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それでも五輪を開くなら

2021.05.31 Mon

東京や大阪など9都道府県に出されている新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言が6月20日まで延長されました。東京や大阪などでは、感染者の数が減少傾向にあるものの、収束にはほど遠い水準で推移していますから、延長は当然だと受け止めた人も多いと思います。そして、何よりも国民の関心は東京オリンピック・パラリンピックの開催問題だと思います。

 

私は4月30日のコラム「東京五輪は風前の灯」で、①東京大会は「人類がコロナに打ち勝った証し」という目標は実現できないので、政治的にも経済的にも失敗している②それでも五輪への参加を期待する選手は多く、スリムにした「はだかの五輪」を見たい③無観客やホストタウン(事前合宿)中止の決定を早くすべき、といった主張をしました。

 

それから1か月、IOC(国際オリンピック委員会)も、日本側の実施団体である組織委員会も、それを支える日本政府も東京都も、無観客の決定にもホストタウンの中止にも踏み切らず、ただひたすら五輪開催の道を突き進んでいるように見えます。その象徴が大きなスクリーンを公園などにつくって観客を集めるパブリックビューイングの建設でしょう。かれらのやっていることは、パブリックブーイングを巻き起こすことで、オリ・パラへの参加を予定しているアスリートたちを窮地に追いやっているとしか思えません。

 

中途半端な退却

 

戦争で退却戦は難しいといわれます。戦争の局面が不利になった場合、いったん退いて態勢を立て直すのは、至難の業だと思います。しかし、こうした場面で、やってはいけないのは、「兵力の逐次投入」と同じように「兵力の逐次撤退」だと思います。少しずつ撤退することを繰り返していれば、やがて反撃の機会は失われるということです。

 

パブリックビューイングの無謀ぶりをメディアがいっせいに取り上げ批判されると、東京都は、設置個所の数を減らしたり、入場制限を設けたりといった措置をするようです。しかし、それで公園内での感染リスクがなくなるわけではありませんし、公園で盛り上がった人たちは、公園内での飲食がだめなら、場所を移して盛り上がることになるでしょう。そんな予想はだれでもできるわけで、東京都の対応に国民が納得するはずはなく、ますます五輪開催への失望感が強まるだけだと思います。中途半端な退却戦の典型でしょう。

 

尾崎東京都医師会会長の提言

 

コロナ問題で政府に厳しい注文をうけてきた東京都医師会の尾崎治夫会長が5月27日、日本記者クラブで会見し、私もオンラインで参加しました。

 

尾崎さんは、「現状のままの感染者数や対策での開催は難しい」とする一方で、今回の緊急事態宣言の延長が五輪開催の「最後のチャンス」だとして、人の流れを抑えるなどの措置を取ることで、今後5週間で東京都内の新規感染者数が100人程度(国の基準の「ステージ2」の上限を東京都にあてはめた場合の数字)になれば、「開催は夢ではない」と述べました。

 

さらに、コロナ禍という有事の五輪は、アスリートファーストに徹するべきだとして、「無観客での開催は最低限の話」だとして、開催するなら無観客という条件を示しました。また、パブリックビューイングについても、「人が集まるきっかけになるようなことはやめていただく」と中止を求め、「五輪の期間中、ずっとテレビ観戦になれば、ステイホームで感染症を抑える手立てにもなる」として、五輪を感染症対策として活用することも提案しました。

 

私も尾崎さんの提言に賛同しますが、いまのIOCや政府、組織委の姿勢を見ていると、「どうやったら国民が納得するような五輪を開催できるか」という発想が欠落したまま、突き進みそうな気がします。そうなると、仮になんとか開催できる状況になっても、国民の熱い支持がないままの熱気なき大会になるのではないでしょうか。

 

◆噴き出したIOC批判

 

ワシントンポスト紙に掲載された東京五輪の中止を促すコラムは、IOCのバッハ会長は「ぼったくり男爵」と揶揄していましたが、IOCが五輪開催を強行しようとすればするほどオリンピックの商業主義やIOCの金権体質が浮かび上がってきます。

 

五輪の歴史を振り返るなら、1984年大会の開催都市に手を挙げたのはロサンゼルスだけでした。大きな赤字が出る大会の開催に、どの都市も二の足を踏んだのです。この五輪の危機を救ったのがロス大会の組織委員長だったピーター・ユベロス氏で、オリンピック放映権料の大幅な引き上げやオフィシャルスポンサー制度の導入によるスポンサー収入の増加などで、公的な補助金なしでロス五輪を黒字にしました。

 

「五輪は儲かる」という実例をロス大会が示したことで、その後は立候補地がふえ、五輪開催は安定軌道に乗りました。しかし、その結果、五輪はテレビファースト、スポンサーファーストになってしまいました。今回の大会でも、IOCの姿勢を見ていると、大会を開きさえすればテレビ放映でお金が入る、受け入れ側の迷惑も考えずスポンサーの関係者には何としても日本で観戦させる、という本音が見え隠れしています。

 

商業主義に堕した五輪の改革は以前から大きな課題であり、今回の東京五輪で、その必要性がさらに高まったと思います。IOCがもっと早くスリムな大会にする方策を打ち出していれば、これほど五輪中止論が噴出することはなかったのではないかと思います。

 

◆それでも開くと言うのなら

 

オーストラリアのソフトボールチームが事前合宿で6月1日に来日、群馬県太田市に滞在するそうです。だんだん来日するチームがふえれば、受け入れるかどうか悩んでいた自治体も「歓迎」の看板を出すことになるでしょう。もはや全面中止が難しいのなら、「医療水準がステージ2以下にならなければ受け入れは不可」といった基準を設けて、ホストタウンの負担を軽くすべきでしょう。

 

五輪の開催都市である東京は、非常事態宣言の効果もあり、宣言の延長期限である6月20日には、感染者数はある程度の水準まで感染者数などの数値が改善すると思われます。そうなると、五輪中止の判断は難しくなり、五輪が開催される7月末から8月にかけてのリバウンドを覚悟しながら、なし崩し開催ということになりそうです。

 

もはや国民の多くが納得して五輪を迎えるということはないと思いますが、それでも開くと言うのなら、下記のような方策を政府が主導して実施してほしいと思います。

 

競技の会場は無観客にする。全国からの人流が五輪で広がるのは避けるべきです。無観客にすれば、会場の警備や運営、医療スタッフの人数を大幅に減らすことができますし、医療スタッフが減ることは、五輪による都内の医療態勢への負荷を減らすことにもつながります。

パブリックビューイングの中止。言わずもがなです。

「オリンピック関係者」の訪日禁止。IOCの関係者、過去のメダリスト、スポンサー関係者などIOCがオリンピック関係者として観戦を認めてきた人たちの入国を原則禁止とする。

海外メディアの競技場以外の移動禁止。「競技場でしか取材できないなら東京には行かない」というメディアも多いはずです。

関係者のワクチン接種。受け入れ側スタッフや警察官、日本のメディアなど五輪にかかわる人たちへのワクチンの接種。自治体を通じてのワクチンはファイザー製、それ以外のルートはモデルナ製という振り分けができつつあり、供給量もふえているようですから、五輪関係者にはファイザー製以外のワクチンを接種するルートを確保すべきだと思います。日本が認可したアストラゼネカ製を組織委が買い上げて活用する方法もあると思います。

 

ほかにもありそうですが、IOCも日本政府や東京都も、いろいろなしがらみや思惑は捨てて、アスリートファースト、ネクストはないと決断すれば、国民の理解も少しは高まるのではないでしょうか。

(冒頭の写真は、5月28日、緊急事態宣言の延長について会見する菅首相を映した官邸HPの動画から)


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