花見酒の政治
ことし1年の政治を振り返って、安倍政権のありようを象徴しているのが「桜を見る会」をめぐるスキャンダルでしたね。
毎年首相が各界の功労者を招いて新宿御苑で開く「桜を見る会」に、安倍首相の地元後援会の人たちが多数招かれていることが公私混同だと、国会で批判されたのがきっかけでした。政府は、来年の会を中止して、今後のあり方を見直すということで幕引きをはかろうとしたのですが、問題はそれだけではありませんでした。
安倍政権になってから、招待者の数がふえ、予算を大幅に上回る費用がかかるようになったこと。桜を見る会で、反社会的勢力とみられる人物らと菅官房長官が握手している写真がネットに流れ、セキュリティーのチェックが働いていないことが露呈したこと。会の前日に安倍事務所が主催して高級ホテルで開いた前夜祭の会計が首相後援会の政治資金収支報告書に記載されていなかったこと。マルチ商法で多くの被害者を出し経営破綻したジャパンライフの会長が総理枠と思われる枠で招待されていたこと。会に料理を提供したケータリング会社の経営者が安倍夫妻のお友だちだったこと。
まるで疑惑の花の満開ですが、その極め付けは、桜を見る会の実際を明らかにできるはずの参加者名簿が作成者の内閣府によって破棄されていたことです。国費を使うのにふさわしい各界の功労者が招かれているかどうか、反社勢力などが入り込んでいなかったかどうか、招待状に応じて出席したかどうかなど、招待者リストは会を運営するのに不可欠な資料です。
それなのに、会が終わって数か月もたたないのにリストを廃棄したうえ、データサーバーからも復元できないように処分するなど、異常ともいえる行動の連続でした。内閣の不適切な行為を隠ぺいするための資料廃棄としか思えません。
毎年恒例の桜を見る会は、首相が各界の功労者を招き、いろどりを添えるために芸能人も招き、といった娯楽行事で、国政を左右するような会合ではありません。そのなかに内閣の閣僚や与党議員も親しい人が紛れ込むのも、目くじらを立てるようなことではないかもしれません。しかし、首相が選挙区の人たちを千人超も招くのは、公職選挙法からみても「やりすぎ」ですし、反社勢力の人たちやマルチ商法で被害を与えていた人が招かれていたとすれば、だれが、招いたのかを調べて、再発を防ぐ必要があります。
森友学園や加計学園では、首相の「お友だち」が土地を安く購入できたり、学校の許認可が安易に行われたり、といった疑惑が指摘されました。また、森友学園の問題では、財務省が公文書を書き換えたことが明らかになりました。いずれも、役所側の「忖度」が問題になりました。
今回の花見の会も、首相の後援会という私的な関係者が優遇されて会に招待されたことや、そうした事実を検証するための公文書が安易に破棄されたことなどは、森友・加計問題と同じような構図であり、まさに安倍政治のありようを象徴しているように見えます。
花見酒という落語があります。花見の場所で酒を売って儲けようと考えたふたりがお酒の入った樽を担いで花見の場所に出かけます。途中で、お酒を飲みたくなったひとりが、自分のお金を相方に渡してお酒を飲み、相方も飲みたくなったので、そのお金を相方に渡してお酒を飲むことを繰り返しました。その結果、花見の会場に着いたときには、酒樽がからになったのに、実質の売り上げはゼロだった、というお話です。
この落語をたとえに、1960年代の日本経済を分析してみせたのが笠信太郎の『花見酒の経済』(1962)で、見かけ上は経済が成長しているように見えても、実質は仲間内でお金が回っているだけで何も変わっていないという経済に警鐘を鳴らしました。安倍首相の「桜を見る会」も、仲間内の宴が主で、各界の功労者を慰労するという本来の趣旨がないがしろにされた「花見酒の政治」になってしまいました。
今年9月に発足した第4次安倍内閣(第2次改造)は、発足直後に、菅原経産相と中川法相が公職選挙法違反の疑いを指摘され相次いで辞任しました。菅原氏は菅官房長の側近、中川氏も菅グループで、第3次安倍内閣では、首相補佐官を務めた官邸の「お仲間」です。菅原氏は、以前からお金や女性問題でお行儀の悪さを報じられていた人ですから、それでも大臣に起用した首相の「任命責任」は大きいと思います。お友だち優先の「花見酒の政治」の失敗でしょう。
安倍首相の「花見酒政治」は、外交でも発現されています。首相はトランプ大統領とも「お友だち」であることを強調、このほど合意された日米貿易協定はウィンウィンの関係だと胸を張りました。しかし、中身を見ると、日本側が農産物で譲歩したほどには、自動車の関税撤廃は先送りになるなど米国側の譲歩は少なく、貿易協定だけをみれば、日本側の負けは明らかです。交渉の裏では、トランプさんが米軍の駐留経費の日本側負担の増額などを求めていることとからめた「取引」があるのだろうと想像しますが、お友だち外交の陰に隠れて国民には不透明になっています。
2019年11月に、安倍首相は在職日数で、明治後期から大正初期にかけて3度内閣を率いた桂太郎(1848~1913)の2886日を抜き、憲政史上最長となりました。内閣支持率もほかの内閣に比べて高く、長期安定政権といえるのかもしれませんが、桜を見る会のスキャンダルは、長期政権のゆるみを見せつける結果になりました。
NHKの最新の世論調査では、桜を見る会についての首相の説明に納得できるか、という設問に対して、「まったく納得できない」が41%、「あまり納得できない」が30%で、7割以上の国民が首相の説明に納得していないという結果が出ました。
それでも、内閣支持率は前回に比べて3ポイント下がった45%で、花見の会への対応で、国民が安倍内閣を見放したとはいえません。花見は納得しないけれど、まあしっかりやってください、ということなのでしょう。
とはいえ、公私混同の花見酒政治は、招待リストが廃棄されるなど、民主主義の根幹ともいえる透明な政治が崩れていることの表れです。花見の会のリストが破棄されるくらなら、もっと大事な政策決定の過程も隠ぺいされているのではないでしょうか。
「花見酒の政治」から漂ってくるのは、内政でも外交でも、この先、何が起きるのかわからない、あるいはすでに起きているのかもしれない、という不気味な空気です。
(冒頭の写真は、官邸が公開している今年の「桜を見る会」の1枚です)
この記事のコメント
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そのとおり!国民なめてましたよ、一連のおざなり説明が。
そして「説明責任」というのは、国民に納得するような説明するを尽くす…ちゃうの?
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笠信太郎の字は間違ってますが、全体の趣旨はその通り、よくまとめてくれています。