加計学園問題のミニ版、山形県の教育錬金術
次の世代に何を語りかけ、どう育むのか。教育は「人づくり」であり、「未来づくり」です。教育がおかしくなれば、社会そのものがおかしくなってしまいます。だからこそ、教育という仕事には使命感と誠実さが求められるのです。
その根本をないがしろにして、金儲けに走れば、どういうことになるか。私たちは、加計学園による獣医学部新設問題を通して、その寒々とした光景を日々、見せつけられています。獣医師をどのようにして育てていくのか、という長期的な視点などおかまいなしに、四国の今治市に無理やり獣医学部の新設を試みる。文部科学省や獣医師会が学部の新設に難色を示せば、首相の権勢を笠に着て押し切ろうとする。
人口減に悩む地方都市にとって、若者が集まる大学や学部の新設は無理をしてでも実現したい。だからこそ、今治市は36億円相当の土地16ヘクタールを無償で提供し、愛媛県と今治市は総事業費の半分、96億円の負担に応じたのです。締めて132億円。これがタダで学校法人のものになるのですから、純粋にビジネスとして考えれば、今時、こんなにボロイ商売はありません。教育を「金儲けの手段の一つ」と考える人たちの所業です。
教育を利用する錬金術の全国版の主役が安倍晋三首相と加計孝太郎理事長とするなら、山形県の教育錬金術の主役は、吉村美栄子知事の義理の従兄弟である吉村和文(かずふみ)氏です。彼は、東海大学山形高校を運営する学校法人「東海山形学園」の理事長をつとめる傍ら、株式会社「ケーブルテレビ山形」(本社・山形市)の社長の座にあり、IT企業や興行会社などのファミリー企業を率いています。
ケーブルテレビ山形は、全国にケーブルテレビ網を広げることを目指した総務省の施設整備促進事業の補助金受け皿会社として、1992年に設立されました。ケーブル網の敷設費の半分を国と県、市町村が補助し、ケーブルテレビを広げようとする事業です。総務省が「アメリカで流行っているから日本でも広がるはず」と目論んで始めた事業ですが、四半世紀たっても、日本ではそれほど広がりませんでした。
ケーブルテレビ山形も契約件数が伸びず、本業は先細り気味です。事業の多角化を図り、山形県からのパソコン受注や宣伝PR委託事業の受託に力を注いでいます。社名も、昨年1月に「ダイバーシティメディア」に変更しました。
ファミリー企業の経営は、いずれもバラ色とは言い難い。ファミリー内で資金を融通したり、債務保証をしたりしています。それでも、資金繰りに窮したのでしょう。吉村和文氏は昨年の3月、理事長を務める学校法人「東海山形学園」の資金3000万円を自らが社長である「ダイバーシティメディア」に貸し付けました。この事実が昨年秋に山形の地域月刊誌『素晴らしい山形』11月号で報じられました。
私は、地域おこしの小さなNPOを主宰する傍ら、公金の使途を監視する市民オンブズマン山形県会議にも加わっています。学校法人が民間企業に金を貸すなどということが許されるのか。なんらかの法令に触れるのではないか。私立高校である東海大学山形高校には毎年、山形県から運営費の半分、3億円余りが私学助成費として支給されています。その1割近い資金が「短期貸し付け」とはいえ、民間企業への融資に回されたのですから。
私学助成を所管する山形県学事文書課の見解を問うため、今年の4月、県情報公開条例に基づいて東海学園山形関係の公文書の開示を求めました。私学助成の実績などの公文書は比較的すんなり開示されましたが、東海山形学園の会計文書に関しては白くマスキングされたり、黒塗りされたりして、かなりの部分が不開示になりました。その理由は「学校法人の競争上の地位、財産権その他正当な利益を害するおそれがある」というものでした。
あきれました。学校法人の収支計算書や貸借対照表は、民間企業の損益計算書や貸借対照表に相当する基本的な会計文書です。民間企業は株主総会でそうした会計文書を株主に配布しています。そうしたからといって、自社の利益を損なうおそれなどないからです。学校法人にとっても、利益を害するおそれなど、あるはずがありません。
あまりにも理不尽なので、私は「法的措置を取ります」と宣言し、一昨日(7月3日)、不開示の決定をした吉村美栄子・山形県知事を相手取り、山形地裁に不開示処分の取り消しを求める訴訟を起こしました。新聞やテレビがこの処分取消訴訟について報じましたが、山形県学事文書課のコメントが興味深い。河北新報の取材に「毎年、学校法人の監査報告書を確認している。現時点で学園側に問題は見当たらない」と答えているのです。
毎年度、3億円余りの私学助成を受け取っている学校法人が、年度末に3000万円もの資金を民間企業に貸し出している。なぜ、そんなに余裕があるのか調べたのか。一方で、借りた側のダイバーシティメディアの吉村和文氏は山形新聞に「複数金融機関の融資承認がそろうまでの間の短期貸付」として、設備投資を目的に借りた、と語っています。
融資が本業の金融機関の承認が間に合わないような経営状態の会社に、学校法人が3000万円も貸すとは、驚きです。吉村氏は「学校法人の評議員会や理事会の承認も得ている」と主張していますが、学校法人側はきちんと担保を取ったのでしょうか。3000万円の貸付金は2カ月後に金利を含めて返済されたとのことですが、返せば済む話ではありません。「学校法人を率いるのも自分。会社の社長も自分」という意識が為せるわざでしょう。
情報公開請求に対応する山形県の職員からは「グループを率いるのは知事の従兄弟。余計な詮索から守ってあげなければ」という意識が透けて見えます。でなければ、学校法人の基本的な会計文書を開示することが「法人の利益を害するおそれがある」などという理由を思い付くはずがありません。彼らの脳裏には「私学助成の原資は国民の税金。その使途について、納税者には知る権利がある」という考えは、まったく浮かんで来なかったのでしょう。
この国の主権者は国民であり、政府や自治体が持つ公文書も本来、国民のもの。原則として公開されるべきものであり、非公開になるのは明確な理由がある場合に限られる。それが情報公開制度の大原則です。そうした大原則すら忘れ果て、権力者につながる者の顔色をうかがって動く。加計学園問題と同じ構図がここにもあるのです。黙って見ているわけにはいきません。
≪参考記事&サイト≫
◎ダイバーシティメディア(旧ケーブルテレビ山形)の公式サイト
◎ウィキペディア「吉村和文」
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%90%89%E6%9D%91%E5%92%8C%E6%96%87
◎地域ケーブルテレビネットワーク整備事業(総務省の公式サイト)
http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/housou_suishin/cable_kyoujin.html
◎地域月刊誌『素晴らしい山形』2016年11月号~2017年7月号
◎2017年7月4日の河北新報の非開示処分取消訴訟に関する記事
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201707/20170704_53020.html
◎同7月4日の山形新聞の非開示処分取消訴訟に関する記事
≪写真説明とSource≫
◎吉村美栄子・山形県知事(PRESIDENT Online のサイトから)
http://president.jp/articles/-/18589
この記事のコメント
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朝日の記者さんが、中途退職から民間校長。大学の講師かなんかを経て、オンブズマン様。立派なご意見をおっしゃるわりに、あなたこそ随分世渡り上手なチャッカリ人生だよね。今じゃ朝日新聞の記者でしたなんて、むしろ再就職も容易じゃないでしょう。ずいぶん高所からの物言いだけど、すっかり寂れた田舎に寄生しておきながら、曲がりなりにも一生懸命に地域おこしを実践している人に対して、正直不見識だと思いますわ。
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山形にしても愛媛にしても、身近な課題に対処したいと思えば、その解決に色々手段を探り方策を練るのは当然と思います。
問題は、そのやり方であって解決への進め方が、公の観点からとても公明正大とは見えなかったということでしょう。
現実の世の中は広いですからね、人に寄っては「まあ、いいじゃないか!」と鷹揚に見逃す人もいれば、「公の金を使って私腹を肥やすやり方はとても我慢できない!」と猛り狂う人もいるでしょう。
ただ、夫々が自分の住んでる地域をどういう風に育てるかを考えると、正直結論が出しにくいですね。
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