選挙の争点、視点は何か
野党の混乱や準備不足に付け込もうとした安倍さんの“どさくさ解散”は、小池さんの「希望の党」の立ち上げや民進党の「合流」、さらには枝野さんの「立憲民主党」の立ち上げで、安倍さんの保身どころか自公政権の存立基盤を揺るがしかねない様相になってきました。
有権者にとっては、政治に影響力を及ぼすという意味での政党の選択肢が広がる選挙になったと思います。そこで、あらためて、政策面で、今回の選挙を考える視点を私なりに示してみたいと思います。安全保障、エネルギー、財政、憲法改正の4課題です。
まず、安全保障です。小池さんは、希望の党の候補者となる条件として、現行の安保法制を憲法に則って適切に運用する、という政策への同意を求めました。安保法制に反対していた民進党からの合流組に配慮してあいまいな表現になりましたが、集団的自衛権を認めた安保法制の容認を意味しているのでしょう。だから、安保法制の是非を有権者の選択肢にすることも意味があると思います。
しかし、私が安全保障で各候補者に問いたいのは、いま、ここにある危機をどうとらえ、どう行動するのか、ということです。米国が北朝鮮を攻撃する可能性は、北朝鮮によるミサイル発射と核実験で、以前よりもずっと高まっていると思います。北朝鮮から米本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)や、それに搭載できる核爆弾の開発は最終段階に入っていると見られますから、米国にとっては、この半年から1年が北朝鮮に対する空爆でミサイルと核の開発を強制的に終わらせる最後のチャンスだと見ていると思います。
したがって、これから米朝間の緊張はさらに高まり、そのぎりぎり感のなかで、うまくいけば、米朝間、あるいは、それに中国ロシア、韓国、日本を含めた6者協議の枠組みが和平に向けて動き出すでしょう。しかし、ここまでくると、そうでない場合も、十分に考えなければならないと段階に来ていると思います。それは偶発的な戦闘が拡大しての戦争もありますが、やはり米朝のチキンレースのはての戦争です。
米朝鮮が起きた場合、北朝鮮からの攻撃を覚悟しなければならないのは韓国と日本です。これまでの日本は、日米安保条約によって、ソ連・ロシアや中国が日本に攻めてくるのを米国が守ってきたと考えるのが「常識」になっていたと思います。しかし、今回の米朝戦争は、米国が日本を戦争から守るのではなく、米国の戦争に日本が巻き込まれることになります。これまでも、米ソや米中間で戦争が起きれば、日本の米軍基地は、当然のごとく標的になりますから、巻き込まれる可能性はありました。とはいえ、そのときには、米本土もソ連や中国のミサイルの標的になりますから、核抑止力が機能している状態で、戦争は回避されてきました。しかし今回は、米本土を安全にするための戦争ですから、大きな被害が及ぶのは主に韓国と日本であり、それが米国にとっての十分な戦争抑止力にはなっていないように思えます。
そう考えると、いま有権者が聞いておきたい安保論議は、安保法制の運用方法などではなく、米朝間の緊張を和らげるために何をするのか、ということです。具体的には、日本と韓国とが連携して、米国に対して戦争回避を訴えると一方で、北朝鮮を核・ミサイルの放棄に向けて交渉のテーブルに着かせる外交的な努力を中国やロシア、さらには北朝鮮に対してできるかということです。もちろん、安倍さんの国連演説のように「対話の時代は終わり、圧力しかない」というのも選択肢ですが、日本国民の生命を優先するという「日本ファースト」から考えれば、「圧力ではなく「対話」路線の実行を鮮明に打ち出す政党や候補者がいたほうが有権者の選択肢が広がるはずです。
第2は原発です。自民とは原発を「ベースロード電源」と位置づけ、現在の基準での再稼働と運転期間の延長で、原発依存の期間をできるだけ長くしようという政策です。希望の党は、現在基準での再稼働は同じですが、最終目標を「原発ゼロ」にしています。電力労連への配慮から原発ゼロを強く打ち出せなかった民進党よりも、厳しいスタンスをとったということでしょうが、希望の党が同党の候補者に求めた政策協定書のなかには、「原発ゼロ」が抜け落ちていて、これも電力労連とその親組織である連合への気兼ねからではないかとみられています。立憲民主党は、どこまで言うのでしょうか。
第3は憲法改正です。自民党は憲法改正の具体策として自衛隊の明記などを選挙公約にしています。希望の党は、憲法改正には賛成ですが、具体的に9条をどうするかについては、明確にしていません。立憲民主党は、少なくとも9条については、堅持でしょう。9条をどうしたいのか、各党・候補者に聞きたいところです。あわせて、希望の党に聞きたいのは、自民党政権が存続し、自衛隊明記の憲法改正を発議した場合、どういう対応をするのか、ということです。ここで、希望の党が自民党と折り合えるなら、自民党は、公明党とたもとを分かっても、希望の党と連立するかもしれません。
第4は財政問題です。自民党は消費増税を実施する一方、その使い道で、子育て支援をふやすとしていますが、希望の党は消費税の引き上げは凍結、立憲民主党も消極的と伝えられています。どこの政党も子育て支援に力を入れると約束するでしょうから、問題は、子育て支援などの財源はどうするのか、また、財政赤字をどう減らすのか、という具体策を示してほしいと思います。
さて、よっつの視点のなかで、第1の安保問題に紙幅を割いてしまいましたが、今回の選挙は、日本が米朝戦争を止めるという意思を示すかどうかの選択だと、私は思っているというか、思い詰めているのです。選挙戦のさなか、おそらく北朝鮮の核実験やミサイル発射などの挑発的示威行動があると思います。それに対して、国民の生命を考えたときに「圧力」という対応だけでいいのか、ということです。私は、ほかの問題はさておいても、トランプ大統領に、「北朝鮮への攻撃はやめてくれ」と言う首相を出す党はどこか、それをいちばんの基準にしたいと思っているのです。
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「米国と北朝鮮双方に自重を求める」
(首相官邸、内閣官房、外務、防衛省へ)
「選挙戦のさなか、おそらく北朝鮮の核実験やミサイル発射などの挑発的示威行動があると思います。それに対して、国民の生命を考えたときに「圧力」という対応だけでいいのか、ということです。私は、ほかの問題はさておいても、トランプ大統領に、「北朝鮮への攻撃はやめてくれ」と言う首相を出す党はどこか、それをいちばんの基準にしたいと思っているのです。」
上記は2017.10.4日の高成田氏(元朝日新聞社)のブログ(情報屋台)の一部である。
私は、氏の意見に賛同すると共に、さらに、米国と北朝鮮の双方に、先制攻撃だけは止めて欲しいと伝えるべきだと思います。双方が我慢して、攻撃を始めなければ、やがて、対立は軽減すると信じます。米国にだけ、先制攻撃をするなと要望するのは、日本にとって無理かもしれないが、双方に自重を促すのは可能でないだろうか。核保有国(北朝鮮を含む)にとって、自らの先制攻撃を否定することは、核保有の効果を減少させるので困難らしいので、日本からは要望でなく希望程度がよいかもしれない。メディアを通して発信するだけでもよいでしょう。