「韓民族こそ歴史の加害者である」との捉え方
この著作の著者は「石平(せきへい 1962年 四川省成都生まれ)」と言い、北京大学哲学部出身の、もともと中国の人ですが、日本の神戸大学に留学、在日中に起きた有名な天安門事件など(平成元年 1989)を一大転機として、同国の体制に重大な疑問を持ち、そのまま日本に滞在、結局同国を離れて、やがて日本に帰化、現在拓殖大学の客員教授の任にある人です。精力的な執筆と講演活動などで知られます。
ここに、この本の簡単な読後感を記し、御参考に供しましょう。
なぜ、この本を書いたか?
本書の「まえがき」に曰く、石平氏は朝鮮問題の専門家でもないのに、「韓民族」の歴史をテーマとする本を書こうと思い立ったのは「今から三年前のある出来事がきっかけであった。」と申します。
それは、2013年(平成25年)3月1日、ソウルで催された「三・一独立運動」の記念式典で、韓国の朴現大統領が日韓間の「歴史問題に」言及して、「(日本と韓国の)加害者と被害者という歴史的立場は、千年の歴史が流れても変わることはない」という発言を行った事を指している由です。私もこの発言のことは記憶にあります。既に日本国民の一員となっていた石平氏には、この発言は「まさに衝撃的なものであった。」言います。
もし朴氏の言う通りとすれば、「これから千年経っても、つまり紀元3013年になったとしても、韓民族は被害者の立場から、日本民族に謝罪を求めたり、説教する」事が出来ると言う事になりましょう。この事を石平氏は大いに疑問に思い、「お互い、長い歴史では色んな事が起きて来たのだから、懸かる偏った主張はおかしい、果たして、それが真実かどうか良く吟味する必要があると考えた。」と言います。つまり、過去の歴史において、韓民族は果たして一方的な被害者であったのかと言う疑問と吟味です。
幾つもの歴史の転換点と、そこに見られた韓民族の行動
この問題意識から、石平氏は爾来三年、実に丹念に調査研究して、膨大な資料や多くの諸研究家に当たり、幾つものの歴史上の論点を摘出して、本書にまとめたのでした。それは新しい視角を切り拓く力作ですから、その成果に各自ご自身、御関心をもって戴いて、直接当たって下さればと存じます。
ただ、念のため、簡約して記しますと、まず古代では、韓民族の不幸と言われた高句麗、百済、新羅の韓三国の、深刻且つ三百年余に亘った対立・抗争が、お互いに権謀術数の限りを尽くした上で、巨大且つ安定した中国王朝の唐の出現で、その軍事力が巧みに引き入れられ、最弱国の新羅によって統一が成されます。唐は百済を滅ぼし、次いで大軍を派遣して高句麗を終焉に至らしめますが、この過程で唐を動かし、唐の軍勢を半島に誘い込んで、その軍事行動に始めから終わりまで、協力したのは新羅でした。大和朝廷の日本も一旦滅んだ旧百済の支援と復興のため派兵しますが、唐・新羅連合軍に惨敗したのです(白村江の戦 663年)。
ここで、石平氏は「半島内で紛争や覇権争いが起きると、外国勢を自分たちの内紛に巻き込んで散々に利用するのは、半島国家が多用する常套手段であり、韓民族の不変の習性と言うべきものであった。」との見方を提示しています。この切り口と捉え方は実に新鮮です。そして、この唐・新羅連合の様なパターンは、その後も危機の程度、事の大小、関係勢力等の異同はあれ、古代から現代に至るまで繰り返されて来たと申します。こうした捉え方については、いろんな考え方や評価があると思われますが、大いに参照し掘り下げるべきと思います。
元寇と高麗の参画・協力
続いて、他の例もふれておきましょう。日本の鎌倉時代に起きた元寇では、大モンゴル帝国の膨張の所産のひとつの様に捉えられがちですが、ここでは、時の韓半島を治めていた高麗王朝の中での激しい権力闘争のゆえ、時の高麗王がモンゴル軍の出動を要請、もって支配を固め、両者は友軍と成り、遂に俱に日本に攻め入ったと言う側面が強いようです。実際、膨大な軍船の建造などは、草原の民のモンゴルの良くなし得るところではなく、高麗の全面的な参画・協力の賜物と申します。
それは、1274年の文永の役はもとより、江南軍が加わった再攻である1281年の弘安の役でも言えることです。
そのほか、石平氏の鋭い筆致は、日本の明治期以降に当たる頃の朝鮮王朝の近代化を巡る混乱や、戦後の分断や朝鮮戦争に及びますが、其処を含めたアプローチと評価は、あらためて各々方に委ねたいと思います。
歴史認識に於ける、こうした切り口と問題意識の提起の意義
日韓の歴史を中心としたテーマで、こうした切り口により、問題を掘り下げ、提起する事は、なかなか鋭く優れたものを感じますが、ひとつ言えることは、日本人には中々
出来ないなと思われるところがある感じがします。それは「日本人には、この主のテーマに遠慮が在る」と見られるからです。
石平氏は、その点、元中国人そして現日本人ですので、通常の日本人とは大いに違いがあるように思います。その御活躍が期待されます。
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拙著への高いご評価、本当に有り難うございました。