信頼せよ、されど検証せよ
APEC首脳会議が開かれている米サンフランシスコで、経済的にも軍事的にも対立する米国と中国の首脳が会談しました。バイデン大統領は、支持率が低迷し来年の大統領選での再選が危ぶまれ、一方の習近平主席も、経済成長の鈍化に加え、外相と国防相の相次ぐ解任で政権基盤にほころびが見えています。
いわば傷ついた同士の会談ですから、双方とも相手に譲る余裕はなく、多くの懸案事項については、それぞれの主張を言い合うことに終始したようで、昼食をはさんでの4時間にわたる首脳会談で合意できた成果は乏しいものでした。しかし、双方ともこれ以上の軍事的な緊張は避けたいというのが本音なのでしょう、偶発的な軍事衝突を防ぐための軍幹部同士の協議再開や首脳同士のホットラインの確認などで合意しました。
会見後の記者会見で、バイデン大統領は、副大統領時代に国家副主席だった習近平主席と長時間話し合った経験を踏まえ、多くの事がらで習氏の見方は自分とは異なっているが、「彼はストレートだ」(He’s just been straight)と述べました。政治的なレトリックは使わずに、自分の主張をまっすぐに言う、といった意味でしょうか。同意はしないが、言っていることがすべて嘘だとは思わないというのでしょう。「習主席を信頼するのですか」という質問に対して、「昔から言われるように、『信頼せよ、されど検証せよ』、だよ」と答えました。
「信頼せよ、されど検証せよ」(trust, but verify)は、レーガン大統領がソ連のゴルバチョフ首相と交渉した際に、何度も使った言葉として有名です。バイデン氏が習氏にこの言葉を使ったのは、それなりの個人的な思いがあるのでしょう。バイデン大統領の誕生日(11月20日)は、習主席夫人の彭麗媛さんと同じで、ニューヨーク・タイムズ紙によると、会談では、バイデン大統領が近づく夫人の誕生日を祝ったのに対して、習主席は、「恥ずかしいことに、仕事に夢中で妻の誕生日が近いことを忘れていた」と答える場面もあったそうです。
ストレートといえば、バイデン大統領も直言や失言で知られ、この日の会見でも、最後に「習主席を以前、独裁者と言いましたが、いまもそう呼びますか」との質問に、「私たちとはまったく異なる形態に基づく共産主義国家を統治するという意味で、独裁者だ」と答えました。米国はAPEC首脳会議の主催者ですから、ノーコメントぐらいですませればいいのにと思いますが、バイデン氏の性分なのでしょう。
成果の乏しい首謀会談でしたが、「会わないよりましだったか」のか「会わないほうがよかった」のかと問われれば、前者だと思います。
傷ついた同士の会談と言えば、岸田首相とバイデン大統領、習近平主席との会談も開かれたようです。これも「会わないよりまし」だったでしょうか、しっかり「検証」したいと思います。
(冒頭の写真は米中首脳会談を伝えるウェブ版「中国日報」)
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