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変貌する世界とメディア②ニュースメディアの進化~メディア研究家の校條諭さんに聞く

2023.12.13 Wed

メディアの歴史のなかで、いまのメディア状況をどうみたらよいのか、『ニュースメディア進化論』(インプレスR&D)などで、メディア論を展開している校條諭さんと対話しました。

 

◆メディアの歴史といま

――校條さんは、前述した著書のなかで、明治以降の日本のニュースメディアの変遷をたどっています。自由民権運動をめぐり政論を戦わせる漢文調の「大新聞」(おおしんぶん)と、世間話を中心に口語調の「小新聞」(こしんぶん)のふたつの流れから始まった日本の新聞メディアは、明治中期になって、どちらの要素も入れた口語調の「中新聞」(ちゅうしんぶん)となって、朝日、毎日などの新聞が数百万部の部数を競う世界でもまれな新聞の消費国となります。

 

校條 朝日、毎日の二大紙や他の有力紙は、宅配の仕組みも次々と構築して、事件、芸能、流行風俗、大衆小説、投書などで人気を集め、日清、日露から太平洋戦争へと続く戦争報道によって部数を拡張させました。

 

――戦争報道が新聞の購読者をふやしたのは、勇ましい話を国民が好んだこともありますが、肉親を戦地に送り出した人々にとっては、どんな戦いになっているのか知りたいということもあったでしょうね。

 

校條 従軍記者の最初は1874年(明治7年)の台湾出兵で、東京日日新聞(現在の毎日新聞)の独占報道で、新聞は部数を伸ばし、軍部も戦意高揚につながると思ったのでしょう。日清戦争以降は従軍記者による記事がふえました。1905年1月、旅順陥落時の東京日日新聞の見出しは「祝旅順陥落 大日本帝国万歳 大日本陸軍万歳」、政府や軍の宣伝ビラのようです。アジア太平洋戦争では、当局の規制により大本営発表をうのみにする記事しか掲載できないようになりました。

 

――戦後になると、ラジオ放送がニュースメディアとして参入、1950年代にはテレビが登場し、1970年代半ばには、広告費でテレビが新聞を抜きます。新聞では、1977年に読売が朝日を販売部数で抜き、毎日の低迷もあり、読朝の二大紙となる一方、経済紙の日本経済新聞が着実に部数を伸ばしました。

 

校條 昭和の終わりまでは、テレビと新聞が二大メディアとなり、マスメディアの黄金期を迎えます。新聞経営が購読料と広告収入で潤っていたことは、新聞が社会的な課題や問題を積極的に取り上げ、ジャーナリズムの主役を果たすことを支えました。日米安保条約の改定(1960)、米国のベトナム戦争への介入(1964~1975)、水俣病をはじめとする公害問題、ロッキード事件(1976)、リクルート事件(1988)などの報道で、新聞は活気づきました。

 

◆メディア戦国時代

――1995年にマイクロソフトがWindows95というパソコンのオペレーションシステム(OS)を発売し、インターネットへのアクセスが簡単になったことで、のちに「インターネット元年」と呼ばれるようになりました。企業でも個人でもだれもがホームページをつくり、情報発信ができるようになりました。

 

校條 テレビや新聞のような大きなメディアが一方的に情報を流すマスコミュニケーションの図式が崩れたのです。私は、1995年に「総表現時代」という言葉を使いました。2006年に登場したツイッター(2023年7月からはX)は、またたくまに世界を席巻し、現在は世界の4億5千万人が利用し、1日に5億件以上のつぶやき(ツイート)が投稿されるメディア空間になっています。まさに地球規模の総表現時代です。

 

――情報はネットから取る、というのが当たり前の時代になりました。そのあおりを受けたのが新聞で、日本新聞協会のデータによると、2007年までは1世帯が1部以上の新聞を購読していたのが、2008年に1を割り込み、2022年は0.53まで落ち込んでいます。一般紙の発行部数も2008年に4500万部だったのが2022年には2800万部まで4割近く減少しています。(下のグラフは、PRESIDENT Onlineの2023年1月16日に掲載された磯山友幸氏の記事から)

校條 テレビの視聴時間も減っています。NHKが5年ごとに調べている国民生活時間調査によると、2015年の調査で国民全体・平日のテレビの1日当たりの視聴時間が3時間18分で、2010年調査に比べ10分少なくなり、2020年の調査では3時間1分で、さらに17分も少なくなりました。若い世代のテレビ離れが激しく、16~19歳の視聴時間は53分(2015年は1時間34分)で1時間を割り、40代でも1時間56分(2015年は2時間34分)で2時間割れとなっています。

 

――新聞やテレビなどマスメディアの視聴は減らす一方、スマホからのYahoo!ニュースやYouTubeなどの情報を得る機会はふえているということですね。

 

校條 そういう意味では、メディアの変革期であり過渡期であり、戦国時代だと思います。その象徴がYahoo!ニュースです。新聞やテレビは報道機関と名乗っていますが、ヤフーは報道機関ではありません。Yahoo!Japanのサイトを見れば、ショッピングやトラベル、ファイナンスなど多くのコンテンツがあり、Yahoo!ニュースはコンテンツの一部で、「取材しないメディア」です。こうしたメディアは、ニュースによってお客を集め、広告で儲けるというビジネスモデルを根幹にしています。アテンション・エコノミー(attention economy)の典型で、情報が洪水のようにあふれる社会では、どうやって関心(アテンション)を集めるかが重要なのです。ニュースは、常に情報が更新されるコンテンツで、アテンション・エコノミーにとって都合のよいネタということです。(下の写真はYahoo! Japan のサイト)

――世界最大のタクシー会社はウーバーで、その特徴は1台もタクシーを持っていないことだそうですが、ニュースメディアの世界でも、Yahoo!ニュース、LINEニュース、スマートニュースのようプラットフォーマーと呼ばれる「取材しないメディア」が「取材するメディア」を凌駕する時代が来ていますね。

 

校條 「取材しないメディア」で、プラットフォーマーはニュース提供者に対価を払う姿勢を見せていますが、ネットで集めたニュースに文字通りタダ乗りして、刺激的な見出しを付けて、ページビュー(PV)で稼ぐことだけを狙っている「コタツメディア」も乱立しています。コタツというのは、自分では取材せず、ネットやテレビの情報だけを集めた記事のことで、こたつのなかでも記事ができる、という意味です。

 

◆独禁当局がプラットフォームをけん制

――ニュースの発信元を明記しないコタツ記事は悪質ですが、ニュース元をリンクで貼る「まとめサイト」や「まとめ記事」も、「取材するメディア」にタダ乗りという意味では、問題がありますね。

 

校條 一方、プラットフォーマーの問題は、ニュースを提供するメディアに対して圧倒的な価格交渉力で、ニュースを買い叩いていることです。先進国では、政府がこうした状況に危機感を持ち、プラットファーマーに対して正当なニュース使用料を払うように介入しています。日本の公正取引委員会もことし9月、記事使用料が最も安い事業者と最も高い事業者で約5倍の開きがあるとして、独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」にあたるとの見解を「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」で示しました。

 

――EU(欧州連合)は、デジタル市場でのコンテンツの著作権保護と公正な報酬を保障するEU指令を2019年に出し、これを受けて各国が国内法を整備し、仏競争委員会はグーグルに対して正当な報酬を支払っていないとして5億ユーロの罰金を科しました。オーストラリアはニュースメディア交渉法(2021年)、カナダはオンラインニュース法(2023年)を制定し、ニュースを提供するメディアがプラットフォーマーに対して強い交渉力を持てるようにしました。日本の公取委の報告書には「ニュースコンテンツが国民に適切に提供されることは、民主主義の発展に不可欠」と書かれています。各国がニュース配信で、プラットフォーマーの動きに介入しはじめたのは、民主主義を脅かすという危機感もあるのでしょう。政府のこうした動きは、新聞社や放送局にとっては、ありがたいかもしれません。とはいえ、民主主義の旗を掲げる報道機関が政府に助けてもらうというのは情けない気もします。

 

校條 同感です。ソフトバンクが米国ヤフーと合弁で日本にヤフーを立ち上げたのは1996年で、すぐにYahoo!ニュースによるニュースの配信が始まります。毎日新聞がロイターを通じてヤフーに国内ニュースを流すと、朝日や読売もニュースを提供します。よもや紙媒体がネット媒体に脅かされるとは思わなかったのでしょうが、うかつというか甘かったのでしょう。気づいたときには、ヤフーのほうが価格渉力で強くなっていたのです。

 

――ヤフーに初めからニュースを提供せず、独自の配信を進めた日本経済新聞は先見の明ありですね。

 

校條 その通りですね。自分たちの出す情報についての優位性の自覚があったということでしょう。海外ではニューヨーク・タイムズ(NYT)がプラットフォーマーには情報を流していません。ヤフーに情報を提供しているメディアは2022年11月時点で、447社、689媒体で、毎日7500本の記事を配信しています。ヤフーのトップページに掲載される記事はヤフトピと呼び、私は2022年7月の1週間のヤフトピの「主要」カテゴリーの中身を調べてみました。その結果は、全国紙のシェアは19.0%、地方紙5.2%、テレビ局18.5%、通信社14.5%で、いろいろなメディアから記事を提供されていることがわかりました。新聞社や放送局が単独で、あるいは徒党を組んで値上げを求めても、それが通るのは難しいでしょう。(下の写真はYahoo!ニュースのサイト画面。「主要」には8つの「ヤフトピ」が掲載されている)

――2022年6月、公取委は、ニュースポータルサイトに対して報道機関が契約データの開示などの要請を共同で行うことは独禁法違反に当たらないとの見解を示しました。報道機関が徒党を組んで価格交渉をするのは独禁法違反でしょうが、ある程度の共同行為を認める、というのは、プラットフォーマーに対する独禁当局からのけん制でしょう。稲増一憲著『マスメディアとは何か 「影響力」の正体』(中公新書)は、「しかるべき対価が払われるならば、マスメディアとインターネットの共存共栄は可能だ」と指摘しています。「しかるべき対価」を払わせる交渉力を新聞などのマスメディア側が持てということですね。

 

校條 先進国での流れですが、プラットフォーマーのビジネスモデルがアテンションエコノミーだとすれば、客引きのネタは、報道機関が提供するニュースである必要はありません。ヤフーは「主要ニュース」をトップに置いて、重要なニュースを列挙していますが、ほかのプラットフォームのなかには、それぞれの個人の好みにあわせて、芸能とかスポーツとかの話題ばかりを並べているところもあります。

 

◆デジタル化に成功したニューヨークタイムズ

――利用者が政治とかスポーツとか項目を選ぶのは個人の選択ですが、プラットフォーマーが個人の志向をアルゴリズムで選んで、その人が好みそうな情報ばかりを流すこともできるようになっています。メディアの発達は民主主義の発展にも貢献してきたと思いますが、家族が同じ情報を共有できる新分野テレビのようなメディアが廃れ、それぞれの個人がスマホなどの個人端末から情報を得る時代になると、政治的な情報なども偏り、健全な民主主義から離れていくのではないかと心配します。

 

校條 それを防ぐには、さまざまな権力や広告スポンサーから独立した立場を維持していくには、新聞が紙でもデジタルでも良質な情報を出していくしかないと思います。NYTは2023年9月時点での総有料読者数が1000万人になったと発表しました。このうち941万人は、電子版の新聞だけでなく、パズル(クロスワード)、料理、製品情報などのデジタル読者です。その成功には低料金政策がおおいに寄与していますし、海外向けにはNYTを併読紙として位置付けてさらに安い料金で提供して、世界市場を制覇しつつあると言えます。

 

――私もNYTのデジタル読者のひとりですが、たしかに併読紙で、ある出来事を日本のメディアで確認したうえで、NYTはどう報じているのか、どう論じているのか、という視点で読んでいます。読むと言っても英語を読むのは苦痛なので、Google Chrome やMicrosoft Edgeの自動翻訳で読み流し、文意が通じない個所などを英語で読み直しています。NYTが世界の併読紙になっているのは世界の共通語ともいえる英語であることが大きいですが、いまは自動翻訳の精度が上がっていますから、日本のニュースなら朝日新聞なり日本経済新聞なりを読もうといった国際ブランド力が高まれば、NYTのような併読紙化も不可能ではないと思います。ウィキペディアでも、ひとつの項目について、それぞれの言語で情報が違いますから、たとえば、徳川家康を詳しく知りたいと思ったフランス人はフランス語のウィキペディアだけでなく、日本語版の徳川家康を自動翻訳で読めば、より細かな情報に接することができます。(下の写真はNYTのニュースをプラウザが自動翻訳したもの)

校條 取材するメディアは、このままではヤフーのようなプラットフォームの下請けになってしまいます。それを避けるには、お金を払っても読みたい記事やコンテンツを自分のサイトで出していくことが大事です。調査報道は、その手立てのひとつで、NYTなどが得意とするところですね。日本の調査報道で記憶に残るのは、毎日新聞が2000年にスクープした「旧石器捏造事件」です。旧石器を遺跡から次々に発見し、「神の手」を持つといわれた在野の考古学研究者があらかじめ遺跡に旧石器を仕込んでいたことを長期間の取材と張り込みでつかんで記事にしたものです。最近の調査報道で印象に残るのは朝日新聞が2022年に連載した「みえない交差点」です。警察庁が公表している全国の人身事故データを独自に分析したところ、小さな交差点で事故が多発しているのに、信号機がないことなどから統計には表れない危険な交差点が全国に多数あることを発見し、現地取材でそれを裏付けた記事でした。すぐれた調査報道であるとともに、公表されたデータを駆使して新たなニュースを発掘するデータジャーナリズムとしても評価されました。(下の写真は朝日デジタルに掲載された「みえない交差点」の記事)

 

◆新聞はタレントプロダクションになれ

 

――特ダネが新聞・放送ジャーナリズムの東の横綱なら、調査報道は西の横綱ですが、他社よりも先んじて報じる速報という意味での特ダネの価値は、ネットの発達で下がっています。独自ダネという意味で調査報道の価値は高まっていると思いますが、部数減からどこの新聞社も、取材する記者を減らしたり、取材費を削ったりしているようですから、調査報道の余裕もなくなっていると思います。

校條 「Tansa」は、2017年に創刊したワセダクロニクルを2021年に改名したネットメディアですが、政府や企業、犯罪集団組織などが隠蔽する不正を暴露することを目的に、独自取材の「探査報道」でネタを掘り起こしています。収入は広告に頼らず、個人や団体からの寄付を主とし、記事は無料で公開しています。硬派のジャーナリズムとして注目しています。また、「SlowNews」は、紙メディア、ネットメディアを問わず、調査報道を応援する立場で連日発信しています。しかも、自らも取材チームを起用して独自の報道をしています。2021年から取り組んで、途中の休止を経て、2023年6月から月額500円ないし1000円の会員制で日々発信しています。「消えない炎のようにテーマを追いかける情熱と、事実をありのままに見つめる冷静さで、常識や偏見をひっくり返す」ことを大事にしたいと宣言していておおいに共感します。(下の写真は「Tansa」と「SlowNews」のサイト画面)

 

――新聞社は官邸を含む多くの役所や政治家に記者を貼り付け、良く言えば権力を監視しているつもりなのでしょうが、実際には、情報を取るために、政治家や役人に癒着する結果、権力を監視するどころかおもねったり、忖度したりする記事を多く書いています。何十人もの記者を早朝から深夜まで政治家に貼り付けている割には効率が悪いというのか、政治の深層をえぐるような記事は少ないように思います。

 

校條 政治部の記者にとっては、「解散」といった特ダネを取るために、多くの労力をかけているのでしょうが、読者や視聴者にすれば、政治家たちがどんな駆け引きをしながら、解散のような重要な決定をするのか、それを記者たちはどう追っているのかというプロセスに興味があります。そういう意味で、NHKがネットで発信している「NHK政治マガジン」は、結果に偏りがちな放送ニュースのプロセスや背景をわかりやすく伝えようという現場の意欲を感じます。

 

――取材のプロセスで、面白いのは「夜回り帳」ですね。政治記者がそれぞれの担当する政治家の夜回り、朝回りに聞いたオフレコの話をメモで書いたもので、以前は官邸キャップとか与党キャップとか、現場の指揮官しか見られない仕組みになっていましたが、いまは、メールなどでもっと共有されているのでしょう。政治家の本音が垣間見えて面白いですが、オフレコですから、そのまま表に出すことはできません。新聞やテレビでは、「与党幹部の発言」などとして記事や放送のなかで使われています。

 

校條 新聞の社説というものの存在意義を疑っているのですが、社説の主張が決まるまでの論説委員室の議論は激しいこともあるのでしょう。そういう議論を表に出したら、社説も価値があると思うし、面白いと思います。

 

――社説は、新聞の機能である報道、解説、主張のうち、主張の柱です。新聞によって論調が違うとかカラーが違うとかいわれるのは、社説の違いから出ているところが多いと思います。主張が異なるというのは、新聞の売り物のひとつになるはずです。私は2002年から2008年まで朝日新聞の論説委員で、たとえば2003年3月に起きたイラク戦争では、そのひと月前に「イラク戦争に反対する」という社説を書きました。その後のイラク戦争の展開をみれば、歴史に残る主張だったと思います。先日、朝日の論説OB会で、現役の論説委員にその話をしたら、「あの社説を読んで、戦争を支持する社説を書いた新聞からうちに移ってきた記者がいます」という話を聞いて、うれしくなりました。

 

校條 社説は論説委員室という集団の匿名の主張ですが、論説委員長とか論説主幹とかのアンカーがいるなら、その名前を出したほうがいいと思います。新聞は、紙やデジタルにこだわらず、いろいろな記者が署名でそれぞれの独自の見方や考えの記事を書き、その記者の記事を読ませるメディアに特化していくべきだと思います。記者に編集者も加えて、もっと個人を前面にだすことで、記者や編集者のファン(支持者)をふやすのです。新聞社はタレントプロダクションになるべきです。

 

――銀座松坂屋店が閉店して、ブランド店の集合であるGINZA SIXに生まれ変わりました。百貨店のブランドよりも、それぞれの店のブランドで、お客を集めようというのでしょう。新聞も社名よりも記者の個性で売る時代なのでしょうね。とはいえ、記者の個性を押さえるような話ばかりが私の古巣からは聞こえてくるのは残念です。

 

◆ジャーナリズム論とメディア論

 

校條 OBも含め記者の人たちの話は、こういう記事を書くべきだというジャーナリズム論が多いのですが、その記事をどうやって伝えるのかというメディア論についても、もっと議論すべきだと思います。

 

――校條さんは、『ニュースメディア進化論』のなかで、これからのニュースメディアについて、いろいろなアイデアを出しています。いろいろな情報が整理されて掲載されている新聞の利点をデジタルで生かすには、どんなことが考えられますか。

 

校條 新聞の特徴は、いろいろなニュースをひとつの面で見せたり、ニュースの重みを記事の場所や見出しの大きさなどで示したりするところです。こうした紙面文化を生かしたデジタル新聞は、工夫次第で可能だと思います。新聞社の宝は、過去の膨大な記事を持っていることですから、それを活かすのも大事です。読売新聞オンラインの「ちょっと前はどうだっけ?」という連載コラムは、過去の写真を使いながら、世相の移り変わりをうまく描いています。調査報道で例示した朝日新聞の「みえない交差点」は、オープンデータ(公表データ)をうまく活用して独自のニュースにしたもので、オープンデータもデジタル化、ビジュアル化などの工夫で、新しいニュースが出てくると思います。VR(ヴァーチャル・リアリティ)の技術で、眼前に大きな新聞紙面が広がるようにしたり、「ニュースアース」と呼ぶ球面のようなVR紙面にして、興味のある記事をクリックして読んだり、さらに関連記事を深堀りできるようにしたりするアイデアもあるでしょう。(下の写真は校條さん提供による「ニュースアース」の概念図)

――電車で紙面を広げる人はいなくなりましたが、思わぬ記事に出会えるというのは新聞紙面のよさですね。最後に、メディアが個人向けになっていくなかで、多くの人が情報を共有しながら、議論をしていくという民主主義の土台を提供するメディア像は、どう考えますか。

 

校條 ひとつの問題に、いろいろな見方があるし、その解決法もいろいろです。いまのメディアのありかたを進めていくと、特定の考え方を持つ人たちが特定のメディアにつながるという分断社会になってしまいます。ビッグデータを処理するのはAIが得意ですから、AIにある問題についての総オピニオンを座標軸のような形で整理させて、それをもとにみんなが議論する場所をメディアが提供する、という方法があると思います。議論する共通の場とデータがあれば、対立だけではなく、相互理解も可能になると思います。「集合知」のジャーナリズム、メディアです。

 

――ニュースメディアの進化という意味で、これからはテキスト主体ではなく映像主体になるようにも思えるのですが、いかがですか。

 

校條 映像が主流になるということについては、そうだと思いつつも抵抗感を持ちます。テレビ対新聞で、たとえば接触時間を比較すると、とっくに圧倒的な差がついています。しかし、テレビや映画が隆盛でも、小説など文章を読む本は根強く生き残っています。出版は供給過多ではありますが、読書時間で見ると長期的にあまり変わっていません。文脈をきちんとたどって、途中で立ち止まることもできるのはやはり文章だと思います。映像は演出によって同じ素材でもずいぶん違った見せ方ができてしまうという問題もあります。

――メディアのありようを歴史のタテ軸、さまざまな形態のヨコ軸、さらにはジャーナリズム論の3次元軸から考えていくと、これからのメディア像が見えてくるだけでなく、衰退産業と言われる新聞の生き残る方策も見えてくるように思えます。ありがとうございました。


この記事のコメント

  1. 岡崎守恭 より:

    NYTが「併読紙」であり、自動翻訳を使って世界に広がり、日経などにもここに活路があるのではという視点は目からうろこでした。

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