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備忘録(27)米大統領選テレビ討論の余波

2024.09.12 Thu

米大統領選で、有権者の注目を集めるイベントである大統領候補によるテレビ討論会は、笑顔のハリスさんが怒り顔のトランプさんに勝った、という結果になったようです。とはいえ、テレビ討論の勝敗は、実際の投票行動とは別ですから、これでハリスさんが優位になったということではありませんが、思わぬ副産物がありました。それは、この討論会を見た結果だとして、超人気歌手のテイラー・スウィフトさんがハリス支持を表明したことでした。

 

ハリスさんは、テレビ討論の仕組みをよく理解したうえで、この戦いを有利に進めました。冒頭、ハリスさんはトランプさんに歩み寄り、握手を求めたことで、トランプさんは虚を突かれた感じでした。テレビ討論会で、二人の候補が始めと終わりに握手するのは慣例でしたが、6月に行われたバイデンさんとトランプさんとのテレビ討論では、ふたりの握手はありませんでした。(写真はABCニュースのHPから)

ハリスさんの有権者に好感を持たれるようなパフォーマンスは、握手の歩み寄りだけではありません。討論が始まると、ハリスさんはトランプさんの話を聞いているときに、トランプさんの非難を笑って受け流したり、それは違うだろうとばかり首を横に振ったり、豊かな表情で対応していました。テレビが二人の顔を並べて写す場面を多いことを意識してのことだったと思います。言葉を発しない代わりに、表情で戦っていたわけです。発言時間も発言しない時間もフルに使ったわけです。

 

また、相手を見下すような非難は、トランプさんのお家芸ですが、この日は、ハリスさんがトランプ流の戦術を使いました。トランプさんの演説会では、観客が途中で帰ってしまい、最後は空席が目立つ、というのは直前のニューヨークタイムズ紙の報道でしたが、ハリスさんはそれを利用して、「トランプさんの演説会に行きましょう。観客が帰るところが面白いですよ」と、皮肉たっぷりに挑発しました。

 

討論会後のメディアは、政策論争は盛り上がらなかった、という指摘をしていましたが、もともとテレビ討論会は、政策論争の場というよりも見かけの勝ち負けを争う場ですから、ハリスさんは、うまく立ち回ったということになります。

 

そしてテイラー・スィフトさんのインスタグラムへの投稿です。これは、見事と言うしかないものでした。スィフトさんは前回の大統領選でも、バイデンさんへの支持を表明していましたから、どこかでハリス支持を表明するものと思っていましたが、まずタイミングが見事でした。テレビ討論を見ての判断ということで、その判断に説得力を持たせました。

 

また、インスタグラムの論理の展開も見事でした。私はテレビ討論を見た→テレビ討論は候補者を判断するのに有効だ→私がトランプ氏を支持するというAIを使った偽情報を流されたが、偽情報には真実で対抗するのが最もシンプルな方法だ→私は今回の選挙でハリス氏(大統領)・ウォルズ氏(副大統領)に投票する→ハリス氏は大義のために戦う人で、着実な手腕と才能を備えたリーダーだ→ウォルズ氏はLGBTQの権利や体外受精、女性の権利のため長年戦ってきたひとだ

 

歌手の私が大統領選で誰に投票するかを言う必要はないのだけれど、偽情報が出回っているから真実を言うしかない、それはハリスさんで、その理由は大義のために戦う人だから、というのでしょう。歌手ごときがえらそうに、という想定される非難をかわしながら、国民のひとりとしての自分の大統領への思い(大義のために戦う人)を吐露しています。また、LGBTQの権利はスィフトさんが以前から主張しているテーマで、体外受精で産まれた子どもを持つウォルズ氏への共感も示しています。

 

さらに極めつけは、最後の署名につけた「子どものいない猫好きの女(Childless Cat Lady)」という言葉と、猫を抱くインスタグラムの写真です。これは、トランプ氏の副大統領候補であるバンスさんがハリスさんを念頭に、「この国は子どものいない猫好きな女によって運営されている」と発言したことへの痛烈な皮肉です。ハリスさんは、夫の前妻との子どもたちから「ママラ」と呼ばれているそうですが、本人には子どもを産んでいません。

 

テレビ討論は、テレビ討論という場での勝敗を競うゲームで、CNNは、63対37でハリスさんの勝ち、という調査結果を出していますが、実際の投票行動は別です。それよりも、SNSで全世界に2億8000万のフォロワーを持つスウィフトさんは、とくに若い人たちに大きな影響力を持っています。前回の選挙でスィフトさんは、選挙資格を得るための有権者登録を呼びかけ、それによって多くの若者が選挙登録をしたといわれています。今回も、この日の投稿で、登録するための具体的な方法とともに、登録を呼びかけています。

 

トランプさんへの実際の支持は世論調査の数字よりも大きい、というのがこれまでの傾向ですから、まだまだトランプさんが有利だと思います。しかし、ハリスさんが逆転するとすれば、テレビ討論とそれを受けてのスィフトさんの行動が勝負を分けた、ということになるのではないかと思います。自称スウィフティーズの私の見方です。

(冒頭の写真はテイラー・スウィフトのインスタグラムから)


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