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神秘への挑戦「人体」 国立科学博物館特別展

2018.03.17 Sat
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人体 国立科学博物館特別展

平成30年 2018 3月
仲津 真治

恐ろしく混んでいた展示会でした。 この3月13日が初日で、平日というのに、押すな押すなの入りでした。 入るとまず高校生の群れに囲まれました。聞けば、学校からの指示による見学と言います。 それに、女性客の多いことにも気づきました。こうした理系の展示には珍しいと思いましたが、近年は所謂理系女の増加が著しいとの事情が背景にあるのでしょうか。

それに、ノートにメモをしている女性も何人か見かけましたので、「お医者さんですか?」と尋ねると「いいえ、研究者」との答えでした。生物系の研究に従事しているのかも知れませんね。

また、最近のNHK総合テレビの、ノーベル賞受賞者山中京大教授が主宰者である番組の影響かも知れませんね。この番組のことは展示でも紹介がありました。

それは、人体が中枢の脳からの指示で動き、反応していると言うのではなく、各臓器がむしろ自立してていて、その間でメッセージ物質の交換をし、遣り取りをしているというのです。 では、各器官の自律をまとめる、統一体としての生命体とはどういう所に現れるのでしょうね。更に疑問が深まります。

以下、順次、特に印象に残った点を記します。

1) 古代のギリシャ・ローマ、そしてルネッサンスより展示が始まります。最初の圧巻展示は、レオナルド・ダ・ビンチ(1452-1519)でした。

絵画で圧倒的に有名なダ・ビンチは、人体解剖でも実は大きな業績を挙げていて、著書「解剖手稿」を遺しており、その展示は結構ありました。 その解剖はさる病院で行われ、全身解剖に及ぶものの、取り分け、筋肉や関節を中心にその構造と機能の解明に先駆的な業績を残しています。ただ、その登場はいささか時代が早や過ぎたようです。

さすがのダ・ビンチも人体の機能に関して、血液等の循環までは、想いが至らなかったようです。また、他方、胃腸の働きに関し、摂取した栄養物を送っていく「蠕動運動」も認識できなかったようです。これらは、後年の各々別人の研究業績や発見による様です。

2 ) 解剖劇場

驚いたことに16世紀以降の近世には、「解剖劇場」と呼ばれる人体解剖を実示、公開するための円形・階段の教室が設けられています。これは、かなり普及していたことが分かっていて、ボローニァ(伊)、ライデン(蘭)、ウプサラ(端)などのヨーロッパ各地に何と実物が現存し、乃至レプリカが在ると言います。医学教育の普及と一般への熱心な啓発の在った事が知られます。写真を見て本当に圧倒されましたね。

3) ワックスモデル

蝋で出来た解剖遺体の模型です。
解剖用の遺体は、通常四日持って限度だと言います。 防腐剤の無い往事、防腐の措置は施しようが無く、解剖の諸措置と解明・研究は、この四日間ほどが勝負でした。 しかし、教育と研究それに啓発のニーズは高く、一方遺体の腐敗性を考慮して工夫されたのが、このワックスモデルでした。解剖が盛んだったボロー二ャの工房中心に作られ、日本にも輸入されて、今回の展示物にも入っています。人体外側の筋肉や血管だけで無く、中に入り、内臓・消化管などを表出しています。 十八世紀から十九世紀の作品の様です。

おおきいものでは等身大で男女各一体ありました。

4)  キンストレーキ ・・・ 張り子の人体模型

ワックスモデルは、非常に精巧な作りでしたが、高価で脆いという欠点が在りました。もっと軽く、解体や持ち運びに適したものが志向されました。斯くて工夫されたのが、紙で出来た張り子の人体模型でした。オランダで作られ、江戸時代後半の日本に入って、「キンストレーキ」と聞き取られ、その名で定着したようです。

このタイプのものは日本に四体入り、いずれも残っています。

今回、展示されたものを見ると、静脈が青く表示されていて、天然色では無く、当時から、こうした工夫が始まっていたことが分かります。

5)  進む人体理解・・・ハーベイの血液循環説

英国の医師ウィリアム・ハーベイ(1578-1657) は、優れた人体理解を究めました。当時の人体理解では、動脈と静脈が独立していて、しかも血液は末梢に至るまでの間に消費されると考えられていました。

しかし、ハーベイは多種の動物の生体観察と実験などから、血液が体内を循環しているという考え方に到達しました。これは、実験から理論を導き、学説を打ち立てると言う近代自然科学の方法を発展させた第一歩と言われている由です。

7)  レーベンフックの顕微鏡

当時、顕微鏡の発達は凄まじいものが在りました。
これを工夫し、持ち前の好奇心から、優れた自然観察をして、多大の貢献をしたのがレーベンフックでした。 彼は医師でも学者でも在りませんでしたが、顕微鏡の駆使と工夫により、大いに自然界や人体の理解に寄与しているのです。特に末梢の毛細血管がそうです。

なお、懸かる毛細血管が在るのは閉鎖血管系に於いてでして、動脈系から順次静脈系に移りゆく様ですが、対して開放血管系では動脈が終末に至ると組織に血液がそのまま浸潤し、やがて、各組織から集約されるが如く静脈に戻って行くのだそうです。将に生き物様々ですね。
8)  生体と構造の成り立ち・・・特に心臓に見る

所謂動物の内、哺乳類や鳥類と、その他の動物では大きく違うところが在ると申します。

これは進化の過程で生じた生体の構造や機能が、いろいろ形作られ、様々な動物を生み出し、相当程度現存種にも受け継がれている事を意味するようです。ざくっと言えば、哺乳類や鳥類は左系統の器官が生き残って発展し、右系統の器官が退化消失したと言います。 現に、我々自身、心臓は体の真ん中より左側に寄っていることを知っています。系統を比較すれば、進化が常に左右対称にいずれの側も進んでいるのでは無い事が分かります。

対照的な例として、原始魚類のシーラカンス、両棲類のオオサンショウウオ、爬虫類のオサガメなどの各種が展示されてました。これら動物は右系統の進化を遂げてきたようです。

ただ、生体の血液循環はいずれもポンプ役の一個の心臓が中心で働いているわけでして、その心臓は進化の過程で、一心房・一心室、二心房・一心室、二心房・一心室(大動脈二本)へと進展して来た由です。そして、哺乳類や鳥類では二心房・二心室に至っています。

9)  陸上動物たること 原尿から尿へ

人体の血管の総延長は太い大動脈から、毛細血管を経て、また太い大静脈に至るまで、実に約十万kmに達すると申します。地球の周囲の約二倍半と言う長さです。

これを簡略化して言うと、最後は腎臓で浄化・濾過され、尿として排出される分けですが(消化物は肝臓を中心に働いて、腸から便へ。 炭酸ガスなどは肺臓から呼気へ。)、この尿は所謂原尿の段階で約百五十リットルに達していると申します。

でも、最終的に尿として体外に排出されるのは、日量約1.5リットルに過ぎません。 これは、陸上で生きていく上で、基本的に水が貴重ゆえ、水分を体内に保たんとする働きの所産と言われます。

10) 脳神経系とヒトの進化

この展示では使われていませんでしたが、猿人と類人猿に分かれる前の進化の段階にある想定種を「祖型人類」と呼ぶ由です。 それは「A missing link」とも謂われ、人類学では今なお調査・探求が続くと聞きます。

この祖型人類から、ヒトの系統とチンパンジーなどの類人猿の系統が分かれたのが、約七百年前頃との事です。ヒトの系統を猿人と言い、その中から、約四百万年前に、「アウストラロピテクス属」が登場します。そして、その流れの中から、「ホモ・ハビルス」が現れ、原人の時代へと進みます。それは約二百万年前の事です。この原人から枝分れしたのが、私どもが習ったジャワ原人や北京原人などで、この系統は暫時姿を消します。

やがて約百数十年前、アフリカに生じた原人から起きた流れから旧人が生まれてきます。その流れを受け継いだのが、ネアンデルタール人で数十まん年前に登場、主にヨーロッパ・中東で繁栄しますが、後年姿を現した新人との競争に敗れ、数万年前には居なくなります。ネアンデルタール人は、新人より力が強く、体格が大きく脳容量も少し大きめでしたが、言葉がほとんど出来ず、意思疎通力が乏しかったと言います。

新人即ち現代人、ホモ・サピエンスは約二十万年前、アフリカに発祥、約数万年前に、同大陸から出た族がやがてほぼ全世界に拡大し、遂に各地に文明を築きます。そして、今日に及んでいる分けですが、この間のヒトの進化と、脳容量の変化の様子が展示されていました。

ネアンデルタール人とホモ・サピエンスを比較すると、その似た様が良く分かり、中東やヨーロッパで混住し、或る程度混血まで生じたと推定される事が認識されます。現に、DNA解析の結果、この混血が実証されていると申します。

想像図ですが、風貌を見ると、やや違うのはネアンデルタール人には、目の上の膨らみが眼窩状隆起のためか少し目立つことでした。 逆に歯の噛み合わせについて言えば、ホモ・サピエンスの方が少し上歯が出ている感がありました。斯くて、ネアンデルタール人の方はやや固いものをバリバリと噛み砕き、食する事が出来たと推定されますね。

11)  呼吸の本質・・・それは燃焼と言う、ラボアジェの一大功績

動物は呼吸します。 これを冷却のためと推定していた、往時の解剖学や生理学の見方に対し、その本質は燃焼であり、動物が外部から酸素を取り込んで、ある種の燃焼を行っていることを実験で示したのが、フランスの化学者ラボアジェでした。

解剖学者でも生理学者でもないラボアジェが、懸かる発見と知見に至ったのは、酸素と燃焼に関する、化学者としての認識を有しているからでした。重要な学問的業績が専門外からもたらされると言う良き例でしょう。

12) 縄文人の腹顔

今展示では、近年、北海道礼文島の「船泊遺跡」から出土したヒトの臼歯より、DNAを取り出し、その全ゲノムを特定して、腹顔した像が展示されていました。こんなことが出来るようになったのですね。

そのヒトは約三千八百年前に生存していた縄文人の女性で、その風貌は
二重瞼、黒髪、がっしりした印象を受け、黄色人種でした。端的に言えば、今日でも何処にでもいそうな女性像でした。

解説によれば、その両親のDNAは似ていて近親婚であることを物語っている由、また、糸魚川産の翡翠なとが遺跡から発掘されていることから、婚姻圏は狭く、交流・交易圏はむしろ広かったことを物語っているとの事でした。

13) アインシュタインの脳標本

驚きましたことに、今展示では天才物理学者アインシュタインの脳の標本と写真が在りました。

説明によれば、米国の医師トマス・ハーベイは、アルバート・アインシュタインの剖検を行った由、そして、その天才を解明するため、多くの病理学者に、脳の切片を配布したとのことです。その中で、新潟大学脳研究所に保管されている貴重な切片が今回展示された由です。

この脳の全体映像によれば、中央部で左右の脳半球を繋ぐ脳梁と言われる部分が、平均的男性より大きいとのことです。


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