熱中小学校の先生にとっての熱中のモト
◇全国10校に
人口減少傾向にある地方の町に、廃校などを利用して開設されている大人の学び場「熱中小学校」。それが全国に広がっています。現在、第一号の山形県高畠町をはじめ、會津熱中塾、八丈島熱中小学校など全国8校(東京分校を含む)がありますが、近く和歌山県の「くちくまの熱中小学校」、長野県の「信州たかもり熱中小学校」が開校を控えています。
https://www.necchu-shogakkou.com/
先般、私は観光を兼ねて八丈島に行き、2年度目を迎える八丈島熱中小学校のオープンスクールを聴講してきました。講義は久米信行さんの「勝手に観光協会」と原田英男さんの「牛で興す八丈島」。生徒として感じたのは、内容の迫力もさることながら、お二人の先生の熱気です。
https://www.facebook.com/8joNecchu/?fref=ts
◇ひっぱりだこの久米さんにとって
久米さんに、いったいご自身にとっての熱中小学校の価値は何なのかをお聞きしてみました。久米さんは、各地の熱中小学校から先生としてひっぱりだこの上、すみだ北斎美術館を拠点にした東京分校を立ち上げました。しかも、これらの活動すべてノーギャラです。
Q.久米さんは以前から講演や旅行などで全国を飛び歩いていらっしゃいますよね。熱中小学校のある場所はおなじみのところもあるのですか?
A.それがどこも初めてのところばかりだったのですよ。これまで全国至るところを歩いてきたつもりなんですが、全国の熱中小学校の多くは、さらに“奥地”にあるんですね。でも、そこは「何にも無いけれど何でもある」不思議なところなのです。自然そのままの絶景、ご当地ならではの美味...何もかも未知なる魅力であふれていました。
Q.生徒といってもいい年の大人のみなさんですが、反応はどうだったのですか?
A.実はいちばん輝いていたのは、もう一度「七歳の目で世界を見つめよう」という気持ちで集まった人たちの瞳なんですね。年齢・性別・職業はバラバラで、街おこしに欠かせない「よそ者、若者、ばか者」も少なくありません。私が地元墨田区を中心に実践して来た「勝手に観光協会」のテーマで、地元の人が気付かない魅力があるよというような話をしたところ、さっそく皆さんは地元の素晴らしさを見直してネットで発信しはじめたのです。
Q.熱中小学校が何かを生み出す場になっているのですね?
A.そうなんです。毎年、熱中小学校を通じて、地元を再発見して、その魅力を磨き上げる人が数十人ずつ増えていきます。誰もが誇りをもってネットで発信していくことでしょう。しかも、熱中小学校ができるまでは、同じ場所に暮らしていなかった人達が、同窓生として仲良くなるのです。なんだか思いもよらない化学反応が起こりそうでドキドキワクワクしませんか?
きっと5年後10年後は、「知る人ぞ知る」全国の熱中小学校の所在地が「一度は訪ねたい場所」「いつかは住みたい場所」へと変わっていくことでしょう。そんな熱中小学校卒業生=地方創生の熱いリーダーたちが、全国に現れて交流を始めたら、どんなに楽しいでしょう。
Q.そういう中で久米さんが開校に取り組まれた東京分校の役割がありそうですね。
A.はい、私が「用務員」をつとめる東京分校が、熱中小学校に集う人たちの楽しい寄り合い場所に、さらにはデビューするステージになればと夢想しています。世界から日本の良さを探しに、すみだ北斎美術館や江戸東京博物館にやってくる海外の粋人を、全国の熱中小学校に誘うゲートウエイになりたいのです。
◇使命感プラスアルファ
もうひとり、医師の米山公啓さんにも、熱中小学校の先生をやる意味をお聞きしてみました。米山さんは、とくしま上板熱中小学校で講義をされ、八丈島でも予定しています。米山さんは「自分の講演によって、生徒のみなさんが、脳を刺激する意味を理解して、日常生活を変えていけるようにすることがいちばんですね。それによって、特に認知症のリスクを減らせれば社会的な意味も大きいと思います」 と。おふたりに共通しているのは「使命感」と見ました。
米山さんに「知らない場所に行って、見知らぬ人と交流するという意味で、先生ご自身の認知症予防になるとも言えますか?」という失礼な質問をぶつけてみました。すると「そう思います。」と即座に笑顔で答えてくださいました。やはり使命感プラスアルファがあるようです。
◇先生たちの熱中のわけ
ノーギャラどころか、実際には、おいしいものを食べたり、気に入ったものを買ったりしてしまうので、先生たちは持ち出しです。それでも、声がかかれば喜々として出かけていくのは、やはり得がたいものがあるからなのでしょう。使命感だけで続けていくとしたらたいへんでしょう。
未知の土地を訪れるわくわく感。そこで、学ぶ機会に飢えている人たちが心待ちにしてくれていること。また、知識豊かな人にとっても、教えることは学ぶことであり、逆に、さまざまな経験を持つ生徒たちから教えられることもしばしばあること。そして何よりも、学びを体験した生徒たちから向けられる満足の笑顔。それらの要因が、熱中小学校の先生たちの熱中を支えているのでしょう。頼まれたから行くのですが、頼まれなくても行きたいという気持ちが前提にある気がします。
◇意表を衝く熱中通販
さて、高畠町で最初に熱中小学校を立ち上げ、熱中グループ全体の「用務員」を務める堀田一芙さんが次の勝負に出ました。ただのお勉強にとどまらない、学びから実践へのひとつの応用として、地元の逸品を販売する「熱中通販」が始まったのです。
その柱は、幅広い年代の生徒たちが商品開発する「熱中ブランド」と、先生たちのお薦め商品「熱中チョイス」です。すでに登場している熱中ブランドは、高畠町の旧時沢小校舎の給食室を工房として製造しているハムとソーセージなど2商品。熱中チョイスの方は、福島・会津地方で行うマタギの案内ツアーが付いたミツバチ・オーナー会員を募集しています。2017年11月に本格運用を始めて、5年後の年間売り上げ2億円を目指すそうです。ビジネスとして真剣勝負するために、熱中小学校の授業の中に商品開発、販売のノウハウを学ぶ選択コースも設けられました。
なお、私自身も熱中先生やってます。4月に、明治初期の新聞の興亡に着目して、現在の「メディア戦国時代」を読み解く話を会津でしたのですが、このあと八丈島や宮崎県小林市でも予定しています。
(上の写真は、八丈島の植物公園でノルディックウォーキングを楽しむ人たち)
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