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リベラルは死語なのか

2017.09.29 Fri
政治

安倍首相の突然の解散は、政治戦略としては見事だと思いました。民進党は前原代表になったばかりでごたごたし、都民ファーストも国政を担う政党には準備不足という時期だったからです。しかし、いざ解散となると、前原さんは民進党を解党して、小池さんが立ち上げた「希望の党」に合流するという奇策を打ち出し、小池さんも事実上、合流を認める形となり、安倍さんの信任投票と思われた選挙は、一転して大波乱の選挙になりそうな気配です。

少なくとも選挙の入り口では、安倍さんの思惑通りにはならなかったわけで、安直に憲法改正を提案したり、軍事行動を含めたトランプ政権の北朝鮮政策を支持したりしてきた安倍首相の路線も、修正を強いられることになると思います。その意味では、小池さんの「希望」の立ち上げや、「身を捨ててこそ、浮かぶ瀬もあり」という前原さんの戦略を評価してもいいのですが、気になるのは民主党内でリベラルを自称していた人たちの今後です。

憲法改正や安保法制に反対してきた民進党のリベラル派の人たちは、保守的な色彩の強い小池さんとは理念が大きく異なります。有権者のなかにも、こうした考え方で民進党を支持してきた人たちもたくさんいると思います。リベラル派の議員が今回の選挙で、「希望」から切り捨てられる可能性もありますし、そうでない場合にも、憲法や安保で転向を迫られることは十分に考えられます。そうなると、リベラルな心情を持った民進党支持の有権者は、選挙での選択肢が狭くなるでしょう。

こんな情景を前に、思い出すのはレーガン大統領から父ブッシュ大統領へと共和党政権が2代続いた1980年代の米国です。リベラルな思想の人たちは、「L」と隠語で呼ばれ、「リベラルは死語」という雰囲気がありました。1992年の選挙で共和党から民主党に大統領の座を奪還したクリントン大統領は、「大きな政府の時代は終わった」と宣言して、リベラルとは一線を画す姿勢を示しました。その後、共和党の子ブッシュ時代に、米国はイラク戦争で失敗したこともあり、民主党のオバマ政権が生まれると、リベラルという言葉もある程度の復権を見せたように思えます。

現在の日本が置かれた状況を考えるときに、リベラルの理念を政治に生かすことが必要な場面が何度も出てくると思います。少子高齢化のなかで、弱者に寄り添う政策を打ち出すには、リベラルな考え方が必要だと思います。かつて、『ゼロ・サム社会』などの著者として知られるリベラル派の経済学者であったレスター・サロー氏にインタビューをしたときに、「経済政策でリベラルかどうかの物差しは、累進課税を認めるかどうかだ」と言われました。社会で成功して富を得た人たちがより多くの納税をすることで社会はよくなる、という考え方で、逆進性の高い消費税に頼りがちになる時代こそ、リベラルな経済政策の視点が求められていると思います。

ところが、日本におけるリベラルな政治勢力の一端を担っていたはずの民進党が「健全な保守」を自認する「希望」に吸収されてしまえば、リベラルな政策が無視されることにもなりかねません。リベラルとハト派、保守とタカ派は、親和性が強いと思いますが、リベラル派の消滅は、経済政策だけでなく、外交政策でも、大きな影響を受けることになります。

「希望」が安倍政権下の自民党の議席を奪うことは、米朝戦争を誘うことにもなりかねない安倍路線に待ったをかける点で意味のあることだと思いますが、その一方で、リベラルという言葉を死語にしてはならないとも考えます。

 


この記事のコメント

  1. yacopi より:

    今、消滅しようとしているのはリベラルではなく、ガラパゴス・リベラルなだけ。

    中央公論社・10月号の以下を読んでみてください。
    維新は「リベラル」、共産は「保守」:世論調査にみる世代間断絶  
    http://www.chuko.co.jp/chuokoron/2017/09/201710_1.html

    最も改革に積極的な政党は?という質問で、40代までは、自民が1位で、2位が維新、民進や共産は「保守」とイメージを持つ人々が大半。
    リベラル=護憲=日米同盟反対=原発反対と捉えること自体、化石のような考えで、メディアに関わる人間ほど、一般の人の考え方が大きく変わっている現実を全く知らない。
    民進の左派リベラルと呼ばれる人々がこの種のガラパゴス・リベラルで、民主党時代、安全保障を鳩山のように机上の空論でいじくれば滅茶苦茶になることは、お隣の国の政権での大混乱を見るまでもなく、子供でも認識している。
    護憲で9条を死守すれば米の戦争に巻き込まれないとか、米朝戦争にも歯止めがかかるなんて考えている、お花畑の幼稚な理想主義者はほとんどいなくなった。だから、憲法改正や日米安保が与野党の対立軸になる時代は終わっている。

    しかし、対立軸の大きなシフトが起きているにもかかわらず、時代にあったリベラル政党が日本では育たなかった。
    それは、安全保障政策を自民とほぼ同じにして、アベノミクスを超える大胆な経済政策を打ち出せなかったからだ。
    40代までの世代がなぜ、自民を革新的な政党と考えているのか?
    20年近く続いた超氷河期で、上の世代は大変苦しんだ。しかし、自民が政権を奪還してアベノミクスが総じて経済指標を改善したからだ。東大の学生が保守化しているから自民党支持が増えているわけではなく、全く逆に、自民を革新的と考えているから支持しているのだ。
    財政出動という点では、アベノミクスの考え方はむしろリベラル寄りで、アベノミクスを超える政策をどの党も打ち出せないでいる。
    結局、自民に対して対立軸となる経済政策を全く出すことができなかったことが、民進党の事実上の解体につながった。

    前原が代表になって、打ち出した経済政策は、経済のこれ以上の成長には限界がある、消費税を10%にし、国民の税の負担率もヨーロッパ並みにあげるなどとしています。再配分をもっと隅々まで行き渡らせよとか、累進課税を徹底せよとか、バカでも言えること。

    1980年代の米の「小さな政府」と「大きな政府」の対立で、共和党が勢力を増していった時代背景とよく似ていると指摘していますが凄まじい的外れ。アベノミクスの政策は、大型の財政出動を推進し、米の民主党の「大きな政府」政策に近い。むしろ、当時の共和党のような「小さな政府」を打ち出す政党がないことが問題。

    朝日のようなガラパゴス・リベラル・メディアこそが、現実的なリベラル政権が日本で誕生できない大きな原因を作ったのでしょう。

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