ニューヨーク・タイムズ1000万会員は“上げ底”か
◇1000万の数字が一人歩き
ニューヨーク・タイムズ(以下NYT)は有料デジタル購読数が1000万を超えていると発表していますが本当でしょうか?
もちろんウソではありません。しかし、その3割(約300万)はニュース以外のサービスのCookingやGames、Wirecutter(商品レビュー、推薦情報など)とThe atlantic(買収したスポーツメディア)のどれかだけを契約している会員なのです。NYTではOther single-productと言っています。(2024年第2四半期)
たとえば朝日新聞で言えば、紙の新聞の発展系である朝日新聞デジタル(朝デジ)だけでなく、クロスワードパズルや料理記事を切り出して別の有料サイトに仕立てて、日刊スポーツの有料サイトまで足し合わせたような数字なのです。そのうちの朝デジ有料購読数約30万(2023年12月)に相当するNYTのニュース購読数の見当を付けると600万~700万程度と思われます。(2024年第2四半期末)つまり、従来の紙のNYTのデジタル版ととらえると1000万ではなくせいぜい700万程度なのです。700万と言えば、日本で断トツの日経電子版の有料購読数約97万と比べてもすごい数字ではありますが・・・。
もうひとつわからないのは、ニュース購読数がせいぜい700万程度と言いましたが、本当の数字は(私の見る限り)NYTのレポートでは書いてないのです。News-onlyが約230万、Bundle and multi-productが約480万とあるだけです。これらを足すと下表に示すように約710万となります。
このうち、BundleというのはNewsとCookingなどのproductがバンドルされていて定額ですべて見られるサービスです。それに対してmulti-productというのは、Newsを含まないと思われます。それらの合計が約480万ということです。想像するに、この項目のうちの大半はBundleと思われます。表のうちオレンジ色の背景にしたところは、NYTのレポートにはありません。私が合計して入れました。それが約710万という数字です。(2021年までとそれ以降では、分類が若干変わっているので要注意です。)
注)文中の表の数字が見にくい場合はこちらをご覧ください。
◇バンドル戦略の裏に、本体(ニュース)の伸び悩み
では、なぜNYTはNews購読数の数字を書かないのでしょうか?
振り返ると、NYTは、2022年から販売方針を、ニュース以外のサービス(product)の拡販を重視し、原則としてニュース単独(News-only)のセールスは行わず、ニュース+サービスによるバンドル最優先の姿勢を鮮明にしました。 それに伴い、購読数の発表区分を2022年分から変更し、ニュース購読数の数字がわからなくなりました。
過去を振り返ると、NYTはさまざまな模索を経て、広告収入への未練を捨てて、2012年にデジタル版の総有料化に踏み切りました。そして2021年までに目立ったのは安売りです。1年目は週0.5ドル、それ以降は週2ドルといった低価格路線の宣伝をガンガンやってきました。
ところが、2022年になると、Games,Cooking,Wirecutter,The AtlanticというproductとNewsのBundle(抱き合わせ)を強く推す路線に急旋回し始めました。
以前は「週0.5ドルですべてのニュース記事」にアクセスできるよという言い方だったのが、2022年頃から「すべて」の意味が変わってしまいました。すなわち、
unlimited access to all the journalism(=ニュース) から
unlimited access to all of The Times(=News,Games,Cooking,Audio,Wirecutter,The Atlantic) へ
と宣伝文句が変更されています。ニュースだけのプロモーションはもうしないと、同社は外部の取材に対して答えています。“抱き合わせ”で行くということです。
各年のAnnual Reportでbundleの語を検索してみたところ以下のように、2022年から急増しているのがわかります。
2023年 63件
2022 32
2021 8
2020 2
2019 1
※2019と2020は意味が異なるので、事実上ゼロ。
Newsだけの数字を言わない背景は、「2025年に1000万達成」を目標にすると2019年に宣言したことが思い出されます。そして目標を公言していながらNews本体の伸びが頭打ちになってきているためではないかと想像できます。実際には2023年に有料デジタル1000万を達成を発表し、現在は2027年1500万目標を宣言しています。
上の表は、分類別の対前年比を示しています。この表からうかがえるのは、Newsの伸び悩みとGames,Cooking等のproductの成長です。Bundle戦略を前面に出して以降の数字の発表はNewsの伸び悩みが見えないようにしていると言えるのではないでしょうか。もちろん、NYTがジャーナリズムの本道を変わらずたいせつにしていることは疑っていません。そのための収入を確保していくことのたいへんさもわかります。そうであっても、数字は継続性も考慮しつつ、素直に出してほしいものです。
なお、私の読みに誤解・誤読などないとも限らず、気づいた方はご教示お願いします。
注)文中で「有料デジタル」と言っているのは、NYTはDigital-onlyと表現しています。紙の読者を含まないという意味です。紙の読者もDigitalのNewsなどを読めるためです。
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