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安藤竜二著『ハチ暮らし入門』を読む

2023.02.11 Sat
社会

山形県朝日町の朝日岳山麓で蜜ろうキャンドルを作っている安藤竜二さんの新著『ハチ暮らし入門』(農文協)を読みました。キャンドル作りのほかに、養蜂家としてミツバチを飼い、アシナガバチによる無農薬栽培の普及活動に取り組み、そして「ごめんね」と言いながらスズメバチを駆除する安藤さんのハチたちとの交友録ともいえる本書は、ふだんハチと出会う機会が少ない私にとって、とても新鮮で面白いものでした。

 

なんといっても、驚いたのは、「実録!刺された回数と痛さランキング」の表です。「痛い順」のトップは、オオスズメバチで、刺された回数は3回、説明欄には「刺された瞬間は、打撲に近い衝撃を感じました」とあります。2位はキイロスズメバチで、回数は十数回、「刺されて蕁麻疹が出たことが一度ありましたが、その後は平気に。ついに腫れずに痒くもならなかった時はうれしかったです」。

 

養蜂家ですから、飼育しているセイヨウミツバチからの刺され方を見ると、痛さの順位は5位、回数は「おそらく1000回以上」、「養蜂の仕事をしていれば、刺されない日もありますが、1日に平均1匹は刺されているでしょう」となっています。本文には、「信じてもらえないかおしれませんが、蚊に刺されるくらいなら、ミツバチに刺された方が楽なのです。プロの養蜂家であれば、みんなそうだと思います」と書かれています。

 

野原でハチに遭遇すると、刺されると恐怖心を持ちますが、本書を読むと、刺すハチはスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチの3種類で、「すべてのハチは人を襲う」というのは誤解だとあります。恐ろしいのはスズメバチですが、季節によって攻撃性は異なり、夏から秋にかけて巣が大きくなるにつれて、攻撃力のある働きバチの数も増え攻撃力も最大になるのだそうです。

 

むやみに恐れることはない、というわけですが、それでも、テレビでときどき放映されるスズメバチの駆除場面を見ていると、恐怖心が募ります。しかし、著者によると、駆除は夜間が基本だそうです。昼間だと巣に帰っていない働きバチがいて再び巣のあった場所に戻ってくる可能性があるうえ、昼間は攻撃性が強いからだと言います。「ハチを極力怒らせない」のが駆除の原則なのに、攻撃的なスズメバチを強調するテレビ映像は、一種の「やらせ」なのかもしれません。著者は、こうした風潮をつぎのように書いています。

 

「テレビやネット動画では、必要以上にハチを恐ろしい悪者に仕立て上げ、大げさな駆除や、まるで武勇伝を誇るかのような撃退の様子が撮影されています。中には、エアガンや連発花火、自作の火炎放射器、高圧洗浄機などを使って、小さな鈴馬蜂屋アシナガバチの面白おかしく、かつ凄惨に駆除しているものまであり、逃げ惑い傷つくハチたちを見ていると、心が痛くなります」(2章「知っておきたいハチの生態」)

著者紹介によると、養蜂家に生まれた筆者が日本で初めて蜜ろうキャンドルの制作を始めたのは1988年です。「ハチ暮らし」のベテランの著者がアシナガバチとの共生に取り組むきっかけは2018年のことでした。アシナガバチの巣の駆除を頼まれたときに、「駆除するには忍びなく、ビニール袋で巣ごと生け捕り」にして、自宅のベランダに移住させました。すると、母バチがイモムシを捕らえて幼虫に餌として与える姿を発見、筆者はアシナガバチを益虫として使うというアイデアがひらめいたそうです。「アシナガバチ畑移住プロジェクト」の始まりでした。

 

駆除を頼まれたアシナガバチを無農薬栽培の農家や家庭菜園のある一般家庭にアシナガバチを移住させ、日本中で農薬の使用を減らそうという壮大なプロジェクトです。朝日町に隣接する大江町で、無農薬で化学肥料を使わない農業を実践している「はしもと農園」の協力を得ながら、アシナガバチの巣を狙うスズメバチが侵入しない巣箱を開発するなど移住プロジェクトの普及に努めています。著者はこのプロジェクトの目的を次のように語っています。

 

「農薬を使わない農家さんがアシナガバチのおかげで少しでも害虫駆除が楽になれば、日本にもオーガニックの農作物が増える一助になる」(3章「アシナガバチ」)

 

私が安藤さんに会ったのは30年近く前だったと思います。安藤さんの工房であり、活動拠点でもある「ハチ蜜の森キャンドル」も何度か訪ね、ハチにまつわる話をいろいろと伺いました。そのなかで、いろいろな種類のあるスズメバチのなかで、もっとも痛いというハチにはまだ刺されていないのだけれど、刺されてみたいという気もある、という話が印象に残っていて、その後、刺されたのだろうかと本書を読んだら、「チャイロスズメバチ」のところに、次のような記述がありました。

 

「(チャイロスズメバチは)キイロスズマバチと戦うために、スズメバチのなかではもっとも硬い鎧を着ていて、ハチ毒も強いと聞いた記憶があります。残念ながら私は未経験です。いろいろなハチに刺されてみたいのですが、さすがに捕まえてわざと刺してもらうのは怖くてできません。いつか不意に刺してくれることを、密かに期待しています」(4章「スズメバチ」)

 

まだ刺されていなかったようですね。ハチに興味のある人だけではなく、都会暮らしの私たちにも、自然と共生する大切さを教えてくれる刺激になると思います。

 

(文中の写真は、「ハチ蜜の森キャンドル」のウェブページ。https://hachimitsut.thebase.in/)

 


この記事のコメント

  1. 中北 宏八 より:

    興味深い話ですね。我が家にはスズメバチの巣があるのですが、いつの間にか出来ていて、駆除する必要はありませんでした。刺されるといえば、駒場の学生時代、毛虫に刺され、診療所で数時間うなった経験があります。

  2. 安藤竜二 より:

     このたびは拙著をご紹介下さりありがとうございます。私にとって念願の一冊でしたから、高成田さんに取り上げていただいたことは、飛び上がるほどうれしく感激しております。
     蜂は人知れず人の生活を支えてくれている側面があるのに、人に知られてしまうと駆除されてしまうことに常々申し訳なく感じていました。人も蜂も自然です。蜂に対する間違った価値観を払拭して、より良い関係に戻さなければ、自然との共生だなんてまだまだ先のこと思います。
     蜂と自然に長年生かしてもらってきた身として、しばらくこのことに情熱を注ぎたいと考えております。それが自然と蜂への恩返しになれるならとても幸いなことですから。
    今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

  3. 安藤竜二 より:

     このたびは拙著をご紹介下さりありがとうございます。私にとって念願の一冊ですから、高成田さんに取り上げていただいたことは、飛び上がるほどうれしく感激しております。
     蜂は人知れず人の生活を支えてくれている側面があるのに、人に知られてしまうと駆除されてしまうことに常々申し訳なく感じていました。人も蜂も自然です。蜂に対する間違った価値観を払拭して、より良い関係に戻さなければ、自然との共生だなんてまだまだ先のこと思います。
     蜂と自然に長年生かしてもらってきた身として、しばらくこのことに情熱を注ぎたいと考えております。それが自然と蜂への恩返しになれるならとても幸いなことですから。
    今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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