チャイナでのビジネス繁盛記
チャイナでのビジネス繁盛記
平成29年(2017)9月
仲津 真治
1) 「本当は中国で勝っている日本企業」と言う本
この程、集英社刊の「本当は中国で勝っている日本企業」という本を
読みました。 面白いタイトルですが、ポイントは「チャイナが、工業化の
次の展望が開けず、行き詰まりつつ在るとする西側に多い見方に対し、
実はなかなか、したたかで、消費経済の見通しが開けてきており、
これから、さらに十年ほどは相応に伸び、市場機会も在るはずです」という著書
自身の体験を交えたレポートであるとともに、その中で盛んに稼いで来た日本企
業があると云う紹介記事です。
著者は「谷崎 光」という北京在住十七年になり、同地で日中合弁企業に勤務
した経験やチャイナに留学したことの在る女流作家です。 ただ、文体は「である
調」に、ところどころ「ですます調」が混じり、且つ、文章の体言止めが多くて、
正直言って読み辛い書です。
2) 著者の谷崎さんが紹介する日本企業は五例
以下に記します。
第一は大手家電メーカーの「三菱電機」で、かの国での成功分野は、エアコンで
はなくファクトリーオートメーションです。
次は、同地でスマフォ払い自動販売機を普及させた、大陸制覇の感がある
「富士電機」です。
三つ目は、江戸時代創業の総合化粧品メーカーである「伊勢半」とのこと、
「ヒロインメークシリーズを売れ」がスローガンと申します。
そして決定版はキューピーです。 漢字表記は「丘比」でキウピと読みます。
同国のマヨネーズ売り場は、今やキューピー一色と申します。
最後になりましたが、世界の最高品質は日本の日用品との評価の下、
生理用品「ユニ・チャーム」が売れている事を記します。 彼の地の女性からも
本音を聞き出しているのです。
3) 本書が書いている所はチャイナ、いろいろ起きたことが記されています。
先ず、これは冒頭の三菱電機のケースですが、同社の現地の日本人代表と、
当地のトップ企業の代表が食事を伴って会うこととなったところ、「現地の
共産党の書記」も同席と言う事に成り、「おれの顔を立てろ」と云う話で、
先約をキャンセルせざるを得なくなったことが書かれています。
彼の国は共産党一党支配の体制、何事も「共産党」が優先するのです。
ただ、本書で共産党との関わりが出てくるのはこの一カ所、他はありません。
この少なさは注目されます。
さて、この日本人代表に拠れば、「初期の頃は、出張の移動でも必ず教科書を
見ていました。社内の公用語は中国語にしました。とにかく社長室に説明に来る
ようにと。最初は筆談です。でも自国語で言いたいことが言えるようになったと
中国人スタッフには評判が良かった」ようです。
やがて、事業が軌道に乗りますが、いろいろなことが起きます。
例えば素材面で困難に逢着したようなとき、チャイナでは、何と工場建屋全体を
立て替えるか、それともその場しのぎの繰り返しになってしまうかのどちらかに
なってしまうとしまうと申します。同地では、物も組織もオペレーションも一度
全部チャラにして、丸ごと新しいものにしないとどうしようもない事が非常に多
いと言うのです。
4) 此処で、谷崎女史の話は一挙に国家レベルに飛ぶ
曰く、「国の歴史さえ、或る王朝ー革命でゼロ」の繰り返しだというのです。
これは彼の国の「易姓革命」の歴史を指していると思われますが、これに対し、
日本では王朝を取り替えることなく、改善を繰り返し、連綿と二千年以上続けて
来ました。 確かに、凄まじいコントラストですね。
著者は、これについて、既に在るものを「もったいない」と生かし、「改善」や
「効率化」するのは島国日本の思考法かも知れないと云っています。 面白い
指摘ですね。
また、こうも云います。チャイナでは固まって同業者が居ます。それは「真似
文化」なのです。 一社が成功すると一斉に拠ってくる。
ポイントを突いていると思われます。
5) アジア全域の口コミパワーが爆売れを生んだ
斯くて、面白い指摘や事例紹介が化粧品でも続きます。
此処で、著者は、「グローバル化とは、フラット化である」と云います。
著者が郷里に帰り、日本製化粧品を買って戻ってくると、チャイナの友人・知人
から、早速「今日のアイメイクいいじゃない。何処の?」とチェックが入り、
口コミで広がると云います。 今や整形メイクの時代、日本製の高機能化粧品は、
もの凄く人気の由です。 そして、現代の口コミとは、「SNS」なのです。
斯くて、伊勢半の「ヒロインメイク」は、2005年から日本でヒットすると、
間もなく台湾、香港で売れ出しました。 そして時間を置かずして、上海に飛び
火、「伊勢半化粧品商貿有限公司」の業容を大きく発展させたのです。
アジアには国境を短期間に越えて広がる芸能・音楽文化圏があるようです。
例えば、韓国のヒットは、直ぐ台湾、大陸に広がり、その逆も同じなどと云いま
す。 然るに、日本は文化を欧米から受信し、アジアへは発信のみなので、この
流れや構造が見えにくいと申します。
化粧品の伊勢半はこのアジアの一角にしっかりと位置しているのです。
6) 中国人に守られて帰った反日デモの夜
こうした中、2012年のある日、チャイナで反日デモが荒れ狂い、
上海も大規模なものに襲われたと云います。
上海伊勢半の前の道も、反日を叫ぶ人たちで、すごい状態となり、
チャイナのスタッフ達が「今日は早く帰った方がいいですよ。」と日本人の
代表に云い、「一緒に帰りましょう」と何人かで守るように帰ってくれたとの事
です。
その人は、「自分のことを家族のように守ってくれる」と、とても嬉しかったと
申します。この転職の激しい上海で、その会社では創業以来、一人も辞めて
いない由、同地では、「丸投げはしていないけど、基本は現地人に任せている」
との事です。
7) では、キューピー(現地名:丘比)は?
キューピーの海外進出では、最初が米国(1982)、二番目はタイ(1987)、次いで
チャイナの順で、1994年に北京の西北に小さな工場を造り、販売を開始したので
す。 同国での改革開放路線の本格化とともに、事業を始めたことが分かります。
その頃の北京は、「国際電話が二時間待ち、FAXの用紙切れになると二カ月間無し、
流しのタクシーはまずつかまらない、国営の北京百貨大楼に行けば殺気立つ人々
に踏み殺されそうになる。」と言った状態でした。
其処で、操業・販売となっても、「マヨネーズって何ですか。キューピー?」と
いう調子で、全く関心などを得られなかったと申します。 その中を日本人三人、
中国人二十七人、計三十人で開業したのです。設備は皆日本から持って
行った由、まず、マーケット調査で掴んだ情報を下に、ローラー作戦を始め、
商品を店舗に置かしてもらったと言います。
全く無反応の中から、長年培った試食販売のノウハウが生きてきました。
「未知の味を普及させるには、まず、一度食べてもらう、それに尽きる。」と
言います。 斯くて、チャイナのポテトサラダが試食で使われました。こうした
事などの根気良い積み重ねが、徐々に効果を上げて参ります。
そして、同国での創業から二十年余、溺愛されるマヨネーズとなったのです。
その中国公司の社是は「楽業偕悦」と言う由、その意は「仕事は楽しく
やりましょう」と言う事になりましょうか。
そして提供される食品は、「いつも量が一定」、「絶対安全、日付が新しく、
嘘がない」「常に美味しい」とのこと、対比されるチャイナの品々は、そうでは
ない事を暗示しています。 事は重大なのです。 毎日の食卓で戴くものが
安全・安心を満たされないことがよくあり、不安にならざるを得ないとなれば、
誰だって深刻に考えてしまいますね。 典型的なチャイナ型行動と言われる爆買
いについて、背景となっている事情には、容易ならざるものが察しられるのです。
8 チャイナでは、製造、流通、販売などの全行程で、偽造や改変が
混じると言う
このことをチャィナの人々自身が実践をしているから、皆、他所で何が起きてい
るか、行われているか、想像がつきます。
斯くて、安全性への信頼が根底に参ります。 其処で、それが確実に保証される
日本製にこだわるのです。
女性である著者は、随分思い切った経験まで書いています。
生理用品について日本製を忘れたことがあり、やむなく外資系のホテルで「百恵」
という製品を購入したところ、厚さが4cmも有って、「なんだか歩けない思いをし
たと申します。(それは、日本製を騙った偽物と推定されます。)
こう言う不快・不都合なことを避けるにはどうするか、
かような体験をした著者自身が身に染みて分かったはずです。
その事を他者に語ることは無かったでしょうが、実地の経験は
当然学習効果をもたらします。
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仲津 真治 記
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