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備忘録(26)面白くなった米大統領選

2024.08.25 Sun

米大統領選は、民主党が党大会でカマラ・ハリス氏(59)を大統領候補に指名、すでに共和党が指名しているドナルド・トランプ氏(78)との戦いになることが決まりました。7月に起きたトランプ氏への銃撃事件で、負傷しながらもこぶしを振り上げたトランプ氏の映像が流れ、「もしトラ」が「ほぼトラ」になったと思われました。しかし、民主党の候補になるはずのジョー・バイデン氏(81)が候補指名を辞退し、急遽ハリス氏が指名されハリス旋風が起きるという急展開で、11月6日投票の選挙戦の行方はわからなくなってきました。

 

トランプ氏の暗殺未遂事件は、かすり傷ですんだことを含め、トランプ氏に幸運が舞い降りたように思いました。タイム誌の表紙に採用された銃撃直後の映像は、こぶしを振り上げたトランプ氏の顔には血が流れ、その後ろでは米国旗がなびいています。まさに不屈のヒーローで、これで今回の大統領選は終わったと思いました。(写真はタイム誌の表紙)

ところが、世の中はよくできたもの。バイデン氏が大統領選から降りるとすぐに、民主党内はハリス氏をバイデン氏に代わる大統領候補にすることで一致しました。バイデン氏がもう少し早く辞退を表明していたら、民主党内では、いろいろな候補が乱立して大混乱になったかもしれません。バイデン氏にとっては、党内外からの圧力を受けての不本意な撤退だったでしょうが、結果的にはその時期は絶妙だったということになりました。

 

民主党の党大会では、登壇者がハリス副大統領への支持を訴えるとともに、コンビを組んだバイデン大統領の業績をたたえると、会場から沸き上がっていたのは、「サンキュー、ジョー」という大合唱でした。この4年間への感謝というよりも、候補から降りてくれてありがとう、という声だったように思えました。私はYouTubeのライブ映像を見ていたのですが、画面から感じる会場の熱気は、バイデン氏が居座ればトランプに勝てないという民主党員のフラストレーションをハリス氏が一気に吹き飛ばしてくれたことへの喜びを示しているように思えました。ハリス氏は民主党内の指名争いをスキップして候補になったのですから、選挙戦幸運の女神は、いまのところハリス氏に寄り添っています。

 

トランプ氏にとって誤算だったのは、これまでは、高齢で動きも思考も鈍っているように見えたバイデン氏の弱さを徹底的に叩くことで、精悍なトランプ氏のイメージを見せつけていたのに、ハリス氏がさっそうと大統領選の舞台に登場すると、トランプ氏の老人ぶりが逆に目立つようになったことです。選挙戦は候補者のイメージの戦いでもありますから、怒り顔の印象が強いトランプ氏と、笑い顔がトレードマークともいえるハリス氏とのイメージ戦では、ハリス氏に軍配が上がりな気もしてきました。

 

日本のメディアは、具体的な政策がないことをトランプ氏に対してもハリス氏に対しても指摘していますが、私たちの生活を良くしてくれる、私たちの国をもっと強くしてくれる、という約束に説得力を持たせるのは、それぞれの具体的な政策というよりも、この人ならやってくれる、という信頼感を有権者に植え付けることです。カリスマ性を示すことです。政策を示すのは党大会で承認された党綱領であり、大統領が政策を語るのは年頭教書です。指名演説に具体的な政策が必要不可欠とは言えません。

 

トランプ氏は、ウクライナ戦争について、私なら1日で終わらせる、と言っています。その具体策をトランプ氏が持っているはずはありませんが、そう思わせるカリスマ性をトランプ氏は持っていて、その点では、ハリス氏はかなわないかもしれません。

 

投票日まであと75日、勝敗のカギは、スィングステートと呼ばれる、どちらに振れるかわからない激戦州で、これもどちらに投票するか揺れている無党派層の支持をいかに獲得するかです。激戦州は、アリゾナ、ネバダ、ウィスコンシン、ミシガン、ペンシルバニア、ジョージア、ノースカロライナの7州と言われています。

 

ハリス候補は、トランプ候補との戦いで、やっと勝負の土俵に乗ったところです。スィング州のスィング有権者がどちらになびくのかわかりませんが、ハリス氏の明るさとトランプ氏の暗さの対比がこれからより鮮明になれば、ハリス氏の勝機も見えてくるように思えます。幸運の女神は気まぐれですから、いつまでもハリス氏に付き合うとは思えませんが、もうひとりの女神がハリス氏支持を打ち出す可能性はあると思います。若い世代に絶大な影響力を持つとされるテイラー・スィフトさんです。それを恐れるトランプ氏は、自身のSNSにスィフトさんがトランプを支持している偽画像を掲載しました。(写真はトランプ氏のSNSに掲載されたスィフトさんの偽画像)

 

それにしても、民主党の党大会を見ながらうらやましいと思うのは、次々に登壇する民主党の知事、上院議員、下院議員らのスピーチの巧みさです。この人は「次」の大統領候補、この人は「次の次」の大統領候補と思われるような政治家がたくさんいました。「次の次」で、あえて名前を挙げるなら、最終日のゴールデンタイムに登壇したニューヨーク州の下院議員、アレクサンドリア・オカシオ=コルテス氏(34)でした。一方、日本では、自民党と立憲民主党の総裁・代表選がはじまりますが、この人なら国の未来を託してもよい、と思うような政治家が「次」も「次の次」にも見当たらないように思えます。(写真はオカシオ=コルテス議員。ABCのライブ映像から)

ないものねだりをしても仕方がありません。米国の大統領選も、日本の総裁・代表選も注視したいと思います。

(冒頭の写真は、民主党の党大会で指名受託演説をするカマラ・ハリス氏。PBSのライブ映像から)


この記事のコメント

  1. 中北 宏八 より:

    日本の政治家に期待できないのは、本当に困ったことですね。

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