続・熱中小学校の勢いがとまらない --地方創成の新しいモデル
◇話題の「すみだ北斎美術館」で東京分校
2016年11月22日、総武線両国駅の近くに「すみだ北斎美術館」が開館しました。葛飾北斎は墨田区で生まれ、生涯この地で過ごし、数え90歳で亡くなるまでの70年間、大衆メディアとしての浮世絵を通じて、多彩で膨大な数の作品を発表し続けました。両国駅を降りると、ホームからすぐに江戸東京博物館の大きな建物が目に入るので、北斎美術館に着くと、やや小ぶりに見えますが、落ち着いた、工夫されたデザイン空間の中で北斎の世界を堪能することができます。
そのすみだ北斎美術館が開館してまだ日の浅い12月5日、熱中小学校東京分校のオープンスクールが美術館内の講座室MARUGEN100で開かれました。熱中小学校は、前々回ご紹介したように、山形県高畠町の小学校の廃校を利用して、2015年に「もういちど7歳の目で世界を」というキャッチフレーズで始まった大人向けの生涯学習プログラムです。高畠町と墨田区は、奇しくも30年来、交流事業として児童生徒が相互に訪問するという関係にありました。
◇各地と結ぶゲートウェイ
東京分校は、各地に広がりつつある熱中小学校(熱中塾などの名称もあり)のサテライト拠点として「ゲートウェイ」の役割を果たすと、熱中小学校の「用務員」で仕掛け人の堀田一芙さんは言っています。校長には内田洋行の大久保昇社長が就任。この日のオープンスクールでは、久米信行さん(墨田区に本社がある久米繊維工業の会長)と中村寛治さん(動画プレゼンテーション会社ヒューマンセントリクス社長)の授業がありました。久米さんは、墨田区の観光や文化の振興に熱心に取り組んでおり、北斎美術館の創設にもかかわっています。この日の生徒たちの中には、熱中小学校が開校した八丈島や、計画中の大分県小林市、富山県高岡市など各地からの参加者があり、相互の交流を深めて、まさに東京分校がゲートウェイ機能を果たしつつあります。
◇八丈島熱中小学校スタート
八丈島熱中小学校の構想は、高畠町で熱中小学校が開校する少し前、堀田さんと岸田徹さんの会話から生まれました。岸田さんはeラーニングのトップを走るネットラーニングの代表でありながら、島が好きで、日本中の島をまわっているうちに、八丈島に住み着いてしまい、自宅のほか保養所までつくってしまった人です。八丈島には羽田から飛行機で30分ほどで行けるので、毎週都内と島を往復しています。八丈島の人口は8000人弱で、電気も水道も島内で自給できます。ちなみに、東京都全体の合計特殊出生率は1.15(2015年)なのに、八丈町ではなぜか2.07とたいへん高く、この数字だけを見ると人口をほぼ維持できるはずです。学校は高校までがそろっていますが、どうしても卒業後は島外に出る人が多いので、ゆるやかながら人口減が続いているのです。ですから、Uターンする人や移住してくる人をいかに確保するかが重要な課題となっています。
10月15日(土)の八丈島熱中小学校開校式(兼第1回授業)には、一般申し込み65人を含む約100人が集まりました。中には地元で評判の飲食店の店主のように、授業に出るために店を閉めて参加した人までいました。現代は、その気になれば、Eテレやインターネットでかなりのことが勉強できます。しかし、自分たちだけのために各分野の実績ある人たちがわざわざ島までやってきて、目の前で授業をしてくれるというのは何ものにも代えがたい魅力があるのでしょう。
◇学ぶ 交流する 始める
八丈島熱中小学校の校長に就任した岸田さんのキャッチフレーズは「学ぶ 交流する 始める、そして次世代へ」。先生たちの情熱を受け止めて学びの炎が体内に点火されたら、さらにもっと学びを深めよう。そのとき、同じ気持ちを持つ人たちとの交流が視野を広げるだろう。そして、心に温めていることを行動として始めよう。そのプロセスのさまざまな局面でインターネットが役立つ。岸田さんはこのようにアピールしています。実際、ネットショップなどネットビジネスをテーマにした第2回の藤元健太郎さんの授業の受講者の中からは、実際にショップを始めることを表明する人が現れました。
◇そして次世代へ
岸田さんが近未来の八丈島の可能性を信じる背景には、島の高校生との交流があります。「そして次世代へ」にはそういう気持ちが込められています。彼らは、いったん島外に出ても戻ってくる意思が強く、島のリーダーになりうる人もいると岸田さんは言います。そのため、高校生が課外で参加する機会をつくり、場合によっては起業につながるよう応援したいとのことです。熱中小学校の先生としてやってくるさまざまな分野の人たちをそこにつないで、若者たちによる八丈島の近未来デザインを生み出していこうというもくろみです。12月の第4回には、杉並テレビというネットメディアを運営している高橋明子さんから、住民自らが映像コンテンツをつくって発信していく方法や事例が紹介されましたが、近い将来、八丈島の高校生がその担い手になって発信する姿が見られるかもしれません。
人口流出と高齢化の進んだ各地で熱中小学校のような取り組みが自立的に立ち上がって、都会に負けない生涯学習の場ができ、そこを基盤にゆるやかなネットワークが広がり、さまざまな実践が生まれていくという、一種のプラットフォームができつつあると言えます。おもしろいのは、それが当初から計画されたものではなく、以前だったら出会うこともなかった人同士のおもわぬつながりができて、自然増殖的に拡大していったことです。「熱中」という、もういちど燃えたいという気持ちを持った人たちをひきつける名付けの妙も忘れられません。
※熱中小学校の勢いがとまらない(前編) http://www.johoyatai.com/863
※熱中小学校東京分校 https://www.facebook.com/NecchuTokyoGatewaySchool/
※八丈島熱中小学校 https://www.facebook.com/8joNecchu/
※八丈町ホームページから http://www.town.hachijo.tokyo.jp/kakuka/kikaku_zaisei/8jonecchu.html
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