備忘録(14)ビッグモーターのモラルハザード
保険金の不正請求などが問題になっているビッグモーターに国交省が立ち入り検査に入りました。同社の全店舗34か所と報じられていますから、国交省も本腰を入れての調査ということになるのでしょう。連日、メディアの報道が続く「大事件」なので、政府も迅速かつ徹底的な調査で、“やる気”を国民に示したいところです。そうなると、次の“やる気”は、ビッグモーターの不正を容認していたとも見える損保会社に対する金融庁の調査や検査になるのでしょうか。
保険業界の用語に「モラルハザード」という言葉があります。保険による補償がかえって事故の確率を高めるという意味です。たとえば、車両保険に入っていると、事故を起こしても保険がカバーしてくれるからという安心感から事故がふえる、といったこと現象が起きる場合です。医療保険によって医療を受ける人がふえると、見かけの上では、医療費が増大して病気の人がふえたことになります。これもモラルハザードかもしれません。
モラルハザードは、保険という仕組みが誘発する副作用みたいなものですが、今回の事件で明らかになったのは、それだけではありません。車の修理も兼ねる販売会社が自動車保険の代理店になった場合、保険会社は自販会社から保険を回してもらう見返りに、自販会社の修理部門からの保険の水増し請求を大目に見るという、新たなモラルハザードを起こしていることになります。
仮に単独の修理会社が過大な修理代の保険会社に請求すれば、厳しい査定で保険金の支払いは値切られるはずです。保険会社がそれをしなかったのは、保険契約を回してくれるというメリットがあるうえ、水増し請求による余計な支払いは、翌年からの保険料の引き上げでカバーできるという計算があるからでしょう。ビッグモーターと損保会社はウィンウィンの関係にあり、ババを引いたのは、保険料の引き上げで損する消費者ということになります。
さらにいえば、大量の水増しの結果、保険料の水準が高くなるのなら、その損保会社と契約するすべての顧客が損をかぶることにもなります。損保会社がビッグモーターによる恒常的な水増し請求を知っていたとすれば、保険契約をした顧客への背信行為ですから、その責任は重いと思います。
「耳を疑った。愕然とした」「ありえんです。本当に許しがたい」。ビッグモーターの兼重宏・前社長が社長としての最後の会見で、保険金を水増し請求するために車体を故意に傷つける不正行為が横行していたとの特別調査委員会の報告書について語った言葉です。この言葉を全部、兼重前社長に返したいですが、ビッグモーターに延べ37人もの社員を出向させた損保会社があると聞くと、兼重前社長の言葉を損保会社にも言いたくなります。
それにしても、この国の経済は、倫理観を喪失させないと成り立たないような状況に陥っているのでしょうか。まさに日本版モラルハザードです。
(冒頭の写真は、ビッグモーターのHPから)
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