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備忘録(23)出生率1.20ショック

2024.06.06 Thu

2023年の「合計特殊出生率」(1人の女性が生涯に産む見込みの子どもの数)が1.20で、過去最低になりました。少子化対策は、どの首相も自治体首長も叫ぶ政策で、さまざまな政策が実行されてきました。それにもかかわらず、出生率が過去最低を記録したことは、子どもを産み育てる環境が不十分だというだけでなく、日本がこれから良くなるという希望を失っているからではないでしょうか。今よりも悪くなると思う国で、子どもを産もうという気にはならないと思うからです。

 

これまでの最低記録は、2005年と2022年の1.26で、2005年のときは「1.26ショック」と呼ばれ、少子化対策が広く叫ばれるようになりました。今回は、それほどのショックを社会に与えていないようですが、事態は2005年よりもずっと深刻だと思います。というのは、2005年当時に比べれば、政府も自治体も少子化対策に力を入れ、児童手当の充実や保育所など施設拡大、さらには育児休暇の広がりなど社会的な環境も改善しているのに、出生率が改善しなかったからです。(下の図参照=朝日新聞2024年6月6日)

少子化対策の制度が改善されても出生率が上昇しないのは、国民の生活が苦しくなり、子育てどころではなくなったからだ、という見方もあると思います。しかし、たとえば、厚労省の国民生活基礎調査(2019年)の「各種世帯の生活意識」をみると、児童のいる世帯で、「苦しい」と答えた世帯の割合は54.7%で半数を超えているのですが、前回調査の2019年の60.4%よりも改善しているのです。

https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/03.pdf

 

制度も生活意識も、もちろん子供を産み育てるには十分とはいえないと思いますが、改善方向にあるのに、出生率が低下しているということは、それにとどまらない要因があるからだと思います。それは、将来に対する不安というか悲観ではないでしょうか。そうだとすれば、小手先の「対策」で、出生率の回復はむずかしいわけで、政治家も私たちも、「1.20ショック」と受け止めて、これまでの少子化対策を、もっと広い視点から見直す必要があるということになります。

 

日本財団が定期的に実施している6カ国(米国、中国、日本、インド、英国、韓国)の若者を対象にした「18歳意識調査」(2014年4月)によると、「自分の国の将来について」の設問では、「良くなる」回答した若者が調査した6カ国のなかで、日本は最も少ないという結果が出ました。「悪くなる」という回答は英国、米国、韓国に次ぐ4番目でしたから、日本の若者ばかりが悲観論者というわけでもないですが、「良くなる」という確認を持っている若者が少ないのは気になるところです。

https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2024/03/new_pr_20240403_03.pdf

また、都道府県別の出生率で、東京都が0.99で、1を割り込んだことは、どう考えたらいいのでしょうか。大都市は独身(単身世帯)が多いので、出生率が低いといわれています。しかし、婚姻率(人口1000人当たりの婚姻件数)をみると、東京は全国で最も高い数字になっています。家賃が高く、子どもを育てる空間を確保するのが難しいのでしょうか。小池都知事の「待機児童ゼロ」の公約は果たしたと主張しているようですが、東京都の出生率の低さは、都知事選の争点になるかもしれませんね。

 


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