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インターネットマガジン創刊編集長、井芹昌信さんをしのんで (ネットコミュニティ3代ばなし)

2024.07.05 Fri

日本におけるインターネットの普及を先導してきたひとりの井芹昌信さんが6月に60代半ばの若さで亡くなりました。井芹さんは1994年「インターネットマガジン」(インプレス発行)の創刊編集長に就任、2006年に休刊するまでインターネットを活用するサービス提供者やその他の関心層に向けて渾身の力を込めて情報を届けてきました。その後は電子出版の発展・普及に尽くし、NextPublishingというプラットフォームを開発提供してこられました。まだ、その道の途上だったと思われます。2019年に出していただいた私の『ニュースメディア進化論』は、そのシステムを使った紙の本と電子書籍の出版でした。

2017年に「インターネットマガジンReboot」が出ました。そこには「インターネットマガジン」創刊号復刻版も付録として添えられていました。Reboot版の中のコラムに書けと井芹さんから要請を受け「ネットコミュニティ3代ばなし」というのを書きました。実は、私にとって「インターネットマガジン」はマニアックすぎて少々敷居が高い存在で、当然執筆したこのなどいちどもありません。ですから、コラム執筆の声をかけてくれたのはとてもうれしいことでした。以下に、その文章を再録します。TikTokが有力になっているなどの昨今の情報が入っていませんが、基本の構図は変わってないと思われます。

ネットコミュニティ3代ばなし

インターネットが一般個人に普及し始めた頃、それは「ホームページ」を見るためのものというイメージが強く、コミュニケーションの場という印象は弱かった。そのインターネットに、パソコン通信のフォーラムやSIG(スペシャルインタレストグループ)のように交流の場をつくる発想を受け継いで広まったのが掲示板やメーリングリスト(ML)である。これらは、いまでもツールとして根強く使い続けられている。

私が1997年に興した会社(未来編集)では、掲示板とMLをシンクロさせたサービスをNTTと共同開発し、「アットクラブ」の名称で提供した。いわばネット上のサークル会館のようなもので、どこの誰でも好きなテーマの部室を持って、部員を募ることができるというものだった。

これら第1世代の後、コミュニティサイトの主流は、貸し部室型ではなく、価格コムや食べログ、クックパッド、アマゾンのような、特定のテーマやジャンルに特化して、コメント欄やレビュー欄を内部に持つ第2世代に移った。これらはテーマに即したコンテンツやメニューが充実しているので、関心層が多数集まり、コミュニティを形成しやすい。

大きく育ったSNS

一方、この10年の間に急成長したSNSは個人が自由に表現・発信でき、読む人・見る人も何らかの反応ができるメディアとして、従来のマスメディアと並ぶ大きな存在となっている。そのうち、利用者の相互交流の度合いの大きいLINE、フェイスブック、ツイッターは第3世代のコミュニティサイトと言ってもいいだろう。

LINEは、日常的な交友関係を持つ人たちを中心としたチャットトークが行き交うメディアであり、自由にグループを作ることもできる。

フェイスブックの多くのユーザーは面識のある人を中心に「友達」関係を形成している。いわば同窓会のような社交の場であり、ある面を知っている人の、いまの行動が見えたり、新たな面を“発見”できる。それによって、面識を得ただけよりも関係が深まるという付加的な満足をもたらす。

LINEとフェイスブックは第1、第2世代と異なり、ネットだけで完結せず、物理的な対面・交流関係の場と連なったり相補関係を持つことが多いのも特徴である。

ツイッターでの発言は、見知らぬ人が通る街頭で演説をするようなもので、多くの人にとってはミニコミだが、気に留めてくれる人(フォロワー)を一種のファンクラブのように組織できる。トランプ大統領のように2000万人ものフォロワーがつくのは例外中の例外だが、マスメディアと言っていい例も多い。

人を軸にした新たな発展

これら第3世代の3大コミュニティサイトに共通するのは、テーマ以前に「人」を軸につながりが作られていることである。

では、以上のような流れの次には何が来るのだろうか。私が注目するのは、これまで「1対多」というコミュニケーション構造を堅固に維持してきたマスメディア、教育、医療・介護といった世界がいま「対話性」をどう組み込むかの模索をしていることである。それらの先に共通して見えてくるのは、意欲ある「人」を軸にして相互触発的に知識創造を追求するような「学びのコミュニティ」ではないだろうか。

 


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