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ガス田開発、隠し玉ですか

2015.07.23 Thu
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東シナ海において中国が一方的にガス田開発を進めていることは極めて遺憾だと、日本政府が発表しました。9月の日中首脳会談に向けて水面下の交渉が進められているさなかに、こうした領土・領域問題を持ち出すことは、外交交渉の常識からは極めてリスキーな行動です。安保法制をめぐって支持率が急降下している安倍内閣だけに、「中国の脅威」を持ち出す必要があったのでしょうが、私には、大局観からの行動とは、とても思えません。

東シナ海の経済水域をめぐっては、日本側は日中双方の200カイリ経済的排他水域の中間線を主張、中国側はそれよりもずっと日本側に入り込んだ中国大陸の大陸棚を主張しています。

日本側の主張は、200カイリの経済水域が盛り込まれた国際海洋法に基づいたものですが、中国側の主張は海洋法以前の大陸棚に基づいたものです。だから日本側が正しいと言えればいいのですが、大陸棚の考え方も国際法上、消えているわけではないので、中間線を白、大陸棚を黒とすれば、日中の主張が重なり合う領域は、白に近いグレーゾーン領域ということになると、海洋法に詳しい政府関係者から説明を受けたことがあります。

経済水域について日中双方の合意ができていませんから、日本が主張する中間線は、とりあえずの線引きで、中間線を認めていない中国側も、この線を意識したうえで、開発をしています。それでも、日本政府が中国の開発行為を「極めて遺憾」としたのは、このあたりは2008年の日中合意で、共同開発することになっていたはず、ということです。

しかし、この合意に基づいた共同開発実施についての協議は、尖閣問題の浮上で、中断したままになっています。合意の内容も、中間線よりも中国側に入った一部の海域について、共同開発できるものはやりましょう、という程度で、中国側が自国による開発を棚上げすると認めているわけではありません。第三者が聞いても、日本側の言い分に分があるというのは、「日中合意の精神からは、通告ぐらいはあるべきで、それもないのは紳士的ではない」という程度ではないでしょうか。私から見ると、「極めて遺憾」は強すぎるように思えるので、外交的にはリスキーな行動だと言ったのです。

このままいくと、日本側の次の一手は、相手が勝手なことをするのなら、こっちもやらせてもらう、ということです。つまり、中間線の日本側で日本がガス田の開発を進めるということです。これも外交的にはリスキーですが、もっと大きな問題があります。それは経済的採算の問題です。

中国側は、すでにパイプラインなどで、中国大陸に搬送するインフラが進められていますが、日本側が進めるとなると、採掘現場で液化するか、パイプラインを沖縄まで敷きそこで液化して日本本土に運ぶか、さらには本土までパイプラインを延長するかの選択をします。どちらにしても、設備投資に資金がかかり、埋蔵量にもよりますが、日本側にもうかる確信はないと思います。経済的に見合う開発を考えるなら、日本側で開発したガスを中国側のパイプラインで中国に搬送するのがいちばんです。

つまり、経済で考えるのなら、日中共同開発あるいは日中連携しかない、と私は思います。この基本を忘れて、領域支配の政治ゲームにしてしまえば、双方にとって無益な争いになるおそれがあると思います。

日々のニュースを追うマスメディアは、この問題を政治ゲームの文脈で語り、結果的には双方の国民感情をあおることになりかねません。そんなことは百も承知で、安倍内閣は、この問題をあえてとりあげたのでしょう。安保法制の理解を高め、支持率も上昇させる、そんな「隠し玉」を出してきた、と私には映るのです。

「隠し玉」といえば、もうひとつ拉致問題というボールもありますね。モンゴルを舞台に水面下で行われていると見られる日朝間の交渉の「急展開」が次に出てくる球でしょうか。


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