推論が効いて面白い;「絶滅の人類史 なぜ私達が生き延びたのか」を読んで
推論が効いて面白い;「絶滅の人類史 なぜ私達が生き延びたのか」を読んで
平成30年7月
仲津真治
本著は、私が大学に入った頃に生まれて、東大理学部に進学、理学博士となり、
専門は分子古生物学の「更科功」教授によって書かれた、人類学の啓発書で
す。著者は例えが巧みで、また、推論が良く効いており、実証を経ながら、仮説
が次第に真実として受け容れられ、定説となっていく流れがなかなか面白く語ら
れています。 しかも新しい発見、研究調査などの成果も取り上げられていて、
最新の本という印象です。
以下諸点について幾つか記しましょう。
1) ヒトと現世の大型類人猿全ての共通祖先
この共通祖先は、凡そ千五百万年前に、此の地上に生きていたと考えられている
由です。 其処から、まずオランウータンの系統が分かれ、次いで、ゴリラの
系統が分かれました。更に、その後、チンパンジーンの系統とヒトの系統とに
分かれたと見られ、それは約七百万年前の事と推定されています。
2) 今のところ知られる最古の化石人類は約七百万年前
それは、学名「サヘラトロプス・チャデンシス」と謂われ、本書14頁の人類系統
図の再下欄に掲出されています。 それは、チンパンジー系統とヒト系統に分か
れた直後の、ヒトに至る系統に属する最古の「種」と考えられています。
このヒトの系統とチンパンジー系統を分ける特徴は、前者が詰まるところ、直立
二足歩行を開始するとともに、且つ犬歯の発達した牙を持たないこととなる由で
す。これに対し、後者は従来通り、四足歩行が基本で、鋭い牙を残していました。
以上二点が、結局のところ、ヒトとチンパンジー、より大きくは、類人猿との分
かれのポイントの様です。
3) 25種以上居たヒトの種の中で、最後に残ったのは、現世人類のただ一種
さて、ヒト系統は、今のところ最古の化石以来、総計25種以上居たこと事が化石
で分かっている由です。 そして、約三十万年前にアフリカで生じた、ホモ・サ
ピエンス以外は全て絶滅しました。 そして、ただ一種のホモ・サピエンスは、
結果として、七百万年の進化をバックにそれなりの優位に立ち、今や七十億人以
上の人口に増え、この地球の全域で繁栄しています。 そして、いろいろと問題
も起こしています。
著者は、この25種の中で唯一生き残ったと言う点と、その諸結果を、現世人類の
一応の優位性と捉えているようですが、優秀だったとは主張していません。其処
が大事なポイントでしょう。
4) 先ず、大事なことに触れておくと、進化論に対しては、猿(サル)がヒトの
ルーツというという受け止め方が、進化論を提唱したダーウィンへの拒絶感に繋
がる
此処で、進化論への嫌悪感からくる意図的な誤解、攻撃について. 著者は触れて
います。
ダーウィンは、猿から連続的にヒトへ進化したなどとと、「種の起源」などで
主張したのでは在りません。 サルとヒトの関係については、実は殆ど何も触れ
ていないのです。 が、そうだと受けとめた人々が大勢居たことはたしかのよう
です。 今でもそうですね。
しかし、今日の広がりつつある人類学や生物学の知見が一段と進み、やがて受け
容れられるという感じがします。
5) 此処で、ネアンデルタール人がホモサピエンスより巨大脳の持ち主で、平均千
五百CCも在り、平均で約二百CCも大きかったことが注目される
脳の進化は大型化であると一般的には言えるようです。 でも、このネアンデル
タール人は約四万年前に絶滅しました。 それでは、その巨大脳の能力、効用は
何だったのでしょう。ネアンデルタール人が絶滅しているため、比較、実感でき
ないゆえ、この点を著者は残念がっています。
その巨大脳は、吾人の脳と何が違っていたのでしょうね。
ただ、消費カロリーが大きい脳は、大き過ぎると、栄養を取り過ぎるという課題
も在るようです。それは、お産の大変さと並び、巨大脳の問題点のようです。
著者は、その無駄な面も指摘しているのです。
因みに、アインシュタインの脳はかなり小さかった事が知られています。
6) 直立二足歩行は不便?
もう一つ、著者は面白い論点を提示しています。
ヒトの直立二足歩行は体幹を直立させ、頭が足の真上に来る構造になっています。
こんな形はヒトだけです。 もし、これが便利な構造と言うならば、既に長い時
間が経っているゆえ、他の動物にも広がりそうなものだと言う分けです。しかし、
今のところ、ヒトだけですね。
例えば、極めて便利な飛ぶことに関しては、昆虫、翼竜、鳥、コウモリと四系統
も進化しています。なのに、直立二足歩行についてはヒトだけ、大きな脳という
メリットも、道具、言葉、コンピユーターなどの発明と発展で、外部化しつつあ
り、そろそろ限界という論も出ている由、「とすれば?」と言う疑問の声も説得力を
持つ可能性がありますね。
7) ここで、アフリカ発祥のヒトの生活の風景について、著者の描く姿に触れま
しょう?
遠くにハゲワシが旋回しています。その下には死んだ同物か、死にそうな動物が
居るはずです。 これを見たヒトは、遠方まで走れる故、我慢強く足を進め、時
にはハイエナより速く、其処にたどり着けました。一所懸命、死肉を手に入れた
ヒトは、また走って,住まいまで帰るのです。 ヒトは、それをメスや子供に分け
与えます。
8) 斯く、ヒトはアフリカ発祥と言う事が、数多くの遺跡、証拠から遂に定説と
なって来ました
私はアマチュアながら、このよう考えに到達した、ヨーロッパ発の人類学につい
て、驚きの念を持ちます。 かのダーウィンの進化論も、偏見等に囲まれてきた
歴史が在ります。また、英国のピルト・ダウン遺跡では、贋作物が作られ、
四十年も贋展示されてきた例が、近年にありました。 それは、現世人類の頭蓋
骨に、オランウータンの顎を人為的にくっつけたものでした。 そうまでしてと
言う中に、或る執念を見ますね。
従って、ヒトのアフリカ発祥論の定着は、正直科学的で、凄い事だと思うのです。
また、テレビドラマなどでは、ホモ・サピエンスが実際的に色黒に描かれていま
す。 それは将にアフリカ発祥であて、白人では無かったのです。 ダーウィン
の時代に比べ、其処に、今日の世界社会の進歩を見る思いがします。
9) 現世人類遂にアフリカを出る
このお話を出エジプト記に引っかけて、出アフリカ記と言う論もあるようです。
先ず、ヒトは、約七百万年前にアフリカに誕生しました。 爾来、何百万年もの
間、ヒトは、進化しつつ、アフリカ大陸内に止まって居ました。遂に其処を出た
最古の証拠は約177万年前の現ジョージア(旧グルジア)のドマニシ遺跡でした。
人類がアフリカからユーラシアに広がると言うと,つい好奇心に満ちた前途洋々
の感があり、そうした説を採る研究者も居て、懸かる映像も見ましたが、本著者
は実際は「単に追い出されただけ」かも知れないとしています。 と言うのもド
マニシ原人は脳容量も小さく、身長も低かったため、似たような時期に登場し、
背が高くて身体能力の優れた「ホモ・エレクトス」に追い出されたと言う見方の
方が当を得ていると見られるからです。
アフリカで優位に立ったホモ・エレクトスは、時期は特定されていませんが、そ
の後、ユーラシアに渡り、ジャワ原人や北京原人へと繋がって、約十万年前まで、
棲息しています。それはヒトの中では長期存命種に入る由です。
10) ネアンデルタール人の登場と、ホモ・サピエンスとの競合
斯くて、時代は更なる変遷を得て、ネアンデルタール人の登場と、クロマニヨン
人即ち、ホモ・サピエンスの発祥、両者の競合、そして、ヒトとしては、ホモ・
サピエンス一種のみとなる現世に遷るのですが、そのネアンデルタール人が、約四万年前の絶滅より前に、ホモ・サピエンスと今日の中東付近で出逢い、約七千年間
と推定される間に交雑していることが、確認され、今や周知のこととなりました。
11) 人類学的もののあはれ
しかも、この交雑により、平均約2%ほどの混淆が、私共の中に残っていると言う
のです。 そして、彼らネアンデルタール人は滅びました。 もとより、交流も近所づきあいもあり得ないのです。 著著は其処に、或る寂しさを感じると言っています。 そして、或る物語を想像ながら書いています。 それは、「もののあはれ」なのでしょうか。
斯くて、この本は、この事を含め、話題が尽きませんし、更なる研究、調査の進
展や発見等が期待されるのです。
その中では、ホモ・サピエンスが一部の狼を飼い慣らして、現代の犬の元とした
ことに触れてほしいものですね。 それは約四万年前の前後に起きていると聞き
ます。 犬の登場は、ホモ・サピエンスの世界の確立にかなり寄与しているとの
のことですね。
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