大手メディアが伝えない情報の意味を読み解く
情報屋台
社会
文化

「おもしろきこともなき世におもしろく」ー新産業革命への道

2016.10.18 Tue

河口湖上から富士山を望む

27歳で早世した幕末の風雲児、高杉晋作の辞世の句は、いつ読み上げても痛快です。「おもしろきこともなき世におもしろく」と「おもしろきこともなき世をおもしろく」の二説あって、前者は「自分でおもしろく生きる」後者は「世の中をおもしろくする」の意味になりますが、高杉の言いたかったことはその両方だと思います。

「おもしろくない世」とは、がんじがらめにされて身動きのとれない状態と言えるでしょう。高杉は、幕府に従う尊皇攘夷論で凝り固まった守旧派支配の長州藩にあって、積極的に討幕を打ち出す急進的改革派でした。上海の実情を見聞する機会のあった高杉は、中国が西洋列強に屈して事実上の植民地状態になっていることをつぶさに見てきました。このままでは、日本も同じ運命になり、西洋の「囲われもの」になる、ことを敏感に悟ったのです。そうなれば、「日本の民」は完全に自由を奪われ、今以上の「おもしろきことなき」世界へと堕してしまうでしょう。桂小五郎さえも腰を引いていたときに、奇兵隊を組織し、高杉が討幕へと大きく踏み出したのは、未来を見通した強烈な危機感からでした。

何かと「閉塞感」がささやかれる現代の日本社会に高杉がいたら、どのような「おもしろきこと」を始めるでしょうか。そもそも、高杉の言う「おもしろいこと」とは、どのようなことをさすのかは興味のあるところです。ばかばかしくてつい笑ってしまうことも面白いし、滑稽な仕草や姿・顔立ちにも私たちは「面白さ」を感じます。しかし、高杉晋作が考えていた「おもしろきこと」はそんなことだとはとても思えません。まさか、守旧派や社会を笑わすために裸踊りをしようと思っていたわけではありませんね。高杉がしようと思っていた「おもしろいこと」には、もっと本質的な意味があったと考えるべきでしょう。

白川静の『字訓』には、「おもしろい」の原意が次のように書かれています。

「おもしろ」は晴れ晴れとした気持ちで、明るく愉快となることをいう。「おもしろし」はその形容詞形。「面白し」の意。外面の明るさから、心に楽しく思う意となり、美に対しても、また知的な興感に対しても用いる。

つまり、おもしろいとは、心の底から湧き上がるワクワクとした興奮を伴う感情であり、人生が楽しく未来が開けるような感覚のことを指すと言っていいでしょう。彼の考えるその「おもしろきこと」とは、すなわち討幕にほかなりません。幕府が旗を振っていた尊皇攘夷の道を進めば、日本は早晩「奴隷化」することを高杉は信じて疑いませんでした。そのような状況になれば、日本の民は最高に「つまらない」状態、自由のない鬱屈した状態に落ち込んでしまうでしょう。

高杉は、西洋列強が中心となって日本を動かそうという流れを、日本を中心とする流れへ変えることでした。小さな個人が世界を動かすーこれほどわくわくする「おもしろきこと」はないのではないでしょうか。

原子力なる巨大なエネルギーを手に入れた人間が、自然の持つあきれるほどのエネルギーのもとで、打ちのめされたのが東日本大震災(2011年3月11日)の巨大地震によって誘発された津波の力でした。東日本大震災における津波は斜面を駆け上がる遡上高で最大40.1m(岩手県宮古市)に上ったといいます。 1771年4月24日(明和 8年3月10日)に石垣島を襲った津波は最大 85 .4メートル、世界では 1958 年7月9日アラスカ・リツヤ湾で発生した大津波がなんと高さ 524 メートルに達したそうです。

そのとき思い出したのが、ヴォルテールの小品『ミクロメガス』でした。 『ミクロメガス』は、シリウスの惑星に住む身の丈 38 万 8,800mの巨人族の若者ミクロメガスが、身長 1,949mの土星人を連れて地球に旅する話です。

img_6523
地球の海に浮かぶ帆船をすくおうとする巨人族の若者ミクロメガス(ヴォルテール「ミクロメガス」『カンディード』植田祐次訳、岩波文庫、25頁より)

彼らは、まずバルト海の波間に浮かぶ小さな生物を見つけるのですが、それは、帆船に乗った人間でした。彼らにとって人間は、はダニに等しい大きさに見えるのです。土星人が海に入ると脛の半ばほどが濡れる程度だし、シリウス星人に至っては踵がちょっぴり湿るほどに過ぎないのです(ちなみに、日本海溝の最深部は 8,020m、世界最深はサイパン島のある太平洋マリアナ諸島の東側10,924m)。あの巨大な大津波も、『ミクロメガス』に登場する土星人にはたかだか膝の上に過ぎず、シリウス星人にとってはさざなみでしかないのです!

土木技術の粋を尽くして巨大な防潮堤を造っても、自然は私たちの想定など軽く吹き飛ばしてしまうことをこの大震災は示しました。岩手県宮古市の総延長 2433m、海抜 10m に及ぶ巨大防潮堤(「万里の長城」とも呼ばれていた)は、大津波の前に飲み込まれ、破壊の憂き目を見ました。巨大エネルギーの生産基地・原発は、廃炉を待ちながら醜い骸をさらしています。

「アウシュビッツ」と「ヒロシマ」を科学技術的文明が演じた二つの巨悪の現れであるとして、近代科学の価値中立性を「似非」であると断じるドイツの哲学者ゲオルク・ピヒトは、論文「平和研究とは何か」のなかで、自分のメモのなかに書かれたアインシュタインの言葉を引用しています。

「解き放たれた原子力は、あらゆるものを変えたが、われわれの思惟の仕方だけは変えなかった。こうしてわれわれは、比べもののない破局に向かっている。人類に生き残って欲しいのなら、われわれには、本質的な新しい思惟の仕方が必要だ」

(アインシュタイン。ゲオルク・ピヒト『続・いま、ここでーアウシュビッツとヒロシマ以後の哲学的考察』法政大学出版局。76頁)。

広島・長崎に落とされた原子爆弾から今回の福島原発における大規模な放射能汚染に至るまで、その間にチェルノブイリ(1986 年 4 月)やスリーマイル島(1979 年 3 月)での原子力発電所事故を経験しながら、私たちはこのアインシュタインの警告「比べもののない破局に向かっている」ことに耳を傾けようとしていないように見えます。東日本大震災の最大の教訓は、巨大エネルギーへの依存に邁進してきた現代文明が曲がり角にあることを示し、アインシュタインの警告の意味を考える機会を与えてくれたことではないでしょうか。

ヴォルテールの『ミクロメガス』は、広大な宇宙のなかでは、私たち人間は「けし粒」に等しい存在であることを改めて痛感させてくれるものです。その「けし粒」にはけし粒らしい生き方があり、その生き方がアインシュタインの求める「思惟の大転換」を促すのではないか、とミクロメガスは示唆しているような気がするのです。

けし粒と しての人間に求められているのは、メガ(巨大)を追及するのではなく、ミクロ、すなわちマイクロ(極小)へと舵を取ることー エネルギーのマイクロ化、そのために技術のすべてを尽くしていくこと、それに合わせたさまざまな新しい文化スタイルを創造していくこと、にあるのではないか、と考えるようになりました。それを私は「マイクロ・エネルギーによる新産業革命」と呼んでいます。

小さなエネルギーに注目して電力を供給しようとする動きは、すでにさまざまな形で進行しているように思います。つい最近、ダイキンが水道の水流から10KW以下の超小型発電システムを開発中である、と報じられましたが、ネット上や秋葉原あたりでは、ホースに仕掛けた小型水力発電機なるものが売られていて、最大3.5Wの発電能力があるといいます。

太陽光にいたっては、『1KW独立型太陽光発電―自分で作る蓄電型発電所』(角川浩著、パワー社、2013.6)『1万円で出来る!ベランダでできる!独立太陽光発電所』(中村昌広著、総合科学出版、2015.2)など、その気になれば「大人の週末工作」程度で、自前の発電所まで簡単にできる時代になっています。

マイクロのエネルギーに舵を切る「面白い人たち」が底流となって流れている。これはまさに、「時代の胎動」と言うべきでしょう。それならいっそのこと「人力発電」はどうでしょう。これこそが、人間の身の丈に合ったエネルギーのレベルではないでしょうか。

「おもしろきこともなき世におもしろく」

img_6517
高杉晋作(奈良元辰也/松浦玲編・解説『近代日本の名著2 先駆者の思想』「大割拠論」138頁より)

討幕ならぬ討メガ・エネルギー社会。高杉の言葉に触発されて、人力エネルギーを基盤としたマイクロ・エネルギーによる新産業革命を目指すことにしたのです。自転車をこいでライトを光らせる発電力は最大でわずか6W。私たちは、この小さなエネルギー「人力」を活用し、自分のエネルギーは自分で賄う「エネルギー自己完結型」社会としての「人力発電村」構築を、最終目標としたNPO法人「人力エネルギー研究所」を仲間とともに立ち上げつつあります。

私的には、なんともワクワクする「おもしろきこと」なのですが、けし粒で大山を作るようなことが本当に可能なのでしょうか。そもそもその構想とは、いかなるものなのでしょうか。いかにしてそのような社会を実現しようとしているのでしょうか。次回から少しずつ明らかにしていきたいと思っています。

舞台は、富士山の麓、河口湖を抱える富士河口湖町です。

★地震や津波関係の情報は、下記のサイトを参考にしています。

東日本大震災
https://ja.wikipedia.org/wiki/東日本大震災

石垣島大津波
http://www.bo-sai.co.jp/yaeyamajisintsunami.html

リツヤ湾大津波
https://ja.wikipedia.org/wiki/リツヤ湾大津波

田老町防潮堤
http://matome.naver.jp/odai/2130072889754692501

★ダイキンが開発中の水道水流にとる超小型発電システムについては
http://www.excite.co.jp/News/it_g/20160526/Jic_201008.html

ホースに仕掛ける小型水力発電機については
https://www.amazon.co.jp/小型水力発電機


コメントする

内容をご確認の上、送信してください。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)

社会 | 文化の関連記事

Top