大手メディアが伝えない情報の意味を読み解く
情報屋台
政治
国際
経済
歴史

「チャイナ・クライシス」をテーマとする「中国」と言う本(ワニブックスのPLUS新書)を読みました

2017.08.16 Wed
政治

平成29年(2017)8月
仲津 真治

本書は、チャイナ出身の在米中国人経済在学者の「何 清漣」と「程 暁農」の
共著であり、原文は中国語で書かれているようで、それを日本人の「中川 友」
が訳しています。数多くのデータと実に参考となる論点が含まれており、また、
邦訳もこなれています。以下、多岐に渉る本書の各所を引用しつつ、焦点を絞っ
て、幾つか拙感想を記します。

1)  共産党資本主義

チャイナは1970年代の後半から、いわゆる「改革と開放路線」により、経済改革
を進めてきました。本書に拠れば、従来からの制度を変革し、公有制と計画経済
の堅持を放棄したのです。 爾来四十年近い改革を経て、チャイナには、共産党
政権と資本主義の結婚という独特の政治経済制度が出現しました。

これこそ、当初「社会主義市場経済」と盛んに喧伝された、所謂チャィナモデル
であり、冷戦後の世界現代史に登場せる奇跡となりました。

共産主義運動の聖典と言われる「共産党宣言」は、共産主義と資本主義は
敵対するほかなく、プロレタリアートによって結成された共産党は、資本主義の
墓堀人となるだろうと宣言していました。 また、当のチャイナでも、毛沢東は
所謂「劉鄧路線」を「資本主義の道を歩む実権派」として排撃、打倒して
来ました。(文革 1966~76)

では、後年、チャイナの経済改革が生んだ、表記の独特な政治経済制度をどう
認識すればよいか、著者達は、これを「共産党資本主義」と呼んでいます。

その著わすところに拠れば、「共産党資本主義とは、共産党独裁政権下に於ける
クローニー資本主義(権力者・富裕層による縁故資本主義)と国家資本主義の
合体と申します。つまり、それは資本主義の廃絶を目指した共産党が社会主義
体制の失敗を経て、資本主義経済体制へ切り替える事で、共産党政権の
統治を維持する事を意味すると申します。

その際、共産党の各級の官僚と親族は、市場化を通して手中の権力を行使し、
企業家や大規模不動産所有者、巨額の金融資産保有者などの資本家へと
変貌し、チャイナの大半の富を握るに至りました。 こうした利益構造ゆえに、
紅い権力者や富裕層は共産党統治の維持を必要としていると言います。
即ち、共産党政権のみが、この人達の生命と財産を保障でき、今後とも
共産党が中央と地方で統治権を独占支配する中で、大金を搾取し続けることを
保証してくれるとのことです。

2  経済指標で見る

ここで、経済指標で客観的に見てみましょう。 分配について、国際的に認めら
れているものに、ジニ係数があります。その数値は0と1の間に分布し、それが低
いと分配が公平であることを示していると申します。 通常は、0.4が警戒水準で、
それを越えれば、その社会では両極分化が進んでいることを示すと言います。

具体例を挙げれば、日本は世界的に見ても低い国の一つと言われ、通常、0.25
前後とのこと、因みに2011年は0.27でした。 これに対し、チャィナは輸出景気
が始まった2003年以来、常に警戒水準以上にあり、国家統計局のデータによれば、
0.48前後で推移してきていると言います。更に、2012年になると、北京大学の民
政発展報告2015に拠れば、世帯財産のジニ係数が実に0.73に上昇したとのこと、
これは、別の切口で言うと、最上層の1%の家庭が全国の約三分の一の財産を
保有していて、底辺層の25%の家庭の財産が、全体の1%位に過ぎないことを示して
いると申します。 つまり、それは大変な資産分配の不公平を表しているのです。

3   あたかも、ポンジ成長のような経済の仕掛け

以上のような過程では、実物経済に対する金融面で、ポンジ成長のような仕掛け
が働いてきたと言われます。 ここに、ポンジ・スキームとは、さる人名に由来
する由、日本語に言い換えると無尽講のような仕掛けで、「高収益が上がるとい
う触れ込みにより、投資のお金を集め、後からの出資で集まるお金を初期参加者
への配当に充てる」と言う方式と申します。

でも、この仕掛けでは、結局、価値創造はなく、資金繰りに行き詰まり、投資家
の信頼を失って、システム全体が破綻致します。

そして、著者達の見るところ、チャイナでは、金融の自由化の大方針の下、
その活性化が進められ、中央銀行(中国人民銀行)は通貨人民元を増発し続け、
新たな貸付を増やし、株式市場を刺激し、不動産価格を吊り上げてきたと申し
ます。 それは、将に「国を挙げて、ポンジ・スキームの手法を推し進めてきた
ようなものだ」と断じているのです。

4  では爆買いのような元気の良い購買力は何処から生じるか

この率直な疑問について、両著者は、以下のように解説しています。
チャイナの総人口約十四億人のうち、「何とか、衣食住に困らない、まずまずの
暮らしを維持できるのは、約96%」に止まり、本当に高い消費能力があるのは、
残り約4%の五千万人余りになるというのです。

つまり、著者などが言う共産党資本主義は、改革開放以来、斯く権力独占の支配
階級を育成に成功しましたが、そこまでに留まりました。 全人口の4%に過ぎな
いのです。

この約4%の五千万人余りの中から、爆買い組のような人々が出てくるというわけ
ですが、もとより、この数だけで、日本の総人口の約半分に達するわけです。
それだけでも、絶対数は大きく、その購買力が、すぽっと海外での爆買いなどに
向かうとすると、それだけ資産や所得が外国へ移転している事になります。
それは、チャイナの商品が安全・安心面で信用できないからなどと言う理由の由、
しかし、外での買い物は、その分、チャイナの経済を相当程度下へ引っ張ってい
ることになるでしょう。

しかも、人口の4%に止まる、消費能力在る層では、決して経済全体への牽引力に
ならないでしょう。

5   アンバランスな経済構造

斯くて、チャイナの経済では、消費力が著しく不足し、そのGDP全体に占める
比率が僅か三割から四割に留まっていて、経済は大きく公共事業や不動産投資
などにに依存していると申します。

而して、世界の工場とまで言われた製造業などは、おびただしい過剰生産能力を
抱えるに至り、行き場に困った生産力のはけ口を求めて、一帯一路のような
構想が登場し、AIIBのような国際的な金融機関の設置にまで話が
進んでいると聞きます。

他方、国内統治では、日本などに学んで、環境立法などを大いに進めていますが、
肝心の実施がほとんど出来ていないと言います。 なぜなら、公害を排出する
企業の方が生産を担っているので、力関係で優位に立つからと言います。
法治主義など、空文化するのです。

それやこれやで、チャイナに輸出力が付いた、ここ二十年近くの間に、各分野の
情況は大変化を遂げました。

6  チャイナの行方と危機の共振

両著者は、こうした現状を総括して、チャイナは最早伸びることなく、次第に
衰退すると見ているようです。 ただ、共産党政権がいつ崩壊するかについて、
国際社会はあれこれ空想するのでなく、寧ろ、崩壊があり得る、今の此の国にど
う対処するかを真剣に考えた方が良いとしています。

その前提として、二人は危機の共振は起きないとみていることが在るようです。
即ち、歴史的体験からして、チャイナでは、統治集団内部の危機・分裂、
財政危機などの経済危機、社会の底辺層の反乱、外敵の侵入が折り重なったとき
に、統治体制の変容、交替がこれまで起きているが、それは当面考え難いという
のです。

それに、世論面から、習近平留任乃至その任期延長に向け、準備に入っていると
しています。権力闘争が行われても、期間遵守など法治主義などは実行されない
蓋然性が高いのでしょう。


この記事のコメント

  1. 元七 より:

     資本主義と一口に言ってもこういう資本主義も存在するかな、と面白いですね。

     日本は、本来の自由な起業家精神で挑戦していく古典的な資本主義を維持してると一般的には考えてるでしょう。

     でも、現実の社会現象、社会科学の有り様はホントに複雑怪奇と思わざるを得ませんね。

     自然科学だったら、どこに行っても、何年たっても「H2Oの水」は変わりようがない。

     しかし資本主義という社会形態は、国が変わればその国特有の資本主義になる。
     また、同じ国であっても時の政府が変われば資本主義の形が変わってくる。

     そう思うと、今の日本は戦前の財閥資本主義へ回帰しつつあるのではと思えてなりません。

     我々一般庶民は少子高齢化進展による貧困社会へまっしぐらの中で、安倍自民党政権は借金依存により年々国家財政規模の拡大を進めている。
     その財政拡大の意図は、外国にたいする資金助成で国内大企業の業績アップをもたらし、その恩恵が、いずれ政党政治寄付に繋がり公務員政治家の待遇アップに資するということですね。

     つまり、行政政府と大企業が連携し一般国民を低層下に置いて、自分達は先行き悠々とした生涯を送るということです。

      七十年前、終戦時に連合国側が「財閥解体」を命じたのはこのような歪な資本主義を正し、日本に真の民主資本主義をもたらすためだったと思います。

コメントする

内容をご確認の上、送信してください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

政治 | 国際 | 経済 | 歴史の関連記事

Top