です。
(冒頭の写真は、辞任会見の場面を載せた官邸のHPから)
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