成人後見人のからくり
最高裁判所が成年後見人について、「身近な親族を選任することが望ましい」との見解を示したという記事が3月19日付けの朝日新聞で大きく取り上げられました。この見解は、実際に成人後見人制度を運用する全国の家庭裁判所に通知されるそうです。その理由について、この記事は次のように書いています。
「見知らぬ専門職が後見人に選任されることへの反発は強く、財産管理だけでほとんど本人の生活支援がないままに高い報酬をとられることへの懸念も、制度利用を妨げる壁となっていた」
その通りなのです。私の知人の場合も、認知症で施設に入居している母親に代わって成人後見人を申請したところ、第三者が選任され、この制度に強い不信感を持ったそうです。たったひとりの親族にもかかわらず、後見人に選任されなかったからです。財産といえば、地方都市に小さな家があるだけで、母親は厚生年金で暮らしているのですが、そこから後見人は報酬を取るわけですから、私からみれば、アコギと言うしかありません。
しかも、その報酬額を裁判所に尋ねても、親族には知らせないという決まりになっているそうで、親族は教えてもらえなかったそうです。もちろんどういう運用をしているかもわかりませんから、たとえ不正があったとしても、親族がチェックすることはできない仕組みになっているのです。後見人の手続きを頼んだのは司法書士で、選任されたのは別の人でしたが、やはり司法書士だったそうで、なんのことはない、司法書士の互助に利用されたわけで、結果的にはそれを裁判所も助けていたことになります。
なぜ、裁判所が手助けをするのか、それは司法書士法を読めばすぐにわかります。司法書士法第3条は次にようになっています。
次の各号に該当する者は、司法書士となる資格を有する。
1 司法書士試験に合格した者
2 裁判所事務菅、裁判所書記官、法務事務官もしくは検察事務官としてその職務に従事した期間が通算して10年以上になる者またはこれと同等以上の法律に関する知識及び実務の経験を有する者であって、法務大臣が司法書士の業務を行うのに必要な知識及び能力を有すると認めたもの
この知人の場合、後見人が必要になったのは、母親が施設に入ったため、住居が空き家となり、近隣の家から「不審者が入り込むおそれがあり危ない」との苦情があったからです。その理由を申請書に素直に書いたために、親の財産を子どもが勝手に処分すると判断されたのかと思ったそうですが、朝日新聞の記事を読むと、家裁が親族を後見人に選任する比率は23%とあり、後見人の申請があれば、親族が選ばれるほうが珍しいというのが実態だったのです。
朝日新聞の記事には、親族後見人と第三者後見人との割合がグラフで示され、第三者後見人が年ごとに増えているのが一目瞭然です。この制度ができたのは2000年だそうですが、グラフを見ると、当初は、親族が財産を争っているなど特殊なケースに後見人を選任していたのが、次第に、「専門職」に仕事を回す仕組みに変質していたことがよくわかります。
この記事には、認知症の高齢者が500万人を超すと書かれています。実際に、知人や友人と介護の話になると、「認知症の親が施設に入り、空き家になっているので、後見人が必要になっている」という話をよく聞きます。私は、親族がひとりでも第三者が後見人になった話をして、安易に考えないほうがいいと言ってきましたが、これからは、この記事を参考にと言うことができるようになりました。
ところで、知人の後見人は、何をしてくれているのでしょうか。知人によると、この後見人はとても良心的な人で、月に1回、施設の利用料を払いに行きがてら、施設を訪ねて、「おばあちゃんは元気ですか」と声をかけてくれるそうです。それと、後見人が決まってまもなく、火災保険のセールスの人から知人に抗議の電話がありました。「もう何十年も、火災保険を継続してもらっていたのに、なぜ、突然、ほかの会社に変更するのですか。何か落ち度でもあったというのですか」。知人は返す言葉がなかったそうです。後見人からは、親切な電話があったそうです。
「家をお売りになりたかったのでしょう。いつでも私がやりますから」
最高裁のお達しで、後見人を安易に第三者に委ねる仕組みは改善されそうですが、すでに、第三者後見人が選任されている場合、再検討する仕組みも考えてもらいたいものです。知人は裁判所に、後見人の選任に不服がある場合はどうするのかと尋ねたら、「裁判所の決定は絶対です」というのが回答だったそうです。
この記事のコメント
-
一生に一度あるかないかの後見人制度の実例
訳あって親が高齢で離婚をした。母は施設に入所、父は子供達全員で見る事にした。母の面倒は叔父、叔母で見る事になった。
もともと鬱病だった関係で、叔母が母の今後を考え、任意後見契約を司法書士を結んだ。
母はこの施設に5年ほど暮らしていたが、認知症の症状がひどくなり病院に移りその後2年ほどで亡くなった。その後、子供達は母の離婚してから亡くなるまでの状況を調べた。
施設入所中、司法書士は契約はしたが一度も母と会っていない事が判った。とうに80才を超える本人と契約をして月に一度は本人に面会するなり、身の周りの世話をしている叔母に状況を聞くなりをしていない。当人に尋ねたら「それは業務が始まってからの事で私の所に何の連絡もない。」司法書士協会のリーガルサポートに尋ねた所「契約者はご高齢ですので普通は業務開始前でも最低月一回は様子を見るようにしています。」との事。また叔父叔母も業務開始の1年前に病院にてアルツハイマー型認知症の診断を受けたのに司法書士に報告しない事実が判明した。
この司法書士はその後成年後見人の申請をし認められたが、母が亡くなるまで、彼は何もしていなかった。すべて身の回りの世話をしていた者に指示されていただけであった。
この司法書士は後見制度がどのような物なのか結局、判っていなかったのだと、私は思った。
結局、ほぼ何もしない司法書士に多額の報酬を支払っただけ。
はたしてこんな訳の解らない制度でよいのだろうか。
コメントする
前の記事へ | 次の記事へ |
私は父の後見人をしていましたが、途中から親族なので監督人が信託銀行の制度を利用してほしいと言われました。するべき内容はこれまでと変わらないのに、他の方に被後見人の財産から支払うことに。家庭裁判所に確認すると、「家庭裁判所では報告を受けた内容を確認しきれない。」と言われました。続けて「この法律は若いのでおかしな点があるのは仕方がない。」とも。結局は、家庭裁判所の職員の能力が不測しているのと責任逃れをしているだけだと思いました。確認ができないなら、法の内容を見直すか裁判所が弁護士や司法書士に委託すればよいのにと思いました。でも、それは税でまかなうとなれば違和感も感じます。成年後見人の大変さはしたことのある本人しかわからない、不備だらけの制度だと強く思います。