アフリカの希望、「カエル跳び」とネリカ米
肌の色が違う。言葉や宗教、習慣が異なる――人間は長い間、そんな理由でいがみ合ってきた。けれども、そのルーツをたどれば、すべての民族、すべての人間のふるさとはアフリカである。それは疑いようのない事実だ。
そのアフリカは近代以降、もっとも醜い争いの舞台になり、収奪と殺戮が繰り返されてきた。それもまた、疑いようのない事実だ。そのアフリカで今、何が起きているのか。朝日新聞で連載中の記事「アフリカはいま」はその断片を拾い上げ、この大陸のことを考える素材を提供しようとしている。実に優れた連載だ。
「リープフロッグ(カエル跳び)」をキーワードにした8月14日付の連載は、とりわけ読み応えがあった。アフリカ中部、ルワンダの病院で輸血の管理がどのようになされているかを紹介している。病院のパソコンで輸血用の血液の注文をすると、配送の拠点からドローンで血液が運ばれてくる。所要時間は30分。それまでは、でこぼこ道を車で2時間かけて運んでいたという。最新の技術と機器を使って、難題を一挙に跳び越えてしまった。
「カエル跳び」は教育分野でも起きている。経済的に苦しい家庭は、子どもに教育を受けさせたいと思っても、教科書代を負担することができない。そこで、携帯のショートメッセージサービス(SMS)を使って学習サービスを提供する企業が現れた。1日3円ほどの負担。これなら、なんとか払える。そうやって学びの機会を広げている。
先進国はまず鉄道を敷設し、道路網を整え、次に電線と電話線を張り巡らせて富国強兵の道を歩んできた。が、アフリカの国々が同じプロセスを辿ったのでは、いつ追いつけるか分からない。それとは異なる道、それがカエル跳びの道だ。飛躍的な技術革新がその可能性を切り拓いてくれるかもしれない。
どんなに技術革新が進もうとも、まずは食べることが先だ。食糧を確保しなければ、何事も始まらない。そこで注目されているのがネリカ米だ。New Rice for Africa(アフリカのための新しいコメ)から名付けられたネリカ米は、1990年代にアフリカと日本の農業技術者が力を合わせて品種改良を重ね、実用にこぎつけた。
生産量はこの10年間で2800万トンと倍増し、次の10年でさらに倍にすることを目指している。その普及にもっとも貢献した人物の一人が坪井達史(たつし)さん(69)である。大分県出身、日大農獣医学部卒の技術者だ。2004年からアフリカのウガンダを拠点にネリカ米の普及のために汗を流してきた。
坪井さんの普及方法はとても日本的だ。農民に栽培方法を教えて、種もみを1キロ与える。条件は「倍返し」。ただし、農民たちは収穫したら、種もみ2キロを坪井さんではなく、近隣の農民に与えなければならない。そうやって、少しずつ栽培面積を広げてきた。最初は陸稲から始め、その後、水稲の品種も広めてきた(8月16日付)。
欧米の種苗会社は先端技術を駆使して高収量の種子を開発し、それを独占して巨利を得ようとする。坪井さんや日本の国際協力機構(JICA)は、それとは対極の方法でアフリカの食糧事情の改善を図ろうとしている。そして、それは確実にアフリカの農民たちの心をつかみ始めている。
坪井さんには、12年前にアフリカ農業の取材をした際にお世話になった。普及の方法や農民との接し方を淡々と語る人だった。「こういう人たちが流す汗がアフリカを、そして世界を少しずつ良くしていくんだなぁ」としみじみ思った。坪井さんは故郷の大分県に戻ったとのことだが、今でも請われればアフリカに出張して、普及に努めているという。
8月11日付の連載記事によれば、女性1人当たりの出生率は日本の1.4人に対して、アフリカ諸国は4.4人。それは、現在の世界の人口77億人をさらに押し上げる。アフリカの国々がどのような道を歩むのかは、この大陸だけの問題ではなく、私たちが暮らす地球そのものの問題でもある。
私たちはアフリカとどう向き合うのか。連載には、それを考える素材があふれている。
≪写真説明とSouce≫
◎アフリカでネリカ米の普及に努める坪井達史さん
http://www.adca.or.jp/page/seminar/files/H25seminar.pdf
≪参考記事≫
◎朝日新聞の連載「アフリカはいま TICAD 7」(2019年8月11日~8月16日)
◎朝日新聞の連載「新戦略を求めて 第6章 7」(2007年3月27日)
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