日中合作の大作映画「空海」
日中合作の大作映画「空海」
平成30年 2018 3月
仲津 真治
実に美しい映像、しかも込み入ったお話しなので、御関心の向きは矢張り、
ご自身御覧になって下さい。全国の東宝系で上映している由です。此処では、
作品の特性やフレームを記したいと思います。
1) まず第一に、原作者の「夢枕漠」がチャイナの人ですが、小田原市生まれの
日本育ちで、東海大学を出ており、実質日本人と変わらず、作品は通例、
「日本語」で書かれています。 懸かる作家の作品を「日中合作の大作の
原作に選んだことに、ひとつの、この映画企画の特色を感じますね。因みに、
原作は、「沙門空海唐の国にて鬼と宴す」というものです。 斯くて、主人公は空海その人で、邦人俳優 「染谷将太」が演じています。
遣唐使の留学僧「空海」が実際何を学び、修行していたのか、真言密教の奥義を習得すると語るところが少しあるだけで、原作も映画もあまり触れていません。この作品では、楊貴妃の変死を巡るミステリーの謎解きに、優秀な空海が詩人白楽天ともに、活躍するというものです。
2) 第二に、映画の製作・総指揮は「角川書店」の「角川歴彦」で、挨拶文も出
ています。
3) 次に、日本での上映作品は日本語版で、空海も白楽天も阿倍仲麻呂も、玄宗
も楊貴妃も皆、日本語を話しています。日本人以外の登場人物は皆、専門の役者
が吹き替えているのです。 斯くて、先行上映されたチャィナでは、日本語場面は、中国語に吹き替えられていると推定されます。これで、この映画を巡る疑問は実視により、解消しました。
なお、字幕は縦書きの解説タイトル以外は、使用されていませんでした。
4) それから、原作と映画の大きな違いは、空海の友人となる現地の詩人が白楽天(白居易の字)だと言う事です。 これは、ほぼ同時代の唐の三詩人 白楽天、詩仙の李白、詩聖の杜甫の内、白楽天が日本で最も人気がある事を考慮した思われます。
5) それは、本作品の監督(チャィナの人 陳 凱歌)の意向でありましょう。 実際、各キャストの人選は、陳監督に拠ると聞きました。
6) ところで、映画の中で、楊貴妃には異民族の血が流れているとの科白が、当人自身から語られます。 それを反映した結果か、楊貴妃を演じたチャン ロンロンと言う女優は、フランス人とハーフの由です。 これも陳監督の考えであったと言われます。 民族主義が加熱する現チャィナでよくぞ大胆にと思わせますね。
7)もっとも、唐の帝室自体が、「鮮卑」という遊牧民族の出自と言う事が知られています。 所謂「漢族」では無いのです。ただ、この事は、この映画の何処でも、また解説でも触れられていませんでした。
8)話題を転じますが、この映画では、VFXと言う特殊撮影技術や装置が結構用いられています。 最も多いのが、幻術と言う事でしょうか。妖猫が登場するところです。映画製作者の注文を受けて幾つかの国から、そうしたノウハウを持つグループが応募しました。このコンペには、日本のチームが優勝し、斯くて作品作りに参画した由です。 大したモのですね。素人分かりするように言えば、それは複雑なCG作りでしょうか。人の声を話す妖怪猫とは、もとより幻影で、実在しません。
9) 他方、馬が頻りに登場しましたが、いずれも立派な大型馬でした。昔の小振
りなアジア馬はさすがに居ませんでした。 日中ともに用意出来なかったようです。
其れやこれやで、実に錯綜し、縁や関係の輻輳した物語なのです。
10) 末筆となりますが、今回、この映画を鑑賞することを通して、空海と弘法大師の関係を初めて知りました。 二人はもとより同一人物ですが、空海とは実名であり、西暦七百七十四年讃岐に出生、西暦八百三十五年高野山で入定、享年六十二歳となっています。 他方、弘法大師とは、西暦九百二十一年 延喜二十一年、嵯峨天皇から謚号 即ちおくりなされているものです。
私どもが子供の頃、親に連れられて、大阪の四天王寺にお彼岸でお参りし、御大師さんと言って参詣していたのは、この事に由来する様です。
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三水会の松岡です。私もこの映画を観ました。仲津さんの解説、参考になります。四の五の言わず、楽しむ作品ですね。