森友疑惑は思想事件である、という卓見
疑獄事件と言えば、政治家がその権限を使って民間人に便宜を図り、見返りに大金を受け取る、というのが通り相場でした。昭電疑獄(1948年)、造船疑獄(1954年)、九頭竜(くずりゅう)ダム疑獄(1965年)、ロッキード事件(1976年)、リクルート事件(1988年)ではいずれも政治家が巨額の金品を受け取ったとされ、収賄容疑で追及されました。
ところが、今回の森友学園への国有地売却問題はいささか様相が異なります。9億円の国有地が8億円も値引きされて払い下げられたのですから、特段の便宜が図られたことは間違いないのですが、森友側から「大金」が流れた形跡がありません。かつての疑獄とどこがどう異なるのか。それを分析した優れたリポートがあります。『サンデー毎日』の3月26日号と4月2日号に掲載された伊藤智永(ともなが)毎日新聞編集委員の記事です。
記事のタイトル「森友疑惑は思想事件である」が問題の所在を的確に表現しています。伊藤編集委員の分析はこうです。
「この事件は、安倍政治に特有の『何だか嫌な感じ』がてんこ盛りになっている。つまり、政治事件としての本筋は、『教育・首相夫人・勅語(=天皇制・国体論)・排外主義』の問題にこそある。ひっくるめて『安倍流保守』の問題と名付けよう。これは政治思想事件なのである」
森友学園問題をめぐってモヤモヤしていたものが、この記事を読んですっきりと晴れていくような気がしました。「戦後レジームからの脱却」を目指す安倍晋三首相にとって、取り戻すべき日本の美点のエッセンスは、戦前の教育勅語でうたわれていることと重なります。森友学園が推し進めようとする「日本で初めての神道に基づく小学校教育」とも共鳴するところがあります。だからこそ、昭恵夫人は講演を引き受け、「こちらの教育方針は主人もすばらしいと思っていて」と語ったと考えられるのです。
安倍首相夫妻と思想やイデオロギーを共有し、シンクロナイズする。交友もある。それゆえに、籠池泰典理事長は財務省や国土交通省との折衝で強気を押し通すことができたのではないか。官僚たちも、それを知っているから目端を利かせて譲歩に譲歩を重ねたのではないか。森友学園側から巨額の金品を贈らなくても小学校の開校準備がスムーズに進んだ背景にそうした構図があったと考えると、これまでの経緯が分かりやすくなります。
伊藤編集委員の続報「安倍政治を担いだ『保守ビジネス』」も、戦後日本の政治思想の変遷を考えるうえで、示唆に富んでいます。記事の中で、保守ビジネスの起業家の「1990年代末から保守が売り物として成立するようになった」という言葉が紹介されています。このころから、日本の神話や皇室、国史をテーマにしたセミナーを開催すると、3000円の会費で参加者が面白いように集まる。ネット塾にも有料会員が次々に登録してくる。「保守ビジネス」が成り立つようになり、太い流れになっていった、というのです。
1989年に東欧の社会主義体制が次々に倒れていきました。1991年には社会主義の本家、ソ連そのものが消滅し、共産主義・社会主義というイデオロギーは総崩れになりました。政治思想やイデオロギーという面から考えると、「社会の左翼」が真空状態になり、その空白を埋めるべき「強靭なリベラル」が育たないまま、21世紀を迎えました。空いた領域に中道と保守がじわじわと広がっていったのです。
日本では、2009年に民主党が政権の奪取に成功しましたが、ぶざまな政権運営によって有権者に愛想を尽かされ、「やっぱり自民党に任せるしかないね」という選択が定着してしまいました。そうした中でグローバリゼーションは勢いを増す。冷戦を勝ち抜いた自由主義・資本主義体制の中で、大手を振ってまかり通るのはアメリカ型の貪欲な資本主義。社会は不安定さを増し、その不安を巧みに掬い取ったのは保守のタカ派であり、極右勢力だったのです。森友学園問題はそうした中で噴き出しました。今の日本社会の病理を象徴するスキャンダルと言えるのではないか。
悲しいのは、今の日本には、これをただす勢力があまり見当たらないことです。国会での民進党議員の追及を見ていると、脱力感に襲われます。なんでこんな質問しかできないのか。自分たちで腐敗の根っこを掘り起こす力がない。一番気を吐いているのが、なんと共産党です。けれども、彼らにはノスタルジア(郷愁)はあっても、未来の展望はないでしょう。かつて腐敗した政治家に恐れられた検察官もどこへ消えてしまったことやら。
繰り言を重ねても、未来を切り開くことはできません。どんな社会も、一人ひとりの人間が集まってできています。一人ひとりが、今いる場所でできることを積み重ねて、この社会を変えていくしかありません。森友学園問題は「今、あなたにできることは何か」と問いかけているとも言えます。
山形の山村で暮らす私にできることは限られていますが、幸いなことに、こんな山奥にも光ファイバー回線が張り巡らされ、情報はあふれ返っています。ネットの海に漕ぎ出し、森友疑惑の核心に可能な限り迫るつもりです。元新聞記者として、何が至らなかったのか、深く自省しつつ。
≪参考サイト、記事≫
◎戦後の疑獄政治史
http://www.marino.ne.jp/~rendaico/seitoron/seijikasotuishi/sengoshi.htm
◎『サンデー毎日』(2017年3月26日号)の記事「森友疑惑は思想事件である 教育勅語と安倍政権の危険度」
◎上記の記事(毎日新聞のニュースサイトから)
http://mainichi.jp/sunday/articles/20170313/org/00m/040/003000d
◎『サンデー毎日』(2017年4月2日号)の記事「安倍首相を担いだ『保守ビジネス』 稲田防衛相、森友学園、田母神俊雄の交点」
◎上記の記事(毎日新聞のニュースサイトから)
http://mainichi.jp/sunday/articles/20170319/org/00m/070/004000d
◎毎日新聞のコラム「1強栄えて吏道廃れる」(伊藤智永編集委員、3月4日)
http://mainichi.jp/articles/20170304/ddm/005/070/003000c
≪写真説明とSource≫
◎森友学園の塚本幼稚園で園児に囲まれる安倍昭恵夫人
http://blog.goo.ne.jp/raymiyatake/e/f5b90bd8e3ab960b5bf0d8e648239e0f
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「森友学園が思想事件」だと言う指摘は、「加計学園」同様に「教育再生会議」に属して「育硼社」の教科書を採用する等の共通点や、籠池氏が家族ぐるみのお付き合いをしていた稲田朋美・龍示夫妻や関西保守会の重鎮で稲田氏の実父椿原氏は「日本会議」を通じ、親交が有ったと考えられます。
日本会議の構成メンバーに伊勢神宮を中心とする神社本庁や各種新興宗教も含まれ、その政治的目標は何故か安倍総理の祖父が私邸の隣に誘致した統一○会の政治組織たる「国際勝共○合」の政策目標・「第3次ジョセフナイ・アーミテージレポート」と内容を一にしており、創価○会と統一の噂を加味すれば、今回の一連の疑惑は「日本会議疑獄」・「伊勢神宮疑獄」・「創価統一疑獄」・「谷口靖春原理主義者疑獄」とも言える事件だと考えています。
国の行く末を憂い、まともな国に建て直す等と言いながら、やっている事は仲間内で私利私欲を肥やし、国有財産を私し、各種補助金でぼろ儲けを企む「亡国の輩」としか言い様が無い「シロアリ」振りを見せているのですが、、、。
要するに、戦前回帰を志向する保守層と呼ばれる連中は、「単なる隷米の売国奴」だと言う事です。