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トランプ氏の再選はあるのか?―中間選挙後の米国政治

2022.11.25 Fri

中間選挙を終えた米国の政治は、2年後の大統領選挙に向けて、どんな変化が予想されるのか考えてみました。

 

◆トランプ離れ

 

トランプ前大統領が早々と2022年の大統領選挙への出馬を表明しました。しかし、中間選挙の接戦州で、トランプ氏が推薦した上院や知事選の候補が相次いで落選したことなどから、共和党内でのトランプ離れが広がっています。トランプの支持がないと勝てないというトランプ神話は終わった、と言えると思います。

 

保守派メディアのウォール・ストリート・ジャーナル紙は11月9日社説に「共和党の最大の敗者はトランプ」という見出しを付けました。三行半(みくだりはん)を突きつけたともいえます。

 

面白かったのは、ニューヨーク・ポスト紙が11月10日の1面に掲載した「Trumpty Dumpty」と書かれたイラストです。マザーグースのわらべ歌「ハンプティ・ダンプティ」に引っかけて、塀の上にいるトランプ氏が落ちそうになっている絵とともに、「共和党(GOP)は党を元に戻せるでしょうか」と問うています(注)。同紙はFox Newsなどを所有するルパート・マードック氏のニューズ・コープ社に属する日刊紙であるため、この紙面はマードックもトランプを見限った証しだとして話題になりました。(冒頭の写真参照)

 

とはいえ、これでトランプ氏が過去の人になったわけではありません。米国の直近の世論調査で、2024年の大統領選挙がバイデン対トランプになった場合、どちらを選ぶかという設問(カッコ内は調査機関名)の結果は、

 

バイデン53% トランプ47% (プレミス)

バイデン45% トランプ41% (エマーソン・カレッジ)

バイデン42% トランプ45% (エシャロン)

バイデン43% トランプ42% (レッドフィールド&ウイルトン)

バイデン42% トランプ44% (ハリス)

 

といった具合です。バイデン氏が有利という調査が多いですが、トランプ氏が有利という調査もあり、トランプでなければ勝てないという神話は崩れたにしても、トランプ氏では勝てないと言うのは早すぎるように思えます。米国はなかなか死なない「ダイ・ハード」(die hard)が好まれる国ですから、「I’ll be back」で、ホワイトハウスにカムバックする可能性も十分にあると思います。

 

◆共和党はトランプ対デサンティス?

 

米国の大統領選で勝つには、民主・共和両党の党大会でそれぞれの大統領選候補に選ばれる必要があります。共和党でみると、接戦州のフロリダ州知事選で、トランプ氏と距離を置くロン・デサンティス氏(下の写真)が民主党の候補に大差をつけて再選を果たしたことから、デサンティス氏は、共和党内でトランプ氏と対抗できる大統領選候補として一気に浮上することになりました。

前述の世論調査をみると、

 

バイデン48% デサンティス52% (プレミス)

バイデン43% デサンティス39% (エマーソン・カレッジ)

バイデン42% デサンティス45% (エシャロン)

バイデン43% デサンティス39% (レッドフィールド&ウイルトン)

バイデン43% デサンティス43% (ハリス)

 

といったところで、デサンティス氏がすでにトランプ氏と対抗できる候補になっていることがわかります。

 

しかし、2024年の夏に予定される共和党大会で、デサンティス氏が指名を獲得するには、州ごとの予備選に向けた選挙運動が必要で、それには、膨大な資金とボランティアが必要です。全国的な知名度と集金パワーを考えると、共和党の指名争いでは、いまのところトランプ氏が有利だとみられています。

 

◆トランプ氏脱落ならバイデンも降板?

 

デサンティス氏の魅力は現在43歳という若さです。バイデン大統領は2021年1月の就任から約半年は支持率が50%を超え、不支持を上回っていましたが、夏ごろには早くも支持率が50%を割り込み不支持が上回るようになり、その傾向がずっと続いています。もし、共和党の候補者選びで、トランプ氏が苦戦を強いられるようだと、民主党内でもバイデン降ろしの動きが強まってくると思います。

 

というのも、2024年の投票日に81歳のバイデン氏と78歳のトランプ氏との対決なら、高齢というハンディはそれほど目立たないかもしれませんが、共和党がデサンティス氏のような若い候補者を出すことになれば、民主党もバイデン氏とは異なる若い候補を出さざるを得なくなると思うからです。

 

バイデン氏は年明けに立候補するかの決断をするようですが、立候補を表明したあとでも、トランプ氏が共和党の指名を得るかどうかの様子を見て、立候補を辞退する可能性はあると思います。

 

共和党は、今回の中間選挙で、デサンティスという有力候補を登場させましたが、民主党は、この人なら共和党に勝てる、という人がいまのところ出てきていません。バイデン氏が大統領に就任した当時は、カマラ・ハリス副大統領(下の写真)が次の有力候補だったのですが、その後は、鳴かず飛ばずの状態で、存在感を出せていません。前述の世論調査でも、

ハリス40% トランプ38% (レッドフィールド&ウイルトン)

ハリス39% デサンティス42% (ハリス)

ハリス40% トランプ47% (ハリス)

 

といった具合で、バイデン大統領が1期目の途中交代でハリス氏が大統領に昇格するような不測の事態がなければ、ハリス大統領の目は少ないように思えます。民主党で、ハリス氏以外に名前が挙がっているのは、カリフォルニア州知事のギャビン・ニューサム氏(55)=下の写真左、ミシガン州知事で今回の選挙で再選を果たしたグレチェン・ホイットマー氏(51)=下の写真右央、運輸長官のピート・ブティジェッジ氏(40)=下の写真下段=らです。

大統領選で勝敗のカギを握るのは、中西部といわれますから、ミシガン州知事のホイットマー氏、インディアナ州サウスベント市長で頭角を現したブティジェッジ氏が有力ではないかと、私は予測しています。

 

◆本選のカギは景気

 

今回の中間選挙の前に、民主党敗北の予測が多かったのですが、その理由のひとつは民主党の選挙戦略でした。有権者の最大の関心ごとは生活を苦しめるインフレなのに、民主党は中絶問題(女性の権利)や民主主義擁護(2020年大統領選のトランプ派による選挙結果否定)など理念をとりあげた、というのです。背(理念)に腹(現実)は代えられぬ、というわけです。

 

ところが、選挙のふたを開けてみると、必ずしも民主党の戦略が間違えたとはいえないようです。CNNの出口調査によると、投票で最も重視した問題は、という設問に対する答えは、「インフレ」31%、「中絶」27%、「犯罪」11%、「銃規制」11%、「移民」10%で、共和党が争点として取り上げた「インフレ」に対して、民主党が取り上げた「中絶」も大きな問題として有権者に意識されていたことがわかりました。

 

中絶問題は、ことし6月に連邦最高裁が「中絶は憲法で認められた女性の権利」とする49年前の判断を覆したことで選挙の争点として急浮上しました。最高裁の判断を受けて、保守の強い州などで中絶を禁止する法案が成立する動きが広がったことに対して、民主党が「中絶は女性の権利」という論理で、女性票を獲得する戦略を取ったのです。

 

CNNの調査では、中絶は「合法」が60%、「違法」が37%で、「合法」が多いうえ、支持政党別でも、民主支持の73%が、共和党支持の25%が「合法」で、共和党支持層にも「合法」の意見が4分の1あり、この人たちが各州で規制法が成立されることに脅威を感じ、上院選や知事選では、トランプ派の候補への投票を避けた可能性もあると思います。

 

インフレは、投票で最も重視された問題でしたが、その切実度という意味で、軽視できないのは、賃金上昇も伴っているということです。このところの消費者物価指数と時間当たりの平均賃金の前年同月比(%)の推移をみると

 

 

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

物価

11.7

11.2

11.1

11.2

9.7

8.7

8.4

8.0

賃金

5.6

5.5

5.3

5.2

5.2

5.2

5.0

4.7

 

賃金の上昇率よりも物価の上昇率のほうが高いのが問題なのですが、賃金の上昇率も高水準を維持しています。コロナによる経済活動の縮小から回復期に入っている米国は、雇用環境も改善されていて、雇用数の増加が続く一方、失業率は低水準にあります。

 

労働市場での需給のひっ迫が賃金を上昇させ、それがエネルギー価格とともにインフレの要因になっています。インフレ下の今回の選挙で、政権与党がそれほどのダメージを受けなかったのは、雇用状態が悪くないという事情もあったと思います。

 

経済が選挙の争点となるのは、これからだと思います。というのも、米国の連邦準備制度理事会は、インフレを抑えるために金利の引き上げを続けている結果、来年になると、米国の景気は相当落ち込むものと見られるからです。大和総研が11月24日に発表した世界経済の見通しによると、2023年の米国のGDP伸び率は0.7%(2022年は1.9%)と見ています。

 

選挙の年は2024年ですから、2023年に景気が後退しても、選挙年には回復すると民主党は期待していると思います。しかし、来年は世界経済全体も後退すると見られ、大和総研は2023年のユーロ圏のGDP伸び率を0.1%(2022年は3.2%)、中国は4.5%(同3.0%)、日本は2.2%(同1.6%)と見ています。世界の経済回復が遅れれば、2024年に米国がひとり経済回復というわけにはいかないと思います。

 

不況下の選挙となれば、米国民も政権党である民主党に罰を与えるかもしれません。共和党がホワイトハウスを奪還する可能性は十分にあり、トランプ氏が共和党の氏名を得られれば、トランプ氏にもホワイトハウスへの道は残っているということになります。

 

◆日本のトランプバイアス

 

日本から米国を見ていると、なぜトランプ氏がいまだに米国政治の焦点になっているのか理解できません。2016年に大統領に就任したトランプ政権は、TPP、パリ合意、イラン合意などの国際的な枠組みからの離脱を宣言、その後も米国第一主義で、米中対立をあおり、国内政治でも、リベラルなメディアからの批判を「フェイクニュース」として退けるなど、トンデモ大統領という印象があるからです。

 

しかし、米国内では、民主党からは嫌われましたが、国内の産業を守り、不法移民を排除するという米国第一主義が民主党支持の労働者やヒスパニックなどの一部を共和党支持に切り替えさせたのも事実です。私たちには、トランプ氏を厄介者として見るバイアスが働いているのかもしれません。

 

共和党の世論調査担当者は、共和党員の10%が「トランプ拒否者」(Never Trumpers)、40%が「いつでもトランプ」(Always Trumpers)、残りの50%が「日和見トランプ」(Maybe Trumpers)と分析しているそうです。ということは、共和党の予備選で、2人以上の有力候補者が現れれば、票が割れる結果、トランプ氏がコア層の40%に日和見層からの上乗せで、指名を獲得すると見ているとのこと。有力な対抗馬がひとりで、反トランプ層や日和見層からのほとんどの支持を取り付けないと指名獲得は難しいということです。

 

来年どころか再来年のことを言えば鬼も笑うどころか、そっぽを向くだけだと思いますが、今回の中間選挙が米国の政治に何らかの変化を与えたことは確かだと思います。(了)

 

注)マザーグースは英国で古くから口承で伝承されてきた童謡や歌謡。ハンプティ・ダンプティもそのひとつ。

 

Humpty Dumpty

Humpty Dumpty sat on a wall,(ハンプティ・ダンプティ塀の上)

Humpty Dumpty had a great fall,(ハンプティ・ダンプティ落っこちた)

All the king’s horse and all the king’s men(王様の馬と家来がみんなして)

Couldn’t put Humpty together again.(尽せど元には戻らななかった)

 

  〇ニューヨーク・ポストの紙面

Trumpty Dumpty

Don (who couldn’t build a wall) had a great fall

    --can all the GOP’s men put the party back together again?

 

〇All the king’s men

王様の家来たちは王様を助けようと必死になるが、結局は墓穴を掘るばかりというのは、どこの国にもある政治ドラマのようで、米ルイジアナ州の政治腐敗をモデルにしたR.P.ウォーレンの小説「All the King’s Men」(1947年、翻訳は『すべて王の臣』)で、1949年と2007年に映画化されています。ウォーターゲート事件の真相を暴いたワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワードとカール・バーンスタインの著書の原題は「All the President’s men」(邦題は『大統領の陰謀』)で、1976年に映画化されました。

 

上院で、11月8日の投開票で、すぐに勝敗が決まらなかったのは、ペンシルベニア、ジョージア、ネバダ、アリゾナの4州でした。ジョージアは、両党の獲得投票がどちらも50%に達せず、同州の規定で12月6日に民主、共和両党の候補者による決選投票が行われることになりましたが、ほかの3州はすべて民主党が議席を獲得しました。接戦4州の勝敗は民主の3勝1分という結果で、共和党の候補はどの候補もトランプ氏の支持を受け、とくにネバダ、アリゾナ両州の候補は、MAGA(Make America Great Again)をスローガンにしたトランプ派といわれる人たちでしたから、トランプ氏の落胆は大きかったと思います。CNNは選挙結果で、自分が支持する共和党候補が伸び悩んだことで、周囲の人たちを「怒鳴り散らした」と伝えました。

(2024年大統領選の候補者の写真はいずれもwikipedeiaから転載)

 


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