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韓国を論じる: 黒田勝弘著「隣国への足跡」に懸る幾つかの読後感

2017.08.27 Sun
社会

韓国を論じる: 黒田勝弘著「隣国への足跡」に懸る幾つかの読後感
平成29年(2017)8月
仲津 真治

本書は角川書店から、この六月刊行されています。 著者の「黒田勝弘」氏は、
現産経新聞ソウル駐在客員論説委員の任に在り、 大阪出身、京大の先輩であり、
韓国延世大学への留学経験があり、在ソウルの35年に及ぶ韓国通の人です。 勤
めは、共同通信や産経新聞が長い由、今回、その著を手にするのは初めてですが、
実に好く書ける人だと言う印象です。
以下、拙論も交え、幾つか記します。

(1)  ベストセラー作家、故「梶山季之」の小説「族譜」について

この故人の優れた小説に「族譜」という作品があります。 原作は日本語で
書かれており、高く評価されていて、且つ韓国で映画化されました。当然、
それは韓国語で制作され、日本語の字幕が入ったものが日本国内で上映された
事があります。

私は、その折り、この映画を見たことがあるのですが、充分鑑賞に価するものと
言う記憶があります。 この結果、故梶山俊之についての拙印象も変わりました。
そして、黒田勝弘氏も、この映画の「出来映えが良かった」と表しています。

ただ、この作品が取り扱った「創氏改名」という日本統治時代に取られた措置に
ついて、其処に「基本的な誤解がある」との専門家の指摘を、黒田氏は記して
います。 それに拠れば、同作品が「韓国人が先祖代々自らの存在証明として
引き継いできた、長年の系譜である族譜を断絶する」ように描いているからと
申します。 これは誤りと専門家や黒田氏は言うのです。 創氏改名は
「戸籍に別途、日本式の{氏名}を新たに創ると言うものであって、各人が所持し
維持してきた伝統的な{族譜}に手をつけるものではなく、{族譜}はそのまま残っ
た」とのことです。 つまり、「創氏改名と族譜とは直接的には関係なかった」
と言う分けです。

往時の京城(現ソウル)に生まれ、旧制中学校四年で終戦を迎え、戦後広島に
引き揚げた故梶山季之は、その後「何も知らなかった」事をいたく恥じて、内心
忸怩たる贖罪の思いから、「創氏改名の悲劇」を小説でうったえたと言われます。
作品中に出てくる、創氏改名に抗議して自殺する件は、実話として一件だけ
記録が残っている由、これをモデルとして悲劇の物語にして、葬儀などの情況を
取り入れたのでしょう。

黒田氏は、創氏改名に懸る、このような誤解は、「過剰な贖罪意識が歴史の事実
を見誤る事があるという例である。」としています。

一方、黒田氏は創氏改名が「法律による半ば強制、半ば自由意思」という政策の
実際をふまえつつ、「応じないと不利益をこうむる」といわれ、更に「日本との
一体化と云う時流」もあって、韓国人の約八割がこれに応じた現実を記していま
す。

他方、族譜は韓国では創氏改名と関係なく維持され、今も人々は数百年、ときに
は千年以上もさかのぼって祖先を意識しながら、血縁・同族社会に生きていると
申します。 それは、あくまで民間次元ですが、一族の系図を記載した族譜は、
何冊、何十冊の分厚い書物として現存している由です。

なお、北朝鮮では、1945年の解放後、共産主義化によって、文化破壊である
族譜の全面破棄と言う事を行っている由です。 即ち、同じ民族ですが、南北は
全く対照的で、北朝鮮には族譜は存在しないのです。

(2) 或る韓国人の述懐

黒田氏の記すところに拠れば、韓国の歴史教科書を見ると、日本統治時代の末期
に当たる1940年代から解放の1945年までの記述がきわめて簡単であると申します。
「われわれもよくがんばった」いう抵抗史観からすれば、このころはめぼしい
抵抗の歴史が見当たらないと言う事を反映していると云います。

その情況を概術すれば、当時の韓国人が「ぼくらはもう日本人になりつつあった」
と言うのです。

その一例を記せば、「日本の大学に留学していた或る韓国人が、留学先の東京
から一時帰郷していたとき、京城の韓国人街で鍾路の映画館に入って意外な体験
をしたことです。 戦時下の当時、映画館ではニュース映画として必ず戦況もの
をやっていたが、日本軍の先勝場面を伝えるニュース映画に観客が熱狂する姿に
驚いたというのです。」 当時の東京でさえ、それ程でなかったと云い、斯くて
その心境の複雑なるを御当人は語っていたと申します。

(3)  戦後の徹底した反日教育

このような背景の下、日本統治を離れた戦後の韓国では、徹底した反日教育が
行われたと申します。

つまり、黒田氏の見るところ、「日本人になりつつあった韓国人を、元の韓国人
にするためには、日本を全否定する反日教育が必要であった」と言う分けです。
こうした屈折した、複雑極まりない心情は、その読みでは、特に知識人などに強
いようで、インテリやマスコミが「日本に学べ」と云いながらも、日本を警戒し、
日本非難に熱を上げると申します。

それは即ち、「日本人になってしまった」過去の苦い体験から来る、相当根深い
ものが在るのかも知れませんね。

(4)  北朝鮮・社会主義幻想

さて、ここで、全体を俯瞰しておく事が矢張り不可欠で、そのためには、
北朝鮮・社会主義幻想の存在を指摘しないわけに行かないようです。

黒田氏によれば、ある意味では、戦後の日本は相当の期間に亘って左翼全盛の
時代が続きました。 こうした印象は、年齢層が近い私も実感致します。

そして、其処に黒田氏は、戦後相次いだ事件の謎解きを、「日本の黒い霧」など
の諸稿により、その鋭い文筆力で活写した作家「故松本清張」の存在の大きさを
指摘しています。

その上で、故清張の十二件もの謎解きの最後に「朝鮮戦争」が登場すると
しています。 故松本清張に拠れば、あの戦争は、北朝鮮でなく米国の謀略によ
って引き起こされたと言う分けです。 と主張されたのは、1960年ですが、これ
が著名作家の作品として五十年余も今なお流通しているのです。

ところが、その後、旧ソ連圏が崩壊し、その内部資料が公開されています。また、
改革・開放により、中国で異なる証言が登場してきました。また、北朝鮮の秘密
文書が朝鮮戦争時米軍により押収されていて、米公文書館より公開になりました。
などなどの諸点や諸資料から、米謀略説や米韓の北進説は、今や完全に否定され、
北朝鮮の主張を支持するのは、北朝鮮しかいなくなりました。

こうしたことや情況の進展から、この故松本清張に代表される謀略朝鮮戦争説は、
ご当人が言うような「北側の資料が不十分だからと良く分からない」というよう
なことではなく、作者のイデオロギーの問題であると断じることが出来るようで
す。

と言う事で、随分前に、事情が明らかになったのに、今あらためて黒田氏が新著
で斯く主張するのは、大作家故松本清張の存在の大きかったことと、この機会に
謀略朝鮮戦争説や社会主義幻想のおかしさや偏りをただしておきたいからと思わ
れます。

それは、かなり前から、北朝鮮の弾道ミサイルや核兵器等により危険極まりない
情況が、日本の近くに作られていることが背景に在るからでしょう。 強く平和
と安全の保障を希求するものです。

仲津 真治


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