「独裁政権」に歯止めをかけるのは
安保法制が成立しました。自民と公明の与党が国会の圧倒的な勢力を握っているのですから、たとえ国民に不人気の政策であっても、政府が実現したいと思った制度は何でもできるということです。
もちろん、どの政権も世論は気にかけているでしょうし、安倍政権も同じだと思います。世論調査では、安保法制に対する国民の反応は厳しい者でしたが、内閣支持率は、それほど落ちていません。直近のNHKの世論調査では、内閣支持率は上昇していました。安倍政権が安保法制の強行突破をはかった理由は、あの調査結果にあったと思います。
「原発だって、安保法制だって、個別の政策では内閣の方針に反対が多いようだが、全体では内閣を支持している」。安倍首相は、そう思ったのではないでしょうか。
もっと直接的に、安倍首相の暴走に歯止めをかけることができたのは、自民や公明の与党ということになりますが、自民党の総裁選にみられるがごとく、もはや異論をはさめば、組織内では生きていけないということですから、結局は、首相の思うがままということになったのです。
まさに独裁政権ですが、考えてみれば、こうした構図は、日本の企業社会ではよくあることす。「物言えば唇寒し」とか、「空気を読む」とか、「言われなくても上の気持ちを忖度(そんたく)する」とか、日本的風土というのは、いったんトップが選ばれると、その人をチェックする機能が働かないようです。
安保法制で、どんな事態が考えられるのか。南沙諸島の領有権をめぐり、フィリピン、マレーシア、ベトナムなどの軍隊でと中国軍との間で戦闘が勃発。南シナ海が不安定になることは、日本の存立基盤を脅かす事態ですから、日本は米国の基づき、友好国であるフィリピンなどを支援するために自衛隊を派遣します。その結果、自衛隊と中国軍との間で戦闘が起こる。
この程度のことは予想される範囲ですが、自衛隊と中国軍との小競り合いが、日本と中国との戦争に発展するおそれは十分にあります。米国がどこかで介入して、事態を収めるのでしょうが、小競り合いの段階で止まらなければ、双方に大きな被害が出てからということになるでしょう。
私の勝手な想像ではなく、『安保法制の落とし穴』(ビジネス社)のなかで、元外交官の天木直人氏は、以下のように語っています。
「米国は中国と戦う気などさらさらない。それなのに、中国との戦争にみずから飛び込んでいこうとしているのが安倍首相なのです。自らの誤った歴史認識が原因で中国から批判されているのに、それに逆ギレした安倍首相が中国の脅威をことさらに言いたてて、自衛隊を強化して中国に対抗しようとしている。こんな馬鹿げたことはないが、米国にとってはこれほど好都合はない」
いささか乱暴な違憲かもしれませんが、実は同じような話が過去にあります。日露戦争が起きたときに、米シオドア・ルーズベルト大統領が「日本が我々に代わってロシアと戦ってくれた」と、親族に語ったというエピソードです。ルーズベルト大統領は、日露戦争を講話に導いた恩人ですが、その背後では、日露両国を戦わせて、双方の力をそぐとともに、どちらかを一方的に勝たせない、という冷徹な戦略もあったのでしょう。
国民の大部分が望まない日中の戦闘や戦争で、大きな被害が出た場合、私たちは、どこで間違ったのかと、自問することになると思います。安保法制は抑止力を高めるものだそうですから、こんなことにはならないと思いたいのですが、安保法制の問題点は、歯止めが利きにくいことです。
企業では、独裁政権の社長が亡くなったり、失脚したりすると、それこそ手のひらを返したように、「前社長の時代は異常だった」と、みなが言い始めます。そんな企業がどうなろうと知ったことではないのですが、日本という国で、そんなことになったら大変です。
いまの与党の議員を見ていると、「あのときは、上からの締め付けが厳してく、安保法制に賛成せざるをえなかった」などと、言い出しかねませんね。
イラク戦争は、大量破壊兵器が存在しなかったことで、戦争の大義はなくなりました。日本は米国の養成に基づき、小泉首相のもとで自衛隊をイラクに派遣しました。幸いにして自衛隊員の戦死者はなかったということで、誤った戦争への検証はあいまいのままに終わり、小泉首相は反原発を掲げたことで、ヒーローのような扱いです。
日本政府は、なぜ根拠のないイラク戦争に自衛隊を派遣したのか。この問題を国民が厳しく問うてきたなら、今日の事態は避けられたかもしれませんし、付和雷同の与党議員にも、もっと自主的な判断ができたかもしれません。
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