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AI( 人工知能)の切り拓く世界に驚く

2018.02.27 Tue
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AI( 人工知能)の切り拓く世界に驚く

平成30年 2018 2月
仲津 真治

原著は、「AIに心が宿るのか」と題するインターナショナル新書の新刊です。著者は昭和34年(1959)生まれの工学博士で、東大理学部卒、「公立はこだて未来大学授」の任にあります。この、「AIに心が宿るのか」とのテーマで、本書は真摯にその答えを探しています。好感の持てる取り上げ方です。 羽生七冠との対談も含んでいます。

以下、幾つか印象に残ったことを記します。

1 将棋の羽生七冠が正直吐露した、「AI 人工知能」の将棋の強さ

「AIの将棋」は発展して実に強くなり、同じ将棋でもヒトとは別世界のものとした、羽生善治氏は、「将棋の神様 将棋AIのこと 」とは、どの位の差か」と聞かれて、「角落ちくらいですかね」と答えています。この答えは七冠になった頃と云いますが、これには驚きました。AI 人工知能はここまで来たのです。

2  将棋AI ポナンザ

「将棋AI ポナンザ」は、数々のプロを破っていますが、所謂教師あり学習をしていて、プロ棋士の過去二十年分の対局五万件の棋譜を学習した由です。つまり、過去のデータで戦っていて、大変な強さを獲得するに至っている由です。

そして、最近は更に進展を見せ、過去にない、未知の局面においても、将棋AIはプロから高く評価される新手を創造している様です。

一例を記しますと、或るプロ棋士との対局で、AIは初手をいきなり「3八金」と指した由、解説者が驚き、周囲がどよめく中、その後、第九手目に至り、3八金を礎ととした「中住まい」と言う固い守りを完成させたと申します。 確かに、初手は「其れは何だ ?」と言う驚愕の一手でしたが、何手か指す内、「成る程」言う流れや駒組みが分かってくるものでした。 AIには、人間を遙か
に凌ぐ大局観が在ると言います。それも一手毎に働く大局観で、流れ重視の人間と随分違う指し方になるようです。

こうしたAIの繰り出す手の棋士による応用も確認されている由です。例えば、平成25年の名人戦第五局で森内俊之が羽生善治相手に指した六十二手目の「3七銀」はそうだと申します。 森内がAIの手を参考にして、この手を指したと言われている由です。

斯くて、AIは学習機能はもとより、創造性も発揮し始めている由、ますます、その対局と「次の一手」が注目されるようです。

他方、更に複雑性の高い囲碁の世界では、近年、有名なアルファ碁のソフトが世界の第一人者を破った例始め、諸々報道されていますね。

3  他の分野での知見はどうか?

著者の研究の仲間からは、将棋に限らず、既に小説の試作も行われていて、これまでの作品応募例では、その認識の無い審査を通っていることも在る由、いよいよという感じですね。 実は、そう公にはなっていないけれども、こうした取り組みは多々在ると申します。

本書の引用する例に拠れば、羽生善治氏は、著者との対談で、英国でAIが作ったミュージカルを鑑賞した経験が在ることを語っています。 敢えて聞かされ無ければ、別に気にならず、自然に鑑賞できたと言っています。 つまり、実際上区別が付かないと言うことのようです。 問題は意識すると変になり、偏見に繋がる怖れがあるようです。

4 「機械人間オルタ」 と自律性 と要身体性

著者は、遂に機械性を卒業して、こころを持つようなAIの可能性を信じ、その
ための研究・創意・工夫に関心を示して、取り組みを始めているようです。
その観点から、阪大の石黒教授が製作している、アンドロイドと呼ばれるヒト型ロボットを大いに注目している様です。 私も故人では「夏目漱石」や、現住人では「黒柳徹子」のいずれもそっくりさんのロボットをテレビで実視しました。前者は、二松学舎の大学の実際の教室で、早や講義のデモをしているとも聞きました。これらは、本書では「機械人間オルタ」として紹介されています。

ては、何故、機械装置と言う事が丸分かりのコンピュータででも、学習や創作までできるのに、こうしたヒト型ロボットがわざわざ作られるのでしょう。現に、テレビで見た囲碁の対局のシーンでも、巨大な産業ロボットのような装置が棋士と向かい合い、碁石を動かし置いていました。そして、この機械がヒトの棋士に対し、圧倒的に優れた成績を示しているのです。

著者は、この人型ロボットに係る基本的な疑問に対し、次のように考えている様です。即ち、ロボット装置に心を宿らせるとなると、一段の進展が必要であり、そのための一歩として著者は身体が欠かせないと見ているようなのです。

5  身体性を身につけるとは、具体的にどういうことか。

ヒトは「辺り」をもって生き、生活していると申します。そう言えば動
物もそうでしょう。 つまり、何か在るとなれば、大体それがどの辺りか見当を付け、大きさの感じも掴むと云います。 物音が聞こえ、それらしい物が見えて来ると、さらに近づくかします。

しかし、現AIはそうした距離感のようなものが無い由です。直ぐ近くも、遠くも全く同じで、等価なのだそうです。それでも、将棋や囲碁を習得し、プロ棋士と戦い、勝利を納めます。しかし、日常の動作など、まるでできません。

これを持たせ、育てようとすると、必要になるのが身体と申します。 つまり、アトムのようなヒトロボットなら、この感覚が生まれ、育ちうると言う分けです。

AIは既に、凄まじく発達したコンピュータが組み込まれ、整序立てて回路が
繋がっており、知能を発揮しますから、後はこれを包み込み、あれこれ動作する身体があれば、ヒトのようなものができて、心性が生まれうると言う分けです・

こうした辺りのことを、難しくは「フレーム」という由、その解決は、人工知能に立ちはだかる大きな課題の由です。

もし、こうしたことがクリアされていけば、遠い将来にとは言え、人間対ロボットのサッカー対決などが現実のものとなってくるのでしょうか。

6 なお、残る疑問

私は、コンピュータについて、創造性は無いと聞いてきました。 AIのディープ・ラーニングも読み取るデータは膨大で、高速処理もできるが、あくまで、所与のデータの範囲と申します。課題状況に創意工夫して取り組むことは出来ないと教わってきました。 でも、今や、未知の問題に取り組めると言います。将棋なら、本書に拠れば、新手を創設、発見して指せると言うではあり
ませんか。

それに、「コンビュータに意識は生じておらず、最後に電気のスイッチを切ったら、お仕舞い」と聞いてきたのに、こころが宿る可能性すら予想され、検討されているとは、一体どういうことなのでしょう。 こころとなれば,意識が生じてきますね。

いずれも、なお、分からない基本的な疑問です。時間が経てば、分かってくるのでしょうか。 それとも、次々と課題が出てくるのでしょうか。 寿命がなお在ればと思う日々です。


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