吉村美栄子・山形県知事の義理のいとこが率いる「15の会社」
時間的にも能力の面でも、人間には限界がある。普通の人の場合、二つか三つのことに力を注ぐだけで精一杯だろう。かの聖徳太子のように「同時に10人の話を聞いて、すべて聞き分ける」といった芸当ができる人は滅多にいるものではない。
吉村美栄子・山形県知事の義理のいとこ、吉村和文氏は自身のブログに「現在は、15の会社経営を担っている」と書いている。これを目にして驚く人もいるかもしれないが、苦労した人なら「なんだかなぁ」と斜に構えて読む。私も、長い新聞記者生活で苦い思いをたくさんしてきたので、額面通りに受けとめたりはしない。むしろ、「どっか怪しい」と感じる。
そもそも、「15の会社」がどれなのか、いくら調べても分からない。1992年にケーブルテレビ山形(現ダイバーシティメディア)を設立してから、吉村和文氏は次々に新しい会社を立ち上げてきた。傘下に吸収した会社もある。けれども、そうした会社を含めても、まだ足りない。思いあぐねて、本人に手紙で問い合わせたりもしたが、返事はない。ただ、一つだけ、その答えのようなものが見つかった。
彼は4年前に山形県の村山法人会に依頼されて東根市で講演をしたことがある。図1は、その講演会のチラシに掲載されたプロフィール部分である。ちょうど、15の会社と法人、団体の名前が並んでいる。講演会の主催者が勝手に略歴を作ることはないから、このプロフィールは本人が伝えたものだろう。これが「15の会社」なのかもしれない。
「文は人なり」という。文章にはその人の考え方から感じ方、生き方まですべてが滲み出る。本人が記す略歴にも似たところがある。生い立ちや職歴には触れず、会社や団体の名前と自分の肩書をずらりと並べ、胸を反らす――それが彼のスタイルなのだろう。
プロレス興行の会社とその持ち株会社や岩手ケーブルテレビジョンなどは把握していたが、「株式会社モンテディオ山形」や「山形交響楽団」まで並んでいるのには驚いた。地元のサッカーチームや交響楽団の経営も自分が担っている、と言うつもりか。かなりの心臓の持ち主である。
これらの会社や法人、団体の中で経営がもっとも安定しているのは、彼が理事長をしている学校法人東海山形学園だろう。東海大山形高校を運営しているこの学校法人の資金収支計算書によると、2017年度の収入は29億円余り。支出に占める人件費の割合は14%と低く、翌年度への繰越金は5億円もある。
学校法人の好決算を支えているのは国と県からの私学助成だ。表1の通り、東海山形学園には毎年、3億円を超える公金が注ぎ込まれている。その内訳は、教職員の人件費などに充てる一般補助金や生徒の授業料を軽減するための就学支援金(国費)と補助金(県費)などだ。2017年度には校舎の耐震改築工事のため施設整備費が膨らんだこともあって、助成費は10億円を上回った。2012年度からの6年間で助成の総額は27億円を超える。
もちろん、私学助成そのものに異議を差しはさむつもりはない。山形県の場合、斎藤弘・前知事は財政再建を掲げて私学助成費を削り込んだが、吉村美栄子知事は私学の支援に力を注いだ。経常経費の40%台まで落ち込んだ一般補助金の補助割合を段階的に50%まで引き上げ、授業料を軽減するための支援策も充実させた。それによって、生徒の保護者の負担は軽くなり、私学の経営を底支えしている。納得のいく施策だ。
問題は、吉村和文氏が学校法人の理事長としてこうした手厚い助成を受けながら、学校の資金3000万円を自分の会社、ダイバーシティメディアに融資したことにある。2016年3月のことだ。その後、返済されたとはいえ、年間助成費の1割もの資金を自分が社長をしている会社に貸し出す――そんなことが許されるのか。
詳しく調べるため、私は2年前に県学事文書課が保有する東海山形学園の財務諸表の情報公開を求めた。すると、文書は開示されたものの、細部を隠したものが出てきた(表2)。貸借対照表に「3000万円の融資」が記されているはずなのに、その部分も白くマスキングされていた。一部不開示にした理由は、細部まで明らかにすると「法人の正当な利益を害するおそれがあるため」というものだった。
あきれた。財務諸表は学校法人のいわば基本データのようなものだ。3000万円の融資については、借りた側のダイバーシティメディアの貸借対照表に明記されており、それは株主総会で配布されている。学校法人の会計文書でそれが明らかになったからと言って、「利益が害されるおそれ」などどこにあるのか。あまりにも理不尽なので、私は山形地方裁判所に「情報公開の不開示処分の取り消し」を求める訴えを起こした。長い審理を経て、4月下旬にその判決が出る。
3000万円の融資問題が表面化した後、私立学校の指導監督にあたる県学事文書課の遠藤隆弘課長(当時)は県議会の常任委員会で「監査報告書を見る限り、(融資の)契約は適正と考えている」と答弁した。吉村美栄子知事も記者会見で「(学校法人が)適切に運営されているのであれば、よろしいのではないか」と述べた。「とくに問題はない」と擁護したのである。
では、東海山形学園と同じように私学助成を受けている私立高校の関係者はどう見ているのか。山形県内には、表3のように高校を運営し、私学助成を受けている学校法人が14ある。各校に見解を問うと、匿名を条件に「少子化で生徒が減る中で、なんとか経営を維持している。よそに資金を貸す余裕などないし、考えたこともない」「公的な支援を受けている学校法人の場合、外部に寄付することにも制限がある。ましてや融資などあり得ないこと」といった答えが返ってきた。
公金を支出する側と受け取る側との間に見られる、この大きな落差。それは吉村県政が今、どのような状態にあるかを示すとともに、県政と吉村一族の企業・法人グループとのいびつな関係を照らし出している。
東海山形学園については、融資問題のほかにも問題がある。十数の企業・法人を率いる吉村和文氏がこの学園の理事長を兼務していることだ。会社経営で多忙な和文氏が高校に顔を出すのは月に数回というのが常態化している。表3にある他の学校法人の場合、理事長は常勤というのがほとんどだ。一つだけ医師が理事長を兼務している法人があるが、和文氏のように数多く兼職しているケースはない。
東海山形学園では、東海大山形高校の阿部吉宏校長が理事を兼ねており、実務的には支障ない、と言うのかもしれない。山内励・元校長や市川昭男・前山形市長も理事に名を連ねている。だが、学校法人を代表する権限を持つのは理事長ただ一人である。その人物が学校にほとんどいない、というのは尋常ではない。
こうした状態をどう考えるか。文部科学省の見解ははっきりしている。公式サイトに「理事機能の強化について」という文書をアップし、「理事長については責任に見合った勤務形態を取り、対内的にも対外的にも責任を果たしていくことが重要と考える。このため、理事長については原則、常勤とするとともに、その職務に専念するためほかの学校法人の理事長等との兼職は避けることが望ましい」という考えを打ち出している。
学校法人をめぐっては、過去に私立大学の不正入試など不祥事が相次いだ。山形県では、出稼ぎ目的の中国人留学生を多数受け入れていた酒田短大が解散を命じられた。2004年に私立学校法が大幅に改正されたのは、こうした不正を防ぐためであり、この文科省の見解も法改正を受けて出されたものだ。
山形県内の学校法人を所管する県学事文書課は、東海山形学園の現状をどのように考えているのか。理事長の常勤化と兼職の制限について指導したことはあるのか。質問書を出したが、いまだに回答がない。
手厚い私学助成に異論はない。ただし、多額の公金を支出するのだから、受け取る学校法人はそれにふさわしいものであって欲しい。非常勤の理事長など論外だ。
*このコラムは、月刊『素晴らしい山形』2019年3月号に寄稿した文を若干手直ししたものです。見出しも異なります。図1や表1~表3をクリックすると、内容が表示されます。
*追記(3月15日)
2月8日に出した質問書に対して、山形県学事文書課の菅原和彦課長から3月14日付で回答があった。その内容は、学校法人の理事長の常勤化や兼職の制限を期待するとの文部科学事務次官の通知(平成16年7月23日付)を「県内の各学校に対して通知しております」というものだった。わずか8行。15年前に通知を流しただけ、ということのようだ。
≪写真説明とSource≫
東海大山形高校は野球もサッカーも強い(高校野球の2011年秋季東北地区大会、朝日新聞の高校野球サイトから)
https://vk.sportsbull.jp/koshien/localnews/TKY201110110078.html?ref=reca
この記事のコメント
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山形新聞の服部敬雄(よしお)社長の全盛期は、安孫子藤吉氏の次の知事、板垣清一郎氏の時代(1974~1993年)と思われます。この時代には、巷では「服部天皇、板垣総務部長(県知事)、金澤忠雄庶務課長(山形市長)」と言われていたようです。お正月には、山形新聞の社長室に県知事や代議士、参院議員、山形市長らがずらりと顔をそろえ、その年の政治課題を話し合っていたのだとか。
服部敬雄氏は1991年に死去、山形新聞グループの結束力は徐々に弱まり、最近では吉村一族の企業・法人グループに押され気味のようです。私は、2009年に一族の本家の吉村美栄子氏が山形県知事に就任したことが大きい、と見ています。
情報屋台のコラムで報告しているように、吉村県政と一族企業の間にはさまざまな問題がありますが、全国紙はほとんど報じません。高成田さんがいらした頃の支局長が持っていたような気概は、失われて久しい、と感じています。メディアの中では、仙台の河北新報や地元の民放テレビが意欲的です。「何が起きているのか。きちんと報じたい」という思いが伝わってきます。
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吉村一族は21世紀の服部天皇ですね。
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私の新聞記者としての最初の勤務地は山形支局で、当時は「服部天皇、安孫子副知事」などといわれ、山形新聞や山形交通などの総帥だった服部敬雄氏が山形県を支配しているといわれていました。安孫子さんは当時の知事です。次の知事は「総務部長」と言われたようです。先輩記者がこのグループ会社のホテルと県政との”癒着”をあばく記事を書いて、支局長が「こういう記事は全国紙だから書ける」と言って自慢していました。このごろは、どうなんでしょうね。