備忘録(13)広島サミットの「デリスキング」
広島サミットは、ウクライナのゼレンスキー大統領が参加する“ハプニング”で、メディア的には盛り上がりました。海外メディアは、G7をさほど大きな扱いで報道してきませんでしたが、「ゼレンスキー訪日」のおかげで、トップニュースになりました。
各国の首脳には広島の地で、核廃絶への思いを新たにしてほしいというのが多くの日本人の願いだったと思いますから、ゼレンスキー旋風で、その思いをもっていかれたという印象が残ったと思います。一方、サミットを取材する記者団にとっては、膨大な「成果文書」よりも、ゼレンスキー氏の注目度が高いので、歓迎すべきハプニングだったと思います。そして、出席した首脳たちにとっても、このハプニングで、サミットのニュースの扱いが大きくなったわけで、極東の日本まで来た甲斐があった、ということになったのではないでしょうか。
私が広島サミットで着目していたのは、中国への対応です。米中対立を背景に、これまでは中国を国際市場から切り離す「デカップリング」の議論が強かったのですが、ロシアのウクライナ侵攻で、中国を追い詰めればロシアとの結びつきを強めるだけという見方も出てきていたからです。
採択されたG7首脳コミュニケには、中国を念頭に次のような下りがあり、「デカップリング」(de-coupling)ではなく「デリスキング」(de-risking)という方向感覚が出されました。
「デカップリングではなく、多様化、パートナーシップの深化及びデリスキングに基づく経済的強靱性及び経済安全保障への我々のアプローチにおいて協調する」
デリスキングという言葉は、私は初耳だったのですが、米国を含め、G7各国とも中国への貿易依存度は高いため、中国を「分離」する政策は難しいけれど、先端技術の流出を防ぐなどの手当てで「リスク低減」はできそうだ、というのでしょう。中国との決定的な対立は避ける、という姿勢がにじみ出た声明で、中国はほっとしているかもしれません。あるいは、中国抜きでG7の経済は成り立たないことを知らしめたと思っているかもしれません。
中国はG7声明を受けて、早速、日本の駐中国大使を呼んで、G7声明に内政干渉だと抗議しました。マクロン仏大統領の訪中で、流れは変わったと見たのでしょう、米マイクロン製品の中国市場からの締め出しなど追い打ちをかけているようにも見えます。
中国は、ロシアカードをちらつかせながら、G7による中国封じ込めを切り崩していこうとしているのでしょう。そうなると、日中間では、日中の首脳が相互に相手国を訪問することも視野に入っているのかもしれません。
日本がその戦略にそのまま乗ることはできないのは当然ですが、中国の「リスク低減」という目標を定めれば、防衛力の強化だけではない幅広い選択肢もでてくると思います。
東アジアの平和と安定という視点でみたときに、広島サミットの「デリスキング」がひとつの節目になった、ということになることを期待したいと思います。
(写真は広島サミットの公式ページに掲載されたG7首脳とゼレンスキー大統領の集合写真)
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