浮つく安倍政権のアキレス腱は何か
争点なき参院選で与党が勝ち、安倍政権は安泰のようで、自民党内では2年後に期限が来る自民党総裁の任期延長論が早くも浮上しています。自民党の党則では、総裁の任期は連続2期6年までなので、このままなら安倍内閣は2年後には終わるのですが、国政選挙で連戦連勝の安倍首相に対する党内の期待から、「3期9年」に党則を変更する案が出ているのだそうです。
言い出しっぺは、今回の内閣改造に合わせた自民党の役員人事で幹事長に抜擢された二階俊博氏で、政策的には安倍首相の対抗軸と見られている人のひとりだけに、安倍長期政権への布石がひとつ打たれたということでしょう。二階氏は、公共事業を中心とする積極的な財政政策を掲げ、安倍政権が誕生する前後には、200兆円の国土強靭化計画を提唱していました。
アベノミクスは、大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略の3本の矢だと首相は説明してきましたが、なんといっても主軸は金融緩和でした。長期的なデフレの原因を、欧米と比べた通貨供給の少なさだとみて、日本銀行は市場から国債などを積極的に買って、通貨の供給量をふやす政策を続けてきました。その成果と言うべきか、為替相場は円高から円安に振れ、株価も大きく上昇しました。しかし、このところは大胆な金融緩和も息切れの状態が続き、為替は円高に、株価も大きく値を崩しています。ゼロ金利政策をさらに推し進めたマイナス金利政策も実行しましたが、その効果よりも副作用を心配する声が経済界からは出るようになりました。
それなら、2本目の矢である財政出動も「機動的」から「大胆」にしようというのか、この秋の補正予算で安倍政権は、28兆円の大型補正予算案を提出すると報じられています。財政政策論者の二階氏にとっては、我が意を得たり、ということかもしれませんが、かつての自民党であれば、金融政策を掲げた首相の政策が失敗すれば、別の財政政策を掲げる首相に交代というのが常です。二階氏にすれば、与党の幹事長として実を取れるのであれば、内閣の顔は支持率の衰えない安倍首相でよい、ということなのでしょうか。二階氏は、党内では親中国派といわれ、中国との緊張関係をつくってきた安倍首相とは、外交政策でも対立軸だったはずですが、ここでも波風は立てないということなのでしょう。あるいは、安倍政権でぎくしゃくした対中関係を幹事長として修復しようということかもしれません。
政治見取り図をあらためて広げてみると、自民党内で安倍首相と経済政策でも外交政策でも対立している二階氏が幹事長という要職に就くことで、対立路線から禅譲路線に転換し、若手のホープと見られていた石原伸晃経済再生担当相は、都知事選での親子そろっての失態で、「ダメ男」の烙印を押されてしまいました。敵の敵は味方という政治の常識からいえば、都知事選は安倍―小池の見事のタッグマッチだったようにも見えてきます。安倍首相にとって、党内で残るライバルは石破茂氏だけで、今回の組閣で閣外に去ったのは、そろそろ対立軸としての存在を示そうということでしょう。しかし、いま日本でもっとも重要な政策ともいえる「ふるさと創生」で、その担当相であったのに、「石破さんが首相になれば日本は変わる」というイメージをほとんど出せなかったのは、なぜなのでしょうか。政治家としての能力は高く評価されていますが、首相としての期待感は、以前よりも薄れていると思います。
ここまで考えてくると、安倍政権は盤石で、自民党総裁の任期延長にも成功し、2020年の東京オリンピックも安倍政権のもとで開催というのも現実性を帯びているように思えてきます。とはいえ「一寸先は闇」は政治の世界の常識です。2年後の総裁任期延長論が浮上していることも、政権与党に緊張感がなく、浮ついている証しともいえます。
不安要因をあげればきりがありませんが、経済政策でいえば、「大胆な金融政策」の限界が明らかになり、伝統的な財政出動に頼ろうとしているのでしょうが、これがいろいろな問題を引き起こす種になると思います。財政赤字が深刻化するのは当然ですが、それだけでなく、公共事業を膨らませれば、これまた伝統的な「ゼネコン汚職」などのスキャンダルが出てくるのは必定で、国民の怒りは、「せこい知事」に対する以上に燃え広がることになるでしょう。
なぜ、あれだけの「大胆な金融緩和」でも、デフレ脱却には至らなかったのか、「地方消滅」や少子高齢化などの構造的な問題を考えなければ、日本の再生は難しいでしょう。こうした構造問題にくさびを打つ政策を大胆に実行しなければ、いくら公共事業でお金をばらまいても財政の借金が膨らむだけです。そのビジョンを出すのは、与党内の対立軸なのか、野党の中心となる民進党なのか、じっとしているだけでもへたるような季節はまだ続きそうです。
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