中国(チャイナ)で、起こりそうなこと、あり得ること(或る本の印象から)
中国(チャイナ)で、起こりそうなこと、あり得ること(或る本の印象から)
平成29年 2017 11月
仲津 真治
標記についてですが、データと理由を記しつつ、各種の疑問に答えるとともに、相応のシナリオを示した書が出ました。 チャイナは意外と力強いという見方をする向きもありますが、此処は本書に目を通して、私なりの理解を記したいと思います。 書名は「中国経済 崩壊のシナリオ」と言い、標題はややセンセーショナルですが、内容はあります。著者は「フィスコ」と呼ばれる日本のアナリスト集団で、詳しく書くと「世界経済・金融 シナリオ分析会議」
と呼ばれる組織の由、「実業之日本社」が書籍の発行所となっています。全文239頁です。
以下、順次幾つか記します。
まず、かなり長い「環境が激変する中国」というプロローグの後、次のような、よく言われる疑問が続きます。 一体、統計が人為的に作られているという、その真相はどう言う事なのでしょう。
1 第1部 中国の公式統計の偽装を読み解く
例えば、失業率は、各国で少々の違いがありますが、一定年齢以上の全ての人を母集団とし、それを分母に数値を出すという点では、各国共通していると申します。
ところが、チャイナは明らかに違っていると言います。其処では、「職業紹介センターなどの就業機構に登録し、失業保険に加入する都市部の都市戸籍を持つ労働者で一定範囲の年齢の者のみ」をカウントしていると言うのです。 つまり、初めから、農村戸籍を持つ人々は、統計に入ってこないようなのです。
そもそも人口の約六割を占める農村が失業の諸調査、諸計算から外れていると言う分けです。
この結果、リーマンショック(2008)などでチヤィナの経済に大変動が起きても、その失業率は2000年から2017年の間、一貫して4%前後で推移していると言います。こう言う話を聞くと、ごまかしていると言うより、定義自体が始めから違いすぎていて、そもそも国際比較が出来ないのに、敢えて比べていることが分かりますね。
そして、それは単に統計上の取り扱いだけで無く、都市戸籍を持っていると、全国何処でも移動できるのに対し、農村戸籍だと国から農地の配分は受けられるものの、転居・教育・年金等で実質制限を受けると言います。
しかも、農村戸籍の人は、出稼ぎのため都市部に出て行っても、戸籍は農村戸籍のままで、其処で子供が出来ても同様、都市戸籍の子供と同じ学校に通えないという問題を生ずるようです。
こうした制度になったのは1958年(大躍進政策が始まった年)からと聞きますが、日本などでは考えられない仕組みと効果なので、国際ロータリーの縁で留学してきたチャイニーズの大学院生に「何故、それは変だと思わないか」と尋ねた事がありました。 すると、都市戸籍である彼は、「これは既得権益なので、このままが良い」と言うのです。 此処は私ども部外者には良く分からないところがあ
る、実に根深い問題の様です。
農民の党と言われる中国共産党の統治下で、何故、こうした制度が採られ、諸現実が生じているのでしょう。実に不可思議なことです。
(2) GDP :偽装統計の典型
「チャイナのGDP統計は人為的であるため、信頼出来ない。」とは、現首相の李克強自身が、2007年、遼寧省の党書記の任に在ったとき、述べた言葉と言われます。其処では、より精確に経済を把握するため、電力消費、鉄道貨物量、銀行融資の三つの推移を見ていると語ったと言い、それらが所謂「李克強指数」と称されている由です。
其れやこれやで、チャイナの真のGDPは政府公表値の半分か三分の二程度であろうと本書は推計しています。 そして、真の成長率は数々のデータを参酌すると、3~4%と見られている様です。
3 過剰投資が実態以上に経済を膨らましている
経済は、生産、公共投資、民間固定資産形成、商業活動、消費、輸出入等からなりますが、チャイナに関して言えば、いっとき「世界の工場」と呼ばれて凄まじい活気を呈し、時期で言うと2000年から数年間は、凄い迫力と活性度を示しましたものの、その後多くの項目で、大きく落ち込みました。
その中で、過剰投資と、無理をしている公共事業が目立っています。各実力者や各地方が権勢を誇示し、競合する傾向が消えないようです。 粗鋼生産高等が典型と見られています。 それはそれを持つ地方の誇りで、それは実需を無視した一種の実験の感があり、共産党一党支配下の市場経済とはこう言うものになるのでしょうか。
4 高まらない消費性向
国際的に共用されている指標で見ると、2013年では、主要各国の個人消費の割合は米国約70%、日本約60%で、欧州各国も同様の数値であるのに対し、チャイナ約37 %と申します。直近の同国での消費の伸びを勘案すると、現在は約40%当たりとみられています。 それにしても、この消費消費性向は余りに低く、所得分布の偏りや、経済が均衡の取れた発展をしてない事を物語っているとみられます。斯くて、実需不足を無理して補うため、盛んに公共投資や企業設備投資を行う傾向が強く、過剰生産を招いていると言われます。
5 不良債権は、公式統計の約十倍
チャイナの銀行業監督管理委員会が公表した、2016年三月末の商業銀行の不良債権の比率は1.75%、残高にして約23兆円相当とのことだったのですが、その八月、日本総合研究所は不良債権残高が約12.5兆元で、日本円で言うと約190兆円相当に上るとのレポートを出しました。このように、公式数字を遙かに上回る不良債権の悪況と巨額ぶりは、各国の各機関が伝えています。
因みにロイターは、チャイナの銀行業を救済するには最大十兆ドルも必要になろうとの見方を伝えています。その一方、国際的に懸念が大きくなる不良債権問題について、チャイナの当局は真実を隠して、蓋をする可能性もあると申します。
その時どういう措置が執られて、何が起きるのでしょう。
6 チャイナの外貨準備高は急減しつつあり、危険水域に迫っている
同国の中央銀行である中国人民銀行によれば、その外貨準備は世界最大である由、されど2014年に約4兆ドルとピークに達して以降、減り始め、2017年七月末には3.08兆ドルになり、2011年以来の低水準にあります。しかも、この中には、市中銀行の保有している外貨などが相当含まれていると推定される由、それは為替介入などに充当できないとされ、IMF等が容認している外貨準備の2.8兆ドルの水準が近づいているとみられる由です。
外貨準備がこのまま減少スパイラルから抜け出せないとなると、チャイナは重大な局面を迎えることになると予想されます。そして、いよいよ外貨準備が枯渇するとなれば、人民元安、外貨建て債務のデフォールトが起き、海外への外貨流出の封鎖やIMF への支援要請などが行われる可能性が出てくるでしょう。
7 いろいろの想定されているシナリオ
本書では大きく分けて、四つのシナリオが想定されています。
その在りそうな確率を示しながら、各々について日本の置かれるであろう情況を予想し、対応の考え方も示しています。
では、この四つのシナリオの大項目を示すことによって、あらましを掴んでみる事にしましょう。
1) ベースシナリオ
諸々の変革は試みられるが、体制は結局変わらず、消費も大きくは伸びず、不良債権・構造改革は先送りされ、経済はあまり発展せず、「中所得の罠」へ
2) ソ連崩壊型シナリオ
数多くの民主化の予兆が次第に実り、民主化勢力が台頭、共産党体制が変わり、経済は浮揚、世界経済も恩恵大となる
3) 支配階級の権力が強化され、新独裁者が登場、その下で独自路線を歩み、世界との通商は縮小する
4) 内戦シナリオ
歴史が繰り返され、軍の中の戦区のクーデターから、全土を巻き込む内戦となり、利害関係国も渦中に入れて、世界は大混乱に陥る
通覧すると、1の確率が最も高いようですが、2が最も望ましく、4は一番避けて欲しいところですね。
ただ、チャイナでは共産党の統治下にあって、軍は人民解放軍との名で、党の全面的統制下にあると言うものの、実は軍閥の伝統は結構残っていると申します。この程、七大軍区から五大戦区への大改革が習近平の指令下で行われたものの、必ずしも旨く行っていないと言われています。 聞けば、戦後の国共内戦時代、国府軍優位の中、結局共産軍が勝利を納めたのは、巧みな工作で数多くの寝返り
を誘い、国府軍の多くの部隊が、共産側に付いたからと言います。 そして、彼らの伝統や色調は、一種の軍閥として各軍区に残置されたとも聞きます。
以上、本書に拠るラフスケッチをしましたが、「チャイナ」と言う国は知れば知る程ど分からなくなる感がありますね。
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中国の過剰投資や高まらない消費性向は、日本にも現れているのでは。
中国の原因は、人民共産主義から共産党資本主義へ変わってきたいうこと。
日本の原因は、政府官僚の国家独占資本主義に変わりつつあることですね。
最近、銀行の経営危機が顕著になってきて、対策に人員削減と報じられていますが、原因は低金利にあるとも言われています。
低金利で得するのは政府の借金でしょう。
資金需要があるわけでもないのに日銀にどんどん赤字国債を引き受けさして、そのカネを外国にバラマキ、国内大企業の売り上げを増やして、見返りに政治献金を増やす。
一般庶民は貯金しても殆ど利息がないから、家計を守るため必死にカネを使わないようにする。
これでは庶民の国内消費が、落ち込む一方ですよね。
こうして見るとアジアは、どこもかしこも似たり寄ったりで文明度がはるか昔と変わらず、政治状況は停滞したままということですね。