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トランプ政権で「自立」迫られる日本

2016.11.10 Thu
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米大統領選挙は、よもやというドナルド・トランプ氏の勝利でした。「元朝日新聞アメリカ総局長」という肩書で、ヒラリー・クリントン氏の勝利は揺るがないと、私は講演などで話をしてきましたから、坊主頭にならなければいけない心境ですが、もう十分に髪の毛は薄くなっているので、許していただきます。

16年前のブッシュ対ゴアの選挙戦のときは、米国で取材をしていたのですが、坊主頭どころか辞表を覚悟しました。票の集計が遅れたフロリダ州で、ブッシュ票がゴア票を上回ったことが判明した時点で、「ブッシュ氏当選」の号外にゴーサインを出したからです。その後、票の再集計が決まり、ブッシュ氏の当選もお流れ、幸いなことに号外は販売店まででとどまったと聞き、辞表は書きませんでした。

総得票数ではブッシュ氏を上回ったゴア氏が負けたのは、大統領を選ぶ選挙人の多いフロリダ州で負けたためで、それも、一部地区での投票用紙がわかりづらく、本来のゴア票がほかの候補に流れのが原因だといわれました。ゴア氏にとっては、悪夢のような選挙で、ゴア氏は「投票用紙のせいで大統領になりそこねた男」だと言われました。

今回の選挙でも、投票日の直前に、「FBIがメール事件でクリントン氏を再捜査」というニュースが流れ、フロリダなど接戦州では、それまでの世論調査で優位だったクリントン氏が劣勢に立ちました。FBIの長官は共和党支持者だそうで、ヒラリーさんはFBI長官の「いたずら」で大統領になりそこねたのかもしれません。

とはいえ、もう少し大きな視点で、今回の選挙を振り返れば、米国の有権者は、「オバマのアメリカ」の継続ではなく、政権交代による大きな「変化」を求めたということなのでしょう。国内では、格差社会の固定化が進み、若者が未来に希望を持てない社会になっていると言われていました。国外では、冷戦に勝利したはずの米国は、ロシアのウクライナイ併合を阻止することができず、中東では、シリアのアサド政権を打倒することができず、IS(イスラム国)をのさばらすことになりました。

世界にかかわることよりも、国内の立て直しのほうが重要だというのが米国民の本音で、国務長官で世界を動かしてきたと主張するクリントン氏よりも、倒産も作戦のうちといわんばかりの経営手腕を発揮してきたトランプ氏に期待しようということになったのでしょう。

それでは、トランプ氏は具体的にどんな政策を打ち出すのか、選挙期間中も、具体的な政策を示していないようですから、いまの時点ではをまったくの未知数だといえます。格差問題は、ひとつの産業革命といえる情報技術(IT)革命のなかで、工場や会社で働くふつうの労働者や社員が稼ぎ出す付加価値部分が少なくなり、こうした人々が形成してきた中間層が少数の富裕層と多数の貧困層に分離しはじめているのが原因で、トランプ政権になっても、この構図を変えることはできないでしょう。

外交政策も国内政策と同じように未知数ですが、TPP交渉の中止、日本や韓国に対する安全保障の費用の負担増などは実行されるでしょうから、日本にとっては、やっかいな政権ということになるでしょう。トランプ氏の本音は、米国に守ってもらいたいなら、もっとお金を出せ、というよりも、米国は日本や韓国を守るのには疲れたから、自分たちで勝手にやってくれ、という感じがします。

本当にそうであれば、日米安保の強化ではなく縮小であり、日本は自らの手で防衛を考えなければなりませんし、同じことは貿易政策でもいえるのだと思います。つまり、米国に追随して、APECでも、TPPでも、貿易自由化を進めようとしてきたのが、日本が本当にやりたいのなら自分で主導しなければならない、ということです。

TPPの狙いは、中国の影響力が強まるアジア太平洋地域で、米国主導の自由経済圏をつくり、中国に対抗することでした。しかし、トランプ政権の誕生で、その路線がだめだとなると、日本は、あらためて「アセアン+3(日、中、韓)」の枠組みによる「アジア共同体」の再考する必要が出てくるでしょう。安全保障でも、いまのままの日中の軍事的な緊張を前提にしたまま、日本独自の国防力を高めようとすれば、防衛費を大幅に拡大するしかなく、間違いなく国家財政は破綻します。フィリピンのように、米国離れをおみやげに、中国の歓心を買う、というわけにもいかないでしょうから、より友好的な「戦略的互恵関係」を築く方策が求められることになるでしょう。

こうした変化が急速に進んだ場合には、トランプという特異な大統領が登場したせいだと言うことはできますが、米国の経済力、外交力がゆっくりと小さくなっているトレンドをみれば、遅かれ早かれ、日本の「自立」は必然の流れだと言うこともできます。まさに「戦後レジーム」からの脱却であり、安倍首相が描く「美しく強い日本」ではない「隣国とも仲良くできる、しなやかな日本」を考えなければなりません。

 


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