権力に群がり、公金をむさぼる人たち
かつて、この国には「ブルドーザー宰相」と呼ばれた政治家がいました。新潟が生んだ鬼才、田中角栄氏です。苦労を重ねて首相まで上り詰めた人だけあって、人々の心の襞(ひだ)をよく知り、一方で利権漁りも得意でした。公共事業がらみの情報をいち早く入手して土地を転がし、土建業界から得た資金で政界を牛耳り、日本列島改造論をぶち上げました。「ブルドーザー宰相」と呼ばれた所以です。
その内実が立花隆氏の論考『田中角栄研究-その金脈と人脈』(1974年)で暴かれ、2年後にはロッキード事件が発覚して、角栄氏は政治の表舞台から消えていきました。これ以降、土木建設工事をめぐって談合事件の摘発や報道が相次いだこともあって、公共事業や土地転がしで巨利を得るのは段々と難しくなっていきました。
代わって、政治家の金づるになったのが株取引です。その象徴的な事例が、値上がり確実な未公開株を政治家や官僚にばらまいて便宜を図ってもらったリクルート事件(1988年発覚)でした。この事件には多くの政治家や官僚が関与し、当時の竹下登首相は辞任、藤波孝生(たかお)官房長官は受託収賄罪で有罪判決を受けました。
公共事業で利権を漁るのはダメ。株取引で甘い汁を吸うのもいけない。ならば、政治家はどうやって資金を得ればいいのか――。1990年代に政治改革論議が高まり、政党交付金の制度ができたのは、そうした政治家の悲鳴に応えた面もありました。「税金で面倒を見るから、汚い金には手を出さないでね」というわけです。その延長線上で、地方議員にも政務活動費(旧政務調査費)という公金が支給されるようになりました。
とはいえ、どんなに手厚い制度を作っても、権力に群がり、公金をむさぼろうとする連中がいなくなるわけがありません。それは、森友学園問題や最近、報道が増えた愛媛県今治市の獣医学部新設問題を見れば、明らかです。安倍晋三首相のお友達が経営する学校法人「加計(かけ)学園」が新設を計画している岡山理科大学の獣医学部には、今治市が16ヘクタールの土地(36億円相当)を無償で譲渡し、愛媛県と今治市が総事業費の半分96億円を負担することになっています。注がれる公金は締めて132億円。これがタダで手に入るわけですから、関係者は笑いが止まらないでしょう。
小泉政権が「構造改革特区」構想を打ち出してから、加計学園は獣医学部を新設したいと15回も提案したのに、これまでは「獣医師は足りている」という日本獣医師会の意向や文部科学省の反対にあって、ことごとく却下されていました。それが安倍政権になり、「構造改革特区」が「国家戦略特区」に衣替えされた途端、トントン拍子に事が進んだというのですから、便宜供与がなかったと考える方がおかしい。
森友学園問題では、矢面に立った財務省が「関係書類は保存期間が過ぎたので全て破棄した」とか「土地売却費の8億円値引きは適正な手続きに基づく決定」とか、強弁と詭弁を繰り返しています。加計学園問題では、獣医学部の新設容認が「総理のご意向だと聞いている」と記した文部科学省の内部文書について、菅義偉(すが・よしひで)官房長官が「怪文書みたいな文書じゃないか」と迷言を吐く有り様です。
私たちの社会にとって深刻なのは、こうした政治家や官僚の醜い対応が「教育」を舞台にして為されている、ということです。次の時代、未来を担う人間をどうやって育てていくのか。それを考え、実践していくべき場で、公金をむさぼる行為がまかり通り、不正をごまかす言葉がまき散らされているのです。憂うべきことです。
自民党や文部科学省は「人間としての生き方についての考えを深める学習が必要だ」として、道徳をこれまでの「教科外の活動」から「教科」に格上げすることを決めました。来年以降、小中学校で正式に教科としての道徳の授業が始まります。いっそのこと、森友問題や加計問題での政治家や官僚の嘘とごまかしをそのまま教材にしてはどうか。子どもたちにとって、何より分かりやすい「道徳の反面教師」になるのではないか。
子は親の背中を見て育つ、と言います。政府が嘘とごまかしで押し切ろうとする姿を見ていれば、子である都道府県や孫である市町村も右ならえをすることになります。実際、私が暮らしている山形県でも似たようなことが起きています。全国津々浦々で続く公金のむさぼり合い。こんなことを許していたら、それこそ、国が滅びてしまいます。
≪参考文献・記事&サイト≫
◎『田中角栄研究-その金脈と人脈』(立花隆、月刊誌『文藝春秋』1974年11月号)
◎リクルート事件(ウィキペディア)
https://ja.wikipedia.org/wiki/リクルート事件
◎加計学園の獣医学部新設問題に関する報道
・2017年5月18日付の朝日新聞、毎日新聞(山形県で販売されている版)
・2017年5月25日付の朝日新聞(同)
◎今治市と愛媛県の獣医学部新設に伴う負担に関する報道(毎日新聞のサイト)
https://mainichi.jp/articles/20170304/ddl/k38/010/544000c
◎道徳教育について(文部科学省の資料)
http://www.mext.go.jp/道徳教育について.pdf
≪写真説明とSource≫
◎愛媛県今治市に新設される岡山理科大学獣医学部の完成予想図
この記事のコメント
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錬金術に教育が利用されたこと、それも戦前の日本に戻そうとする教育だから「日本会議疑獄」です。
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>子は親の背中を見て育つ
>政府が嘘とごまかし
>子である都道府県や孫である市町村も右ならえ2022年の現在地。日本中が「嘘とごまかし」で満ち溢れ、それがデフォになっています。
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角栄さんが党内で実権を握り続けることができたのは、おカネの力があったからだと思います。一方、安倍さんの権力は、おカネよりも世論の支持率だと思います。
政党交付金が資金力のある派閥のボスよりも、支持率をかせげるボスを求める構造に政党を変化させているのかもしれません。
安倍さんの支持率がそれほど悪化しないのは、旧来型の贈収賄の姿が浮かんでこないからのように思えます。
もちろん贈収賄的な政治がなくなっているとは思いませんが、カネと政治の変化が安倍さん固有の現象なのか、政治全体が変わっているのか、研究の余地があるように思います。