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安倍政権の終わりが見えた

2020.05.20 Wed

19日の朝日新聞を見ながら、安倍政権の終わりを感じました。1面トップは、検察庁法案の今国会での審議先送りで、「無理が通れば、道理引っ込む」といわんばかりで進めてきた安倍内閣の政治が通用しなくなったことを物語っています。

 

そして準トップは、1~3月期の日本のGDPがマイナス成長となり、昨年10~12月期に続けて2期連続のマイナスで、景気が後退期に入ったことを示しています。安倍政権は、これまでずいぶん強引な政治を続けてきましたが、それができたのは、人々の暮らし向きがそこそこ安定していたからだと思います。ところが、この長期政権の土台ともいうべき生活の安定という土壌が崩れたのです。

 

これからは、新型コロナウイルスによる社会・経済活動の自粛によって、さらに経済の悪化が見込まれるなかで、政権の継続を望む民意も薄れてくると思います。アベノミスクのマジックは、アベノマスクとともに消えつつある、ということでしょう。

 

「美しい日本」とか「戦後の総決算」といった標語を掲げてきた安倍晋三という政治家は、保守イデオロギーをまとっていることで、保守的な人々から熱い支持を得てきました。しかし、国民が安倍内閣を支持してきたのは、そこではなかったと思います。

 

NHKが報じる内閣支持率のニュースを見ながら、いつも興味深いと思ってきたのは、支持率が相対的には高い水準で安定しているわりには、支持する理由のなかで、「他の内閣よりも良さそうだから」という消極的な支持の回答が多く、「政策に期待できるから」とか「人柄が信頼できるから」といった積極的な支持が少ないことでした。

 

こうした回答の傾向を勝手に解釈すれば、安倍さんを信頼しているわけではないが、ほかの内閣に代わることで、いまの安定した生活が悪くなるのは困るから、というのが民意の大勢だったのではないでしょうか。

 

ちなみに最新のNHKの「政治意識月例電話調査」(5月)は、以下の通りです。(5月はコロナという特殊事情もありますから、1年前の2019年5月の数字もかっこに入れておきます)

 

問1 あなたは、安倍内閣を支持しますか。それとも支持しませんか。

1. 支持する ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  37.1 % (47.6%)

2. 支持しない ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  44.7 % (32.3%)

3. わからない、無回答 ・・・・・・・・・・・・・  18.1 % (20.1%)

 

問1SQ1[問1で「1.支持する」の人に](該当者) あなたが、安倍内閣を支持する主な理由は何ですか。これから読み上げる5つの中から1つ選んでお答えください。(分母=469人)

1. 政策に期待が持てるから ・・・・・・・・・ 8.7 % (10.2%)

2. 支持する政党の内閣だから ・・・・・・・14.3 % (13.8%)

3. 人柄が信頼できるから ・・・・・・・・・・・ 6.0 % (8.0%)

4. 実行力があるから ・・・・・・・・・・・・・・ 12.2 % (14.2%)

5. 他の内閣より良さそうだから ・・・・ 54.8 % (50.2%)

6. その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1.3 % (1.5%)

7. わからない、無回答 ・・・・・・・・・・・・・ 2.8 % (2.2%)

 

問1SQ2[問1で「2.支持しない」の人に](該当者) あなたが、安倍内閣を支持しない主な理由は何ですか。これから読み上げる5つの中から1つ選んでお答えください。(分母=565人)

1. 政策に期待が持てないから ・・・・・・・・・ 26.2 % (31.7%)

2. 支持する政党の内閣でないから ・・・・・ 4.8 % (7.4%)

3. 人柄が信頼できないから ・・・・・・・・・・・・36.1 % (33.2%)

4. 実行力がないから ・・・・・・・・・・・・・・・・・・24.1 % (10.1%)

5. 他の内閣の方が良さそうだから ・・・・・・・3.7 % (9.3%)

6. その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2.3 % (4.9%)

7. わからない、無回答 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 2.8 % (34%)

 

内閣支持率は、1年前に比べて10ポイント下がっていますが、支持の理由を見ると、ほとんど変化していません。支持率が高い時期でも、それほど政策への期待があるわけではなく、他よりまし、というのが多くの民意だったということです。

 

一方、不支持の理由も大きく変わっているわけではないのですが、「実行力がない」というのが1年前に比べると、倍増しています。コロナ対応への遅れを反映していると思われます。

 

ところで、貧富の格差は拡大し、実質賃金も伸びていないのに、暮らし向きが安定なんて書くと、アベマジックに眼がくらんでいるのではないかと言われそうです。しかし、内閣府の国民生活に関する世論調査で、「現在の生活に対する世論調査」を見ると、「満足」と答えた人の割合は、2009年の61.0%を底にして上昇傾向にあり、安倍政権になってからは、2016年を除き、70%台を維持しています。実質的な数字では生活は良くなっていないのかもしれませんが、意識のうえでは、「満足」がふえてきたのです。

しかし、昨年10月の消費増税あたりから、暮らし向きは変化しています。たとえば、消費動向指数は昨年10月に大幅に落ち込んだあと、回復しないままコロナによる買い控えに入っています。また、日銀の「生活意識に関するアンケート調査」でも、ことし3月の景況感は、大幅に悪化しています。

 

世界的にみても、コロナによる社会・経済活動の自粛や規制は、失業やレイオフ(一時帰休)による雇用不安を広げています。米国のように、制度的に解雇がたやすい国では、4月の失業率は14.7%で、3月の4.4%から一気に悪化しています。日本では、雇用契約を切りやすい派遣社員やパート社員の雇い止めが広がっていますが、もっと自由な雇用関係の飲食店などでは、事実上の解雇がさらに広がっているものと思われます。また、コロナによる経済の悪化が続けば、正規雇用の従業員も解雇が広がっていく恐れもあります。

 

消費増税以降、景気が悪化しているところにコロナ禍の直撃で、「暮らし向きの安定感」が一気に崩れ去ったのが現状でしょう。4月12日に首相が自宅でくつろぐ姿を星野源さんの「うちで踊ろう」の動画にあわせてインスタグラムに投稿したところ、「休業補償もない人に、こんなゆとりはない」といった批判のコメントが殺到したのは、雇用不安が広がっていることを読みそこなった首相の判断ミスだと思います。

 

首相のインスタグラムは、コロナ以前のコメントは数百件(そのうち多くは、最近のコメント)ですが、星野源事件以降は、数千件の規模になっています。賛否両論と言いたいところですが、圧倒的に批判というか罵詈雑言が多いようで、いまや不満のはけぐちになっている感じさえします。

 

集団的自衛権の憲法解釈を変更した安保法制の改正、森友・加計学園問題などで、安倍内閣の支持率は下がってきましたが、時間とともに問題への関心が薄れてくると、支持率は再び回復してきました。しぶとさこそ安倍政権の特色だと思ってきました。しかし、景気の底支えを失っている今回はどうでしょうか。

 

安倍政権の終わり、と冒頭に書きましたが、コロナ危機のさなかでは、終わり方も難しいですね。2007年に突然の辞任表明で政権を投げ出した第1次安倍政権のときは、自民党の総裁選挙がすぐに行われ、辞任表明から2週間後には、次の福田康夫政権が誕生しています。しかし、いま首相本人が辞めたいと思っても、非常事態宣言下では、2週間の空白は許されないでしょう。非常事態宣言が全面解除されても、コロナの第2波がいつ来るのか備えが必要な時期ですから、辞めるに辞められないと思います。

 

それなら、公明党を含めた与党内で、安倍おろしの波が高まるかといえば、これもコロナのさなかに倒閣運動かという批判を恐れて、高まるとは思えません。

 

自民党総裁の任期は2021年9月までですから、安倍さんが首相でいられるのは最長でも、来年秋までということになります。コロナ以前は、東京オリンピックなどの好機を選んで解散・総選挙に打って出て、選挙での勝利をテコにして、自民党総裁の任期をさらに延長して、首相を続けるというのが首相の戦略だと言われていました。

 

しかし、アベノマスクに限らず、一律給付金の支給にたどりつくまで時間がかかったことなど一連のコロナ対策での遅れが批判され、そのコロナそっちのけで強行突破をはかろうとした検察庁法の改正案も批判の高まりで見送りになってしまいました。そうなると、コロナが完全に終息するような奇跡が起こらなければ、首相が続投を狙って解散・総選挙に走るのは難しいと思います。

 

衆院の任期は、総裁選直後の2021年10月です。1年延期された東京オリンピックの開会は7月下旬で、オリンピックが開催されるなら、これが安倍さんの花道となるかもしれません。一方、オリンピックが中止となると、それが安倍政権の幕引きとなり、自民党総裁選の前倒しになるというシナリオも出てくるでしょう。

 

安倍政権の終わりを語るとなると、その時期とともに考えなければならないのは、後任はだれかということです。いまの閣僚でいえば、麻生財務相も、菅官房長官も、長期政権の垢にまみれていて、国民からすれば新鮮味はないようい映ります。小泉環境相は若いというだけでなく、閣僚になったら、すっかり牙を抜かれたというか、迫力がなくなった印象があります。岸田さんは「安倍さんの後継者」と言われたこともあって、安倍さんの対抗軸ではなく、何も言えなくなった感じで、存在感がありません。

 

石破さんは危機に強そうに見えますが、いまの党内で、石破さんでまとまるようには思えません。サプライズで、公明党の山口さんなんてうわさもあるようですが、10万円の一律給付を首相に直訴した迫力は、今回の検察庁法改正問題では消え失せてしまいました。そうなると、サプライズ人事のうわさも、官邸から流れたのではと勘ぐってしまいます。

 

石破さんをのぞくと、国民の期待を受けてという候補者はいないようで、ABA(安倍さん以外なら誰でも=Anybody But Abe)というわけにもいきませんし、困った問題ですね。

 

というわけで、安倍政権はいつ終わるのか、そして後任は、という議論を居酒屋でしたいところですが、まさに「口角泡を飛ばす」議論になりそうで、自粛警察から放り出されること必至ですね。


この記事のコメント

  1. KG小林 より:

    「AnyBody But Abe(Ape)」で ABBA ならばダンシング・クイーンときて,踊るアキエさんとともに政界から退場してほしいものです.いや,退場では足りません.集団的自衛権行使・スパイ法策定などは政治の問題としても,森・加計・桜など数々の政権私物化を司法の場で夫妻ともども裁かなければ,これまで7年に及び蓄積してきた怒りは収まりそうにありません.ここは新しく検事総長になられる黒川どのの指揮のもと,国会閉会中に首相を逮捕・立件して,裁きの場に引きずり出していただきたいものです.さすれば,政権のイヌ呼ばわりの黒川氏も名誉挽回,冤罪疑惑にまみれた検察庁も起死回生の組織防衛が図れるかも知れません.かなり無理めなシナリオですが,トランプ大統領曰く「夏になったらコロナがウソのように消えてなくなる」よりは,あり得ると思います.

  2. KG小林 より:

    …と投稿してから半日ほどで黒川氏が産経・朝日の記者と3密・賭けマージャンをしていたことが文春砲で発覚.朝日も記者の同席を認めました.よもやドラマ脚本家でも思いつかないような劇的な筋書きで黒川氏を失うことになるとは,ゴリゴリ押していた首相としては,定年延長法案をひとまず取り下げたので,政権への致命的な一撃を紙一重でかわしたというところでしょうが,まだ終わっていません.この事態になっても,検察官の定年延長を恣意的に決められる特例を通すのか,各地で支持者の突き上げを食らう自民党は一枚岩で行けるのか,そして公明党は下駄の雪よろしくどこまでも首相について行くのか,いよいよ安倍政権を支持する構造が分裂して崩壊する瞬間が近づいたようです.コロナ禍の収束は石破さんに委ねましょう.

  3. 高成田 享 より:

    時系列で考えると、文春が取材に入ったことで、官邸・自民党は、強行採決と麻雀報道が同じ日では、国民の怒りが収まらないと思ったのでしょうね。法案は継続審議ですから、官邸の意中の人はいなくなっても、政府に忖度する検事総長を就かせることができる仕組みは残そうというのでしょうね。

  4. 国家再生 より:

    世間の人は、
    「次の首相は誰がいいか、それを聞きたいし教えて欲しい。でも、色々名前が出てきてもウソ吐きやゴマカシの連中ばかりで選びようがない。」
    で、結局選挙に行く気がせず棄権するんだ。

    日本はこの世相が戦後ずっと繰り返され、今日も続いている。
    戦後75年も経ってるのに、主権在民の民主主義が浸透せず、その主旨理解と実行ができない。
    情けないが、この次も多分投票率が上がらず、安倍か、それに似た奴が出てくるだろう。

    元々、主権在民とは、国政を担当する政治家に向って国民の側が諸々の政策、施策を「こうしろ!ああしろ!」と指示命令をするものなのである。

    「貴方は何をしてくれますか?」と尋ねるものではない。彼らに頼るから何事につけウソとゴマカシで
    騙されるのだ。

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