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危機管理としての「前橋強姦事件」

2016.09.10 Sat
社会

最近、前橋に3日間滞在したのですが、有名女優の息子が強姦致傷の疑いで逮捕された舞台が前橋だったそうで、地元の人と話をしていると、あそかが例のホテルとか、例の居酒屋とか、「例の」がたくさん出てきて、歴史の戦跡を訪ねているような気分になりました。

ところで、その事件に関連して、女優の危機管理という側面からひとこと言いたくなりました。というのは、不起訴処分で釈放されたあとで出された弁護士のコメントを読んで、セカンドレイプという言葉を思い出したからで、危機管理から見ればこれは失敗だと思ったからです。問題だと思っのは、弁護士のコメントのなかにあった次の一文です。

「一般論として、当初は、同意のもとに性行為が始まっても、強姦になる場合があります。すなわち、途中で、女性の方が拒否した場合に、その後の態様によっては強姦罪になる場合もあります。このような場合には、男性の方に、女性の拒否の意思が伝わったかどうかという問題があります。伝わっていなければ、故意がないので犯罪にはなりません」

これは「一般論」という言葉を使いながら、今回の事件は、こういうことだったということを強く示唆したものでしょう。コメントには、自分たちは被疑者の話は繰り返し聞いているが、他の関係者の話を聞くことはできなかったので、事実関係を解明できていない、というくだりもあります。つまり、上記のストーリーは主に被疑者の言い分をもとに推察したということでしょう。

被疑者と被害者との間には示談が成立したそうで、示談書の内容は公表されていませんが、一般論としては、「被害者とされた女性」は、この事件について何もコメントしない、という内容も入っているでしょうから、この弁護士が一般論として強く示唆した内容を否定することは難しいのではないでしょうか。

事実関係は、それこそ当事者しかわかりませんから、弁護士が強く示唆した内容が真実かもしれませんが、被疑者以外の関係者の話を聞いていないのですから、そうでないかもしれません。だとすれば、少なくとも、弁護士が示唆した内容と異なることが起きていた可能性はあり、そうだとしたら、被害者の女性はレイプされたうえに、「強く拒否しなかった」という過失を責められていることになります。

取り調べの段階や裁判の場なので、警察官や弁護士、メディアなどから、レイプされた側にも隙(すき)があったと非難されたり、レイプの様子を根掘り葉掘り聞かれたりすることをセカンドレイプと呼ぶそうです。この弁護士のコメントは、相手に明確な拒否を示さなかったのではないかと、一般論という形ではあれ非難されているわけで、セカンドレイプの可能性がある、と思います。

不起訴処分を勝ち取ったということで、弁護士は得意になったのかもしれませんが、このコメントに不快感を抱いたのは、私だけではないと思います。「不起訴処分になったということは、公判維持が難しいということですから、そのあたりをご推察ください」程度のことを、弁護士が非公式に記者に語ることは、一般論としてありうるかもしれませんが、コメントとしてメディアに配布するというのは、異常と言うか、私には理解できない行動です。

弁護士は、法的に有利な結果を導くのが第一の役割ですが、このごろは記者会見などにも立ち会う機会があるということは、依頼人の危機管理という役割も果たしているのだと思います。そういう点から見ると、このコメントは、依頼者側である有名女優のイメージも悪化させたのではないかと思います。

女優は記者会見のときに、「被害者という女性」という言い方をしたような記憶があり、私は違和感を抱いたのですが、今回のコメントをあわせて考えると、女優やその息子が「ご迷惑をかけた」と謝罪したのは、世間さまや、仕事先にであり、相手の女性に対してではないということなのでしょう。女優が会見したときに私が抱いた印象は、愚かな息子を持ったけれど、それでも息子に寄り添うけなげな母親というものでしたが、今回のコメントで、けなげな母親を見事に演じていたのだな、という気持ちに変わりました。

私の印象を一般論に広げるのは無理かもしれませんが、私と同じような感想を持つ人がいれば、弁護士の危機管理としては失敗ということになります。被疑者は実刑を免れない、というトーンで報じていたワイドショーは、事件性はなかったということで、振り上げたこぶしをおろすのでしょうか。それとも、事件をなかったことにした被疑者側にこぶしをむけるのでしょうか。危機管理の一般論でいえば、この弁護士のコメントは、相撲に勝って勝負に負ける、ことになりはしないかと思います。


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