米の利上げが示すアベノミクスの終焉
米国の中央銀行が9年ぶりに利上げに踏み切りました。2008年のリーマンショックが世界恐慌につながるのを恐れた米連邦準備制度理事会(FRB)は、金利をほぼゼロに近い水準まで引き下げ、危機が深刻化を回避するのに成功、米国の景気は回復し、失業率も下がりました。しかし、この「非伝統的な金融緩和」をいつ「正常化」させるのかという「出口戦略」をめぐり、利上げしようとすると株式市場が大幅な値下がりで拒絶反応を示す、という繰り返しで、なかなか利上げができない状態が続いていました。
今回の利上げ発表で、米NYダウは200ドルを超える値上がりを見せました。株式市場は、すでに利上げを織り込んでいた、ということでしょうか。この日だけ見れば、FRBと株式市場との「対話」は、うまくいったということになります。NY市場の値上がりを受けて、日本を含むアジア市場の株価も上がり、FRBのイエレン議長は一安心といったところかもしれません。
とはいえ、これで米国経済も世界経済も、安定成長に向かうとは、とても思えません。むしろ新たな波乱の時代の幕開けだと見るべきではないでしょうか。というのは、米国を除けば、欧州も日本も、利上げに踏み切るほど景気が回復していないからです。
欧州は、ギリシャをはじめとする経済不安を抱えた国がいくつもあり、米国に追随して利上げをすれば、こうした国々が財政破綻を起こす恐れがあります。日本も「大胆な金融緩和」を主軸とするアベノミクス路線が継続中で、安倍政権が掲げるデフレ脱却を実現するには、日銀が利上げに舵を切ることはできません。
金融緩和という温泉で日米欧の三人組は体を癒していたけれど、元気になった米国が日欧にさよならを告げて、「ふつうの生活」に戻っていったわけで、そうなると、目いっぱい働く米国と、まだまだ療養中の日欧との利害が対立する場面がふえてくると思います。
金利の高いところにお金は流れますから、途上国を含め世界での投資を促していたマネーが米国に向けて逆流する結果、米国をのぞく世界景気が悪化するおそれがあります。日欧を含め世界の通貨はドルに対して安くなりますから、そうした国々では、通貨安による輸入物価の上昇で、インフレ傾向を強めるでしょう。不景気とインフレが同時に起こるのをスタグフレーションと言いますが、それが現実味を帯びてくるでしょう。
一方、米国は金融政策を正常化させる一方で、景気回復を進めることができるでしょうか。おそらく利上げやドル高に耐えられる企業は、ますます強くなるかもしれませんが、耐えられない企業も出てくると思います。企業の淘汰は生き残った企業をさらに強くしますが、淘汰される企業が残した不良債権は、サブプライムローンのように、金融全体を痛める可能性があります。米国に舞い戻ったドルは、米国をバブルにするだけで、生産力を高めるとは思えません。
「正常化」は必要かもしれませんが、そこに至るには、大きな犠牲が伴うように思えます。日欧がその犠牲者になるおそれは十分ですが、米国内の企業にとっても安泰ではないでしょう。遠からず、各国の通貨を守るために各国の中央銀行は利上げを志向せざるをえなくなると思います。日本では、アベノミクスの終焉ということになります。米国の利上げで、日本の景気後退がはっきりすれば、消費税の引き上げどころではなくなるでしょう。軽減税率をめぐる大騒ぎは「獲らぬ狸の皮算用」になるかもしれません。ここでも安倍政権の賞味期限が過ぎたことがわかることになると思います。
この記事のコメント
-
今年は景気がよかったのですかね。GDPは民主党政権の時の方が
よかったという話が出ていました。果たしてどの階層がよかったのでしょうね。
コメントする
前の記事へ | 次の記事へ |
アベノハルカスとアベノミクスを混同している人がいる。アベノハルカスは大阪・阿倍野にある高層ビルである。冗談はともかく「一億総活躍社会」というのが解らない。ドルの利上ゲによって発展途上国からのドルの「戻し」によって不景気にならないかと心配である。